
執筆:カンターBrandZソートリーダシップディレクター グラハム・ステイプルハースト
ブランド成長を事前に予測する
マーケティングを取り巻く環境は、かつてないほど複雑になっています。新たなブランドが急速に存在感を高める一方で、市場をリードしてきたブランドが勢いを失うケースも珍しくありません。しかし、そのような変化の激しい時代においても、長期的に成長を実現するブランドには共通する特徴があります。それは、強いブランドエクイティを築いていることです。
カンターは、BrandZ(ブランジー)が保有する世界最大級のブランドデータベースと、「Blueprint for Brand Growth」のフレームワーク、さらに生活者の行動データを組み合わせることで、ブランド成長のメカニズムを継続的に分析してきました。そこから見えてきたのは、ブランドの成長は偶然によって生まれるものではなく、測定し、追跡し、そして予測できるものであるという事実です。多くのブランドにとって、将来の成長はすでに兆しとして表れ始めています。その“これから起こる変化”を可視化する独自の先行指標――それが「フューチャーパワー」です。

ひとつの重要なシグナル
フューチャーパワーは、カンターのMDS (Meaningful: 意義性、Different: 差別性、Salient: 想起性)フレームワークの中でも、将来のブランド成長可能性を示す重要な指標です。ブランドエクイティと現在の市場規模との関係性を分析することで、消費者の認識と市場での実績との間にあるギャップを可視化します。
その本質は、ブランドの「成長への準備度」を測ることにあります。現在のブランド規模に対してブランドエクイティが高い場合、そのブランドには将来の成長を支えるポテンシャルが蓄積されていると考えられます。一方、ブランドエクイティが期待値を下回る場合は、将来の成長に向けて課題を抱えている可能性があります。なぜこの視点が重要なのでしょうか。それは、ブランドの成長は単に市場の浸透率や認知の拡大によって生まれるものではなく、消費者からの「選ばれやすさ」から生まれるからです。この状態を「ブランド選好(Predisposition)」と呼び、消費者がそのブランドを試したい、選びたいと感じる心理的な下地です。フューチャーパワーは、こうした将来の需要につながる兆候を捉える指標です。現在の消費者認識と将来の事業成果との間に存在するギャップを定量化することで、まだ顕在化していない成長可能性を可視化します。
多くの場合、フューチャーパワーは大きな成長を遂げるブランドに共通する「初期シグナル」として現れます。まだ購入経験のない消費者であっても、そのブランドに対して好意や期待、信頼を抱いている状態が形成されているからです。その結果、流通の拡大やマーケティング投資の強化といった成長機会が訪れた際に、ブランドは成長を加速させることができます。消費者の中では、すでにブランドを選ぶ準備が整っているのです。
では、この20年で市場とカルチャーの双方に大きな影響を与えてきたブランドを見てみましょう。テスラ、TikTok、エヌビディアといったブランドは、現在のような存在感を確立する以前から、その規模を上回るブランドエクイティを有していました。実際に、これらのブランドの成長ポテンシャルは、財務指標や市場シェアに反映されるよりも前の段階で、フューチャーパワーの中に明確な兆候として現れていました。
一方で、フューチャーパワーが低いブランドは、成長の停滞や競争力の低下に直面するリスクが高まります。その背景には、ブランドが「意義のある差別性(Meaningful Difference)」を十分に構築できていないことがあります。消費者にとって選ぶ理由が明確でなければ、将来の成長を支えるブランド選好は形成されません。結果として、新たな需要の獲得や市場拡大につながる好循環を生み出すことが難しくなります。

ブランドの「勢い」が成長をもたらす
フューチャーパワーの高いブランドは、認知の拡大と「差別性」の高いブランドイメージの構築を通じて、消費者に選ばれる可能性が高くなります。この「ブランド選好」は一朝一夕で形成されるものではありません。消費者との接点や体験を通じて時間をかけて蓄積され、ブランドに対する記憶や期待、信頼として定着していきます。
こうした「ブランド選好」が形成されると、ブランドは消費者とのあらゆるタッチポイントにおいて優位性を発揮します。消費者にとって親しみやすく、違いが明確で、自然に想起される存在となるためです。その結果、フューチャーパワーの高いブランドは、新規顧客の獲得やコンバージョンの向上に加え、マーケティング投資の効率向上にもつながる傾向があります。購買の意思決定が行われるときに、すでにそのブランドを「選ぶ理由」が消費者に明らかだからです。
この視点は、とりわけ小規模ブランドやチャレンジャーブランドにとって重要です。小規模ブランドやチャレンジャーブランドは、リーチや認知度の面で大手ブランドに及ばないことも少なくありません。しかし将来の成長を左右するのは、現在の規模そのものではなく、そのブランドを知る人々にどれだけ強い関心や期待を抱かせることが出来るかによります。
フューチャーパワーの影響は成長中のブランドだけにとどまりません。成熟した大規模ブランドにとっても、フューチャーパワーは将来の成長を予測する重要な指標となります。現在の業績が堅調であったとしても、フューチャーパワーの低下は、消費者から見たブランドの「意義性」や「差別性」が弱まりつつある兆候かもしれません。逆にフューチャーパワーのスコアが上昇している場合は、ブランドの魅力や競争力が強化されている可能性を示しています。
つまり、フューチャーパワーはブランドの成長ステージを問わず有効な指標です。新興ブランドにとっては成長の可能性を示し、成長ブランドにとってはさらなる拡大の余地を示し、成熟ブランドにとっては将来の競争力を維持できているかを確認するためのシグナルとなります。
カンターの「Blueprint for Brand Growth」においても、フューチャーパワーの高いブランドは新たな成長機会を見出しやすいと考えられています。それは、新たな利用シーンの創出、新商品や新サービスの展開、新たな顧客層へのリーチ、さらには隣接カテゴリーへの拡張など、さまざまな形で成長機会として現れます。
ブランド成長に必要なマーケティング指標
フューチャーパワーは、カンターのブランドトラッキングおよびブランドエクイティ調査に組み込まれており、時系列での変化を継続的に把握しながら、マーケティング活動との関連性を評価することができます。単なるモニタリング指標ではなく、具体的なアクションにつなげることができる実践的な指標です。
また、フューチャーパワーを「Blueprint for Brand Growth」やブランド固有のドライバーモデルと組み合わせることで、どの要素が将来の成長を最も力強く後押しするのかを明らかにすることができます。差別性をさらに強化すべきなのか、商品の機能価値を高めるべきなのか、あるいは消費者との感情的なつながりを深めるべきなのか。フューチャーパワーは、そうした戦略的な意思決定の方向性を示す重要な指標となります。
ブランド成長は、まず市場で起こるのではなく、人々の心の中で始まります。消費者の認識や期待、選好が変化し、その積み重ねがやがて市場成果として現れます。フューチャーパワーは、この目に見えない変化を可視化し、ブランド戦略と結びつけることを可能にします。
フューチャーパワーを理解し活用することで、ブランドは「成長を説明する」だけでなく、「成長を予測し、構築し、加速させる」という新たな役割を担うことができるのです。
【本件に関するお問い合わせ先】
- – ディレクター、ヘッドオブグロース&マーケティング 小川朋子
- – E-mail:marketingjapan@kantar.com