ブランド成長を導く「意義のある差別性」
― 感情的価値が生み出す長期的なブランド価値とは 



執筆:ブランド戦略ソリューション、ニードスコープディレクター マイルズ・ジョージ  
 


感情が生み出す長期的なブランド価値 

オートリーやパタゴニアのように、チャレンジャーとして成功を収めたブランドは、他社との「差別化」が大きな力になることを、マーケターの多くが直感的に理解しています。競合にない価値の提供や独自の企業理念を掲げるだけでなく、既存の常識を打ち破る形で市場に現れることで、消費者に驚きや気づきを与えているのです。

しかし、違いを生み出せるのは、一部の異端的ブランドに限られるものではありません。主流ブランドであっても、戦略的に差別化を図ることは可能です。技術革新を追求するアップルのような企業だけが「違い」をつくれるわけではなく、実際に多くの有力ブランドが差別化を実現しています。カンターのブランドエクイティ(ブランド資産価値)データ「BrandZ」と購買行動データを分析した結果、「意義のある差別性」を実現しているブランドは、そうでないブランドに比べてブランド浸透率が約5倍になることが明らかになりました。ブランド価値向上の実証的な裏付けです。

一方で、機能的に似通った商品・サービスが並ぶカテゴリーでは、差別化の実現が一段と難しくなります。このような状況で競争力を高める有効な手段の一つが、感情面のニーズへの応答です。BrandZのデータは、感情訴求が明確なブランドほど他社との差別化に成功していることを示しています。 




明瞭な感情訴求が差別性にもたらすインパクト

高い感情訴求力はブランドの差別化に大きな影響を及ぼします。特に、長期的な視点でその効果は顕著です。2006年のカンターのBrandZグローバルランキングにランクインしたブランドを振り返ると、約半数のブランドが現在もその地位を維持しています。これは、長期的に成長を続けてきたブランドであることを示すものです。興味深いのは、現在もランキングに残っているブランドが、ランキングから脱落してしまったブランドと比べて感情訴求の明確さが約2倍高いという事実です。これは、消費者との感情的なつながりがブランドの持続的な価値向上に寄与していることを裏付けています。

この点を象徴する好例が、ビールブランド「コロナ」です。コロナは2006年のBrandZグローバルランキングに登場し、20年以上にわたって上位にとどまっています。クラフトビールが脚光を浴びるビール市場にあって、老舗ブランドが長期にわたりその地位を維持していることは特筆に値します。 


コロナは、主流ブランドとしての地位を保つと同時に、「意義のある差別性」を実現してきたブランドでもあります。その背景には、商品自体の魅力にとどまらない、感情面での強い訴求があるのです。

では、感情はどのようにブランドの差別化に当てはまるのでしょうか。

下の図で示されているのが、カンターが提唱する感情ポジショニングの枠組み「NeedScope」です。このモデルは、人間に普遍的に見られる感情を基軸に、ブランドが競合との違いを生み出すポジショニング領域を整理するためのものです。NeedScopeは、消費者がさまざまな場面で感じることの多い基本的な感情を6つの区分で整理しています。ビールというカテゴリーにおいては、消費者が主に「人との交流や社交の瞬間にどのような気持ちでありたいか」という観点が重要になります。したがって、どの感情領域を起点にするかは、ブランドごとに異なるはずであり、実際にそのようであるべきです。

一方で、多くの主流ビールブランドは、人と人との絆やつながりといった感情を前面に押し出す傾向があります。NeedScopeの色分けで言えば、オレンジやブラウンの領域に対応する感情訴求が“本拠地”になっているのです。これに対して、プレミアムビールブランドは紫色の領域に象徴される「洗練」や高付加価値観に立脚し、クラフトビールのブランドは青色の領域を足がかりに、選び抜かれた価値やこだわりを訴求する傾向が見られます。 


先に述べたように、ビールの消費は単なる飲用行為ではなく、人と人の交流の瞬間に強く結びつきます。主流のビールブランドは、こうした「つながりの場」で定番商品として選ばれることを重視しており、そのために交流の瞬間に訴求する表現を広告でも多用しています。具体的には、集う人々の快活さや親密な関係性といった感情を前面に打ち出すことで、ブランドと生活者の結びつきを強化しようとしています。こうした戦略が主流ブランド広告に共通して見られる背景には、日常の社交シーンでの「共有体験」をブランド価値につなげたいという狙いがあります。その典型例として挙げられるのが、中国の老舗ビールブランド、青島(チンタオ)ビールの広告です。

