
【戦略篇 その3】MDS指標を用いたポートフォリオ戦略(第5回)
(3−3)市場競争力が高いブランドは消費者にとって価値が高く感じられる
MDSマップでの左上象限=意義性は低いが差別性が高いブランドには市場競争力があり「勢い」があることを前回説明しましたが、今回はそのような競争力が高いブランドは消費者にとって価値が高く感じられるということを説明していきます。
マーケターのためのブランド戦略 連載講座
ブランドのポートフォリオは何をゴールにして、どのように管理すればいいのか?
【戦略篇】MDS指標を用いたブランドポートフォリオ戦略の考え方
<目次>
(3−3) 市場競争力が高いブランドは消費者にとって価値が高く感じられる
● 意義性が低くてもブランドの価値は上げられる
● 差別性はブランドの価値に大きな影響を与える
● 「意義のある差別性」を強めることで、ブランドの価値はさらに高くなる
● 「意義のある差別性」強化における意義性の「勢い」
● 「意義のある差別性」が「専門家向けブランド」の高価格を正当化し、価格が高くても手を出しやすくする
● 「マニア受けするブランド」のプライシングパワー強化には、ユーザー/非ユーザーの2極化の解消が不可欠
● 「マニア受けするブランド」の非ユーザーからの偏見は「リフレーミング」で解消する
● 認知も配荷も低い「顔だけはわかるブランド」の意義性は伸ばしにくい
● 差別性でお金を稼げるようにする、売上成長の推進力は意義性の強化
● もしプライシングパワーが強化できないなら、価格を下げて「価格以上の価値」を高める
● 充分な収益があることが経営鉄則であるように、ブランドに充分な魅力があることが消費鉄則
意義性が低くてもブランドの価値は上げられる
【基礎篇】ではプライシングパワーと知覚価格という2つの概念をマップ上の2軸に置いて、消費者がブランドに感じることができる「価値」について説明しました。このプライシングパワーマップを使って、ブランドの価値という観点で左上象限の(差別性は強いが意義性が弱い)ブランドは消費者にどのように映っているのかを見てみます。
下図の右上にある緑の点は、これまで見てきた「シンボル/スターブランド」で、これら市場優位性を持つブランドは横軸の知覚価格でも縦軸のプライシングパワーも高く評価されており、「高い価格に見合った価値あるいはそれ以上の価値」を持つと評価されています。

差別性はブランドの価値に大きな影響を与える
上の図では、意義性は低いが差別性が高い「気になるブランド」や「専門的なブランド」は、「シンボル/スターブランド」に次いで縦軸のプライシングパワーが高く評価されていることがわかります。また、これらのブランドは横軸の知覚価格は高水準(右象限)にあります。
さらに、「顔はわかるブランド」「マニア受けするブランド」もギリギリですが価格と価値の高い象限にあり、ブランドの価値という観点で言えば差別性が重要な役割を果たしていることが判ります。
どうして差別性がブランドの価値に影響できるかは、ラグジュアリーブランドのようにカテゴリー関与度が高いケースを考えるとわかりやすいと思います。このようなときの関与度というのはワクワクして気分を上げたり、高望みして承認欲求を充たしたいといった、人々が持つ「願望=アスピレーション」に深く関連します。このように人々の願望を高く満たすブランドは当然、人々が感じることができる価値も高くなります。そして、この願望を「他と較べてより多く満たすことができる」のが差別性の高いブランドです。承認欲求という点で言えば、「他よりも流行の先端」とか「今一番流行っている」ということも差別性につながります。

「意義のある差別性」を強めることで、ブランドの価値はさらに高くなる
とはいえ、差別性の他に意義性も高い「シンボル/スターブランド」と「気になるブランド」の方が、プライシングパワー(縦軸のブランドの価値)はより高くなっています。つまり、差別性に意義性が伴って「意義のある差別性」となっている方が、ブランドの価値はさらに高まるということが言えると思います。
この場合も、願望充足という観点から説明できるのですが、「意義のある差別性」の場合は下図のように、実際の使用体験から生じた不満(もっと良くしたいという願望)を解消するのに差別性が作用することで、ブランドの価値=願望充足が高まります。

