
執筆:グローバルクリエイティブ&メディアリード ダンカン・サウスゲート
グローバルクリエイティブソートリーダーシップマネージャー ヴェラ・シードロヴァ
AI時代に問われる創造性のあり方
AIによってクリエイティブ制作と広告効果測定をこれまでにない規模で実現できています。一方で、その開発や活用には、人間らしい視点や発想を組み込むことが欠かせません。
生成AIの登場は、広告・マーケティング業界に大きな可能性をもたらす一方で、新たな議論も呼び起こしました。AIの活用によってコンテンツは画一化してしまうのか。それとも、人の創造性をさらに引き出し、新たな発想を生み出す原動力となるのか。業界では今もその可能性が模索されています。現在では実際に多くのマーケターやクリエイターが生成AIを活用するようになり、その可能性と限界を肌で感じています。AIの活用範囲は制作だけでなく、クリエイティブ評価にも広がっています。
では、マーケターはどのようにすればAIのスケールメリットを活かしながら、人間ならではのインサイトや創造性を損なうことなく、コンテンツ制作と評価の両方を実現できるのでしょうか。
AIがもたらすスケールの力
生成AIは、もはや実験段階の技術ではありません。多くのブランドが広告制作に積極的に活用しています。例えば、日本マクドナルドはデジタルアート系インフルエンサーと協業した広告を展開し、アメリカの玩具小売企業のトイザらス(Toys“R”Us)はOpenAIの動画生成AI「Sora」を活用してブランドの誕生ストーリーを制作しました。また、金融サービス企業eToroは、パリオリンピック期間中にAIビジュアルを活用したキャンペーンを展開しています。
現在、生成AIはクリエイティブ制作において主に二つの目的で活用されています。一つ目は、制作スピードの向上やコスト削減による効率化です。AIを活用することで、従来と同じクリエイティブをより速く、より低コストで制作できるようになります。そして、この効率化がもたらす最大の価値が「スケール」です。AIによって制作効率が向上すると、ブランドは同じリソースでより多くのコンテンツを制作できるようになります。
興味深いことに、単なる効率化だけでは広告賞の評価対象にはなりにくい傾向があります。高く評価されるのは、AIを使うことで初めて実現できる新しいアイデアや表現です。その好例が、2024年のカンヌライオンズで受賞したPedigree New ZealandとColenso BBDOによる「Adoptable」キャンペーンです。
Pedigreeは「犬のホームレス問題をなくす」というブランドパーパスを掲げています。このキャンペーンでは、保護施設で撮影された犬の写真からAIが3D画像を生成し、デジタル屋外広告にリアルタイムで反映しました。もしAIがなければ、こうした制作には多大な工数が必要になりますが、AIによって制作を効率化し、保護犬の認知向上と里親探しを大規模に支援することが可能になりました。
AIだからこそ実現できる新しい表現
AI活用事例の中でも特に評価されているのは、人間の優れたアイデアとAI技術を組み合わせた作品です。AIを単なる制作支援ツールとしてではなく、クリエイティブ戦略の中核に据えることで、これまでになかった体験や気づきを生み出しています。
例えば、Orangeの「WoMen’s Football」キャンペーンは、女子サッカーに対する固定観念を覆す作品として大きな話題になりました。作品のストーリー展開そのものがAI技術によって成立しており、視聴者自身の無意識のバイアスに気づかせる仕掛けとなっています。このキャンペーンはカンヌライオンズで10部門を受賞しただけでなく、Kantarの広告評価ソリューション「LINK+」でも、広告の楽しさと長期的なブランド力の両面でトップ1%に評価されました。
Deutsche Telekomの「A Message from Ella」もまた、AIを活用しながら視聴者との感情的なつながりを生み出した優れた事例です。
クリエイティブ評価もAIによって進化する
これまでKantarでは、キャンペーン素材の評価にアンケート調査とAIによる評価を組み合わせることで、ブランドがクリエイティブインテリジェンスを飛躍的に高められることをご紹介してきました。現代のキャンペーンでは、制作される素材の量が大幅に増えているからこそ、こうしたアプローチの重要性はますます高まっています。
しかし、効果測定にAIを活用する場面が増えるなか、クリエイティブ効果を検証するプロセスに、人ならではのインサイトと適切な管理をどのように組み込めばよいのでしょうか。また、制作プロセスにAIを取り入れる場合、制作に使ったアルゴリズム自身に“自己採点”をさせるのではなく、適切で客観的な測定の仕組みをどのように整えればよいのでしょうか?