人々が集まり、笑顔で乾杯する場面を描くことで、単なる商品訴求にとどまらないブランドの感情的価値が伝えられています。主流ビールブランドが描く「つながり」の感情訴求は、非常に明快で訴求力のある表現です。しかし、同じ感情領域を多くの競合が争う過密状態にあることも事実です。このような状況で、特定のブランドが差別化を図るにはどうすればよいのでしょうか。その具体例として、ビールブランド「コロナ」のケースをあらためて見てみましょう。

コロナはNeedScopeモデルの中で、競合が比較的少ないセグメントを戦略的に選び、独自のポジショニングを確立する道を選びました。ブランドの独特のロゴや王冠をモチーフにした書体、メキシコ発祥という背景、そしてビーチをテーマにした広告など、豊富なブランド資産を持っています。中でも「ライムのくし切り」といった象徴的な演出は、ブランドの記憶を喚起する有力なフックとなっています。

しかし、これらの表層的な要素以上に重要なのは、感情面でのポジショニングです。文字どおりのビーチのイメージではなく、心象風景としての「気楽さ」「開放感」「くつろぎ」といった感情を想起させることこそが、コロナの差別化戦略の核心です。この感情的価値は、人々がどのようなシーンでそのブランドを手に取りたいかという消費者の期待に直接応えるものとなっています。 


ブランドが消費者に対し効果的に感情訴求するための3ステップ: 

1. ブランドにとって最適な感情を選ぶ

差別化を図るには、ポジショニングの核となる感情をシンプルに定めることが重要です。基盤となる感情が明確であれば、ブランドが他と異なる価値を提供していることが消費者に伝わります。コロナは「気楽で生き生きとした感情」に軸足を置き、NeedScopeモデルの黄色領域を起点しています。この明確な感情選択が、主流ブランドの典型的なポジションとは一線を画す差別化につながっています。 

2. 機能的価値を感情的価値へと昇華する

ブランドが提供する感情的価値は、すべてのブランド要素を通じて一貫して伝わることが重要です。これを構造的に理解するための枠組みが「ベネフィットラダー」です。ベネフィットラダーとは、消費者との各接点が階層的に結びつき、互いに強化し合う仕組みです。コロナの場合、消費者が触れるベネフィットは以下のように積み上がっています。 

  • 商品ベネフィット:マイルドで爽やかな飲みやすさ 
  • 透明なボトル:ビールの色を際立たせ、視覚的な魅力を強調
  • くし切りのライム:飲むたびに爽快感を喚起するアクセント
  • 「ビーチ気分」の演出:ベネフィットラダーの最上位では、コロナはブランドの核となる感情的価値を体現 


3. 一貫して実行する

マーケターの中には、同じクリエイティブ手法を使い続けることに疑問を抱く人もいるかもしれません。しかし、カンターの調査によれば、本当に独創的な表現やブランド資産は容易に色あせるものではありません。むしろ一貫して使い続けることが、認知と価値の蓄積につながります。コロナの広告キャンペーンは、その典型例です。長期間にわたり同じメッセージと価値観を守り続けたことで、「ビーチ=コロナ」という感情的ポジショニングが消費者に定着しました。この一貫性こそが、ブランドの差別化と長期的な価値創出の基盤となっているのです。

 

一貫性を保つことの重要性

ポジショニング戦略で最も重要なのは、差別化のポイントを慎重に見極めることです。違いを打ち出すと言っても、必ずしも新しさを追い求めればよいわけではありません。一貫した感情的価値を継続的に発信し続けることでこそ、ブランドらしい独自性は強化されます。

ブランドは確かに時代の変化に応じて進化する必要があります。しかし、感情面での基盤を力強く築き上げ、そのメッセージを持続的に発信し続けることこそが、色褪せない価値を生み出す源泉となります。一貫した訴求は、消費者の記憶に深く刻まれ、長期的な支持と信頼を獲得するための強力な資産となるのです。
 


※本記事はKantar Globalが公開した記事をもとに日本語訳・編集したものです。 
原文(英語)はこちら:A different route to growth


 【本件に関するお問い合わせ先】

  • – ディレクター、ヘッドオブグロース&マーケティング 小川朋子
  • – E-mail:marketingjapan@kantar.com
        


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