承認欲求のような願望は、ふわふわとして野心と同じく際限のない欲求(ぜいたくや高級品は一度味を覚えると飽きることがない)ですが、「意義性」が伴った願望(差別性)はもう少し「地に足がついた」説得力を持ちます。例えば、結婚記念日を忘れられない最高の思い出にするために、高級フランス料理店を選ぶというのは願望に「意義性」が伴っています。そのフランス料理店ブランドが持つ他の店では味わえない「差別性」が求めている「意義性」の体験価値を高めてくれると期待することができます。
「意義のある差別性」強化における意義性の「勢い」
意義性の強化を考える際、意義性の指数だけでなく「勢い」=知名度から期待される意義性の期待値とのギャップもチェックしておいた方がいいことを前回説明しました(第4回)。指数が低くても「勢い」があれば強化しやすいからです。前回の説明で使用した「意義性の指数と勢い(期待値とのギャップ)」グラフを下記に再掲します。

「気になるブランド」の意義性は指数(横軸)も勢い(縦軸)も平均的であり、個性的で強い差別性に対して意義性は『普通』でしかないことを示しています。また「顔はわかるが名前が出ないブランド」の意義性は指数も勢いも低水準であり、ちょっと目立つような差別性があってもその特長がブランドに活かされていません(顔は特徴的なのでなんとなく覚えているが、名前まで出てこないから指名されず素通りされる状態に陥っている)。
それに対し、「専門的なブランド」と「マニア受けするブランド」の意義性は指数に対して「勢い」の方が高いのが特徴です。指数に対して勢いの方が高ければ、今後指数も伸びる可能性が高いといえます。「専門的なブランド」も「マニア受けするブランド」も、既に意義性を高く評価してくれるユーザー(専門家またはマニア)の支持が「勢い」となって表れているわけで、そこで評価されているポイントをよく理解した上で、少数派支持が多数派支持に変わるような工夫を加えることで「意義のある差別性」を高めることができます。
このように、もし意義性に「勢い」が見られるのであれば、それをチャンスと考え意義性を伸ばす施策を考えるといいと思います。意義性というのはユーザー数が増えれば上がる指数なので、意義性の強化は売上に即効性があります。それ故、もし意義性強化のチャンスがあればすぐに動いた方がいいと思います。
「意義のある差別性」が「専門家向けブランド」の高価格を正当化し、価格が高くても手を出しやすくする
例えば、プロの調理人が使うような高級包丁を例に考えてみましょう。家庭で自炊に包丁を使うだけの素人にとっては、オーバースペックで価格も高すぎると思われてしまう「専門的ブランド」になります。切れ味など価格が高いだけの性能を備えており、差別性の高さも価格の高さも十分に納得できるのですが、大抵の人にとってはその包丁を使う意義は感じません。
ところが『プロが使う包丁を使うと、手間暇をかけず毎日の料理の味が格段と引き立つ』というリポジショニング(リフレーミング)を行うことで、プロの料理人でない人にとっての意義性も高めることができます。ここに『厳しい修行を積んでいる一流の料理人が、見栄えや趣味だけで高い道具を使うはずはなく、そこには何か素人にも役立つ合理性があるはずだ』といったヒューリスティックをうまくサポートするRTB(Reason To Believe:信じられる根拠)を加えてあげれば、効果もかなり上がります。
素人でも一流料理人と同じような味が『包丁を変えるだけで』だせるのであれば(あくまでもフレーミングであってもちろん科学的に証明された事実とは限りません)、高い価格であってもそれ以上の価値を感じさせてくれます。何故ならこれまで使っている包丁には(価格は普通だが)、味や腕が上がる便益を訴求してくれなかったからです。更に言うと、『包丁を変えるという簡単なことだけで味が変わる』というシンプルなことにこれまで気が付いていなかった失態の『不利益』に対しプロスペクト理論が作用し、『いい包丁に変えなきゃ』という動機を促進します。
下図は今回の冒頭で説明したプライシングパワーマップの再掲となりますが、横軸の知覚価格と縦軸のプライシングパワーで回帰直線を求めたものです。回帰係数がR二乗で0.86ありますから、ブランドの価値(プライシングパワー)というのは(知覚)価格の影響を受ける=価格が高いものは価値も高いと思われやすいということを示しています。