優れたAIテストモデルの中核には、豊かな人間のインサイトがあります。LINK AIモデルは、約4,000万人へのインタビューに基づく、26万件以上の広告に関するKantarのLINK+調査インサイトを学習しています。そのためLINK AIは、ブランドの印象を残す力を示す「Branded Impact」、短期的な説得力を示す「Persuasion」、長期的なブランド価値を築く「Brand Power」など、Kantarが検証を重ねてきた多様なクリエイティブ指標を予測できます。これほど大規模な人間のインサイトを基盤とすることで、AIモデルに欠かせない精度、信頼性、安定性、そして結果を分かりやすく説明できる解釈性が実現します。
しかし、優れた検証実績や受賞歴だけで、AIに対する信頼が十分に得られるわけではありません。利用する人に安心感をもたらすには、具体的なケーススタディも必要です。さらに、モデルがどのように機能しているのかを理解できるようになるほど、その信頼は一層深まっていきます。
2024年に公開されたiPad ProのApple「Crush」広告は大きな批判を受けましたが、事前にLINK AIでテストしていれば、その反応はある程度予測できた可能性があります。LINK AIは、この広告について、ブランドとの結びつき(Branding)が低い水準(21パーセンタイル)、ブランドへの愛着(Affinity)も低い水準(30パーセンタイル)に留まると予測していました。その結果、長期的なブランド力を示す「Brand Power」も十分に高まらず、38パーセンタイルに留まると評価されていました。一方で、これに対するSamsungのGalaxy Tab S9広告は、広告の楽しさにおいて70パーセンタイルと高評価を獲得し、ブランドへの愛着(Affinity)は81パーセンタイル、長期的なブランド力(Brand Power)は74パーセンタイルとなり、Appleの広告を大きく上回る結果となりました。
AIによる診断指標がクリエイティブインテリジェンスを強化する
LINK AIはこれまでも、クリエイティブ効果を予測するために20,000を超える指標を分析してきました。現在そのなかでもおよそ50の項目を主要な診断指標として、LINK AIのレポート上で確認できるようになりました。これらの指標には、「ブランドの存在感(Brand Presence)」や「広告のテンポ(Pace of Ad)」、「人物の顔の登場(Human Face Shown)」といった具体的で分かりやすい要素に加え、「ユーモア(Humour)」のような抽象的な要素、さらには「サステナビリティ(Sustainability)」のような、より高次の概念まで含まれています。

これらの「クリエイティブタグ」は、個々の広告の分析を支援するだけでなく、大量の広告を対象としたメタ分析においても大きな力を発揮します。広告主はブランド独自のクリエイティブにおける成功法則を見極められるようになり、媒体社は各プラットフォームの特性に応じたクリエイティブの学びを導き出せます。重要なのは、これらのタグによって予測アルゴリズムがどのように機能しているのかという“ブラックボックス性”が軽減されることです。これにより、マーケターはAIの判断に対する安心感を得られるだけでなく、広告をどのように改善できるかについて具体的な診断情報も得ることができます。
その結果、マーケターはAIがどのようなプロセスで結論に至ったのかを気にするのではなく、得られたインサイトをどのように実際の施策へ活かすべきかに、より集中できるようになります。たとえば、広告素材を再編集するのか、あるいはメディアへの投資配分を増減させるのかといった、実践的な判断に注力できます。
2024年のUEFA欧州選手権(Euro 2024)では、KantarはLINK AIを活用して大会期間中に展開された広告の効果を評価・分析しました。その中で総合的に最も優れた広告として評価されたのが、フランスで展開されたUber Eatsの広告でした。この広告は、著名人の訴求力にユーモアと商品デモンストレーションを巧みに掛け合わせ、Uberのサブスクリプションを利用すれば、不要な配送料を回避できることを、印象的に伝えています。

AIが生成するクリエイティブタグの潜在的なリスクとして、広告会社が「すべての項目を満たすこと」だけを目的に、型にはまった広告を制作してしまう可能性があります。しかし、LINK AIではこうした落とし穴を回避しています。クリエイティブタグはあくまで診断や、広告に対する反応の背景を説明するために活用されるものであり、モデル自体はより広範な要素を分析しながら、広告が実際にどのような効果を発揮するかを総合的に予測しています。
また、どれほど高度なAI予測エンジンであっても限界はあります。Kantarのクリエイティブエキスパートは、こうした結果の解釈についてクライアントを支援してきた豊富な経験を持っています。AIモデルが反応パターンを理解し予測するためには、十分な過去データに基づく学習が不可欠です。特に、人間であれば容易に理解できるものの、AIにとって解釈が難しいクリエイティブ要素も存在します。例えば、間接的なユーモア、複雑なアイデアや比喩表現、そして文化的なニュアンスなどです。LINK AIは、登場人物の言動や演出など、ユーモアにつながる要素を捉えることはできますが、地域特有の文化的背景に基づくジョークを完全に理解できない場合があります。このようなケースでは、人間による解釈が重要な役割を果たします。
AIによる広告評価は、大量のクリエイティブを効率的に分析し、これまで以上の規模でインサイトを提供するために活用されています。一方で、人による評価も引き続き重要です。特にブランドの象徴的な広告資産(ヒーローアセット)、大規模な広告投資を伴うキャンペーン、ブランド立ち上げや大規模なブランド再構築といったリスクの高いクリエイティブ施策では、人間による検証が継続して行われています。
そして、この考え方は、広告制作の過程でAIが使われたかどうかによって変わるものではありません。広告がAIを活用して制作されたからといって、その広告の効果をAIによる予測モデルが評価できなくなるわけではないのです。
広告効果を次のレベルへ
AIをクリエイティブ制作に活用したとしても、広告表現が画一化するとは限りません。むしろ、創造的に活用することで、AIは単なる効率化ツールにとどまらず、新しい発想や表現を生み出す可能性を広げます。同様に、AIによるクリエイティブ評価も、型にはまった広告づくりを促すものではありません。AIは大規模な評価・分析を得意としており、評価対象が増えるほど、キャンペーン成果の向上につながる新たな発見や、より深いインサイトを得られる可能性が高まります。
重要なのは、人のインサイトと適切な管理を、開発、運用、分析のすべてのプロセスに組み込むことです。そして、AIツールの強みや限界、能力を正しく理解し、その価値を最大限に引き出すことが求められます。LINK AIは、こうしたアプローチを実現し、広告効果の向上を支援します。LINK AIの詳細や活用方法について知りたい方は、ぜひこちらからお問い合わせください。
※本記事はKantar Globalが公開した記事をもとに日本語訳・編集したものです。
原文(英語)はこちら:Creative excellence at scale: AI-led acceleration with a human touch
【本件に関するお問い合わせ先】
- – ディレクター、ヘッドオブグロース&マーケティング 小川朋子
- – E-mail:marketingjapan@kantar.com