しかしながら、「専門的なブランド」のようにこの回帰直線より下方にある場合は、『価格の高さほど価値が感じられていない』ブランドとみなされており、当然のことながら多くに消費者にとって魅力はありません。
『高級包丁』のリフレーミングの例は、プロの料理人ではない人にもこのブランドの価値(プライシングパワー)を上げることを意味します。それまでプロ用の包丁なんて値段が高いだけで自分には無縁だと思っていた多くの消費者に、価格は高いけどそれだけの(あるいはそれ以上の)価値があると認識を変えることに成功すれば、ブランドの位置は上図の回帰直線を上回るようになります。
「意義のある差別性」を高めることの狙いと効用はこうした点にあります。
「マニア受けするブランド」のプライシングパワー強化には、ユーザー/非ユーザーの2極化の解消が不可欠
ブランドの価値という観点で、「専門的なブランド」以外のブランドももう少し見てみましょう。先ほどのプライシングパワーマップで青色に表示された、差別性の強さを特長とするブランド群の中でも「マニア受けするブランド」と「顔だけはわかるブランド」は縦軸のプライシングパワーが「専門的ブランド」を下回っており、指数平均程度しかありません。
この内で「マニア受けするブランド」は横軸の知覚価格も低いので、結果的に「価格に見合った価値」が受け入れられているように見えます。しかしながら、「マニア受けするブランド」で気を付けなければいけないのは、すでに説明した通りのユーザー/非ユーザーの両極化です。両者を合算した結果が指数平均程度ということは、ユーザーでは平均よりも高い評価が得られているのですが、非ユーザーでは平均以下の評価しか得られていないことになります。
この非ユーザーからの低い評価を解消しない限り、「マニア受けするブランド」は大きく成長することはできません。非ユーザーに対しリフレーミングを行うことでブランドに「意義のある差別性」を感じてもらい、プライシングパワーを高める必要があります。
「マニア受けするブランド」の非ユーザーからの偏見は「リフレーミング」で解消する
既に期待値とのギャップのところで説明しているように、「マニア受けするブランド」の意義性には「勢い」があり、ユーザーに評価されている便益を非ユーザーにも理解してもらえるようにリフレーミングすることで、ブランドの意義性を高めることができます。先ほどの「専門的なブランド」にも似ているのですが、特定の人には高く評価されるのにそれ以外の人には「食わず嫌い」で嫌われるという“捻じれ”を解消しない限りブランドはこれ以上大きくはなれません。
「専門的なブランド」のように専門家向きと区別されてしまう“捻じれ”は仕方ないとしても、専門家でもない同じようなレベルの人々の間で“捻じれ”が生じてしまうのは奇妙なことだと思います。前回(第4回)でも触れたように、このような“偏見”はリフレーミングを行って是正していく必要があります。ただし、このような“捻じれ”が生じてしまったことをハンディキャップのように捉えるのではなく、ブランドの伸びしろとしてポジティブに考えたほうがいいと思います。“捻じれ”を仕方ないとして受け入れてしまったら、そのまま“偏見”として定着化してしまうからです。
リフレーミングの実施の仕方については前回(第4回)にサブウェイを例にして説明しているので、そちらを参照してください。
認知も配荷も低い「顔だけはわかるブランド」の意義性は伸ばしにくい
知覚価格は実勢価格ではなく消費者のパーセプションに基づいています。なので、「顔だけはわかるブランド」の知覚価格の高さは実勢価格に基づいているのか、それとも実勢価格とは無関係に消費者パーセプションだけでそうなっているのかは、ブランド毎に実際に確認しないとわかりません。
差別性がありそう=他とは違う特長が何かありそう=値段もそれなりに高いのだろう(=でも、自分は選ぼうと思わないから詳しくはチェックしていない)という単なる消費者のパーセプションだけかもしれません。あるいは、「顔だけはわかるブランド」のように知名度・人気・配荷が小さく必然的に販売ボリュームが限定される場合は、価格を高めにして販売収益や小売りマージンを上げるのはマーケティングの定石なので、実際の実勢価格も高い可能性もあります。
いずれにせよ、【(3-2):市場競争力を持つブランドに適した戦略】の前半(第3回)でみたように「顔だけはわかるブランド」は認知も配荷(フィジカルアベイラビリティ)も低いので、これから意義性を上げていこうとするには大きなハンディがあります。逆に言えば、そういう環境下で差別性が高く評価されていること自体が、ブランドの大きな強みだとも言えるのですが、差別性への評価が知覚価格(パーセプション上)の高さに正当な理由を与えていると思われている場合、正当に評価してもらえていることはいいことなのですが、これまで「専門的なブランド」や「マニア受けするブランド」で見てきたように、なまじ差別性が強いと、消費者が、自身とブランドに距離があるように感じられる危険性があるので注意が必要です。
ブランドに興味を持たせトライアルさせるためには、価格が高い正当な理由(差別性)だけではなく、自分に向いていると思わせる「意義性」が必要なのです。そしてトライアルによって「意義のある差別性」が体験価値として確認されることで、価格以上の価値を感じさせるプライシングパワーが高まることになります。
差別性でお金を稼げるようにする、売上成長の推進力は意義性の強化
市場競争力=差別性が高い(ブランドタイポロジーマップの左上象限)ブランドは、その特徴である差別性を活かして意義性を強化して、その「意義のある差別性」で市場優位性の獲得を目指すべきです。そして、意義のある差別性を強化することでブランドに価格以上の価値を感じてもらうことができ、ブランドの魅力が増します。差別性⇒意義性⇒意義のある差別性⇒想起性⇒デマンドパワー(マインドシェア)という流れと、意義のある差別性⇒プライシングパワー(ブランドの価値)という流れの全てがつながった時、ブランドは大きく成長します。

もしプライシングパワーが強化できないなら、価格を下げて「価格以上の価値」を高める
もしリフレーミングを行ってもうまく意義性が強化されないのであれば、そこで諦めてしまうのではなく、思い切って価格を下げることを考えるのも手です。ブランドに価値がなければ値下げをしても効果は期待できず、むしろ自ら収益性を損なう結果になりかねません。しかしながら、「顔はわかる」程度の差別性があるのであれば、値下げによってブランドに「価格以上の価値」を作り出すことが可能です。
下左図の黄色の矢印のように、本来であればプライシングパワーを高めてそれにより知覚価格も高めて収益性を上げるのが理想的ですが、下右図のタイポロジーマップで判るように「顔はわかるブランド」の意義性はかなり低く、リフレーミングを行うにしてもかなりのインパクトが必要です。

トライアルしてもらえるだけの価値(プライシングパワー)を生み出すためには、左図のピンクの矢印のように価格を下げてブランドに「価格以上の価値」を作り出してしまった方が手っ取り早いといえます。勿論、その時に値下げされた価格に対してそれ以上の価値(プライシングパワー)をブランドが持っていることが前提です。
充分な収益があることが経営鉄則であるように、ブランドに充分な魅力があることが消費鉄則
直販の場合でも、小売店で販売してもらう場合でも、ブランドを消費者の手の届くところまで流通してもらう(フィジカルアベイラビリティを造り出す)のには大変な労力がかかります。販売側でも知名度や回転率が低いブランドを売るコストに対し十分なマークアップを確保しようとするから、必然的に小売価格も高めの設定になりやすいと思います。
しかしながら、消費者にとってトライアルするだけの価値(魅力)がなければ、販売数は取れず棚落ちする運命が待ち構えています。リフレーミングだけで意義性が強化されにくいのであれば、値下げを行ってブランドの(価格以上の)価値を高めるしかないと思います。
「収益性」は経営上の鉄則だと思いますが、消費者(お客様)と向き合っていく上での鉄則は「ブランドに魅力があること」です。消費者にとって魅力のない=意義性の低いブランドは市場から退場させられることを考えれば、値下げをおこなってでもブランドに「価格以上の価値」を作り出すことを優先すべきだと思います。
執筆: 合同会社カンター・ジャパン ブランドコンサルタント 堀義弘
本記事はシリーズ構成の続編です。 これまでをまだご覧になっていない方は、背景や用語をスムーズに理解するため、ぜひはじめからお読みください。
マーケターのためのブランド戦略 連載講座
ブランドのポートフォリオは何をゴールにして、どのように管理すればいいのか?
<目次>
【基礎篇】ポートフォリオの共通基盤となるMDS指標
ポートフォリオの共通基盤となるMDS指標①
ポートフォリオの共通基盤となるMDS指標②
【戦略篇】MDS指標を用いたブランドポートフォリオの戦略の考え方
[その1]MDS指標でみたブランドの現状
(1−1)マップ上のポジショニングから考える
(1−2)グラフの波形から考える
(1−3)ブランドの期待値から「勢い」を読む
[その2]MDS指標を用いたブランド強化の考え方
(2−1)意義性・差別性の「勢い」を含めて理解する
(2−2)ブランドライフサイクルでの「文脈」を理解する
[その3]MDS指標を用いたブランドポートフォリオ戦略
(3−0)ブランドのライフサイクルに即した10の戦略
(3−1)市場優位性を持つブランドに適した戦略
(3−2)市場競争力を持つブランドに適した戦略
(3−3)市場競争力が高いブランドは消費者にとって価値が高く感じられる