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【解説】今後も続くインフレの経済環境下で、ブランドの価格戦略をどのように考えるべきか? 

2024年5月7日 web管理者



ポストコロナの世界的なインフレ現象により、日本経済もインフレの潮流のただ中にあり、インフレに起因する消費需要の冷え込みや今後も高まる値上げ圧力にどのように対処していけばいいのか、企業のご担当者様のご懸念やご苦労も多いと思います。

しかしながら、バブル不況以降の日銀のゼロ金利政策により、長らく「守られて」きた日本市場とは異なり多くの海外市場では2000年以降平均2%前後の安定的なインフレが長期にわたって続いていました。こうした海外市場での長年の経験を踏まえ、弊社カンターのグローバルチームではUKを中心にブランドと消費者価格との関係性の研究が進められており、継続的で安定したインフレ政策に舵を切った今後の日本の消費市場にも参考になるのではないかと思います。

そこで今後2週にわたって弊社グローバルチームによる最新のレポートをご紹介させていただく予定です。これに先立ち、両レポートの背景として、ブランドの価格に対しての弊社の考え方を説明いたします。 

  • 【5月13日公開】   
    Modern Marketing Dilemmas:物価が上がっているこの時代に、ブランドはどう対応すべきか? 
     
  • 【5月20日公開】  
    Pricing Power‐プライシングパワーKantar BrandZの見解 


【解説】 

(1)価格の高さ/安さに対する消費者の一般的な反応 

消費者に対する「価格」の一般的な効果として、 

  • 価格が高ければ消費者は品質の高さに対して期待する反面、購買を躊躇する傾向がある 
  • 価格が低ければ消費者は「お得」だと思い手を出しやすくなる反面、品質に対して懸念を持ちやすい



(2)消費者の頭の中には「知覚価格」という値ごろ感ができている 

実勢の価格とは別に、消費者の頭の中にはそのカテゴリーの平均的な価格についてのイメージ(カテゴリーの値ごろ感)をもっており、市場の主要なブランドについてカテゴリーの中で「高い」「安い」といった感覚値をもっています。 

 




弊社のデータベースBrandZを見ると、消費者のブランドに対する知覚価格は、大半が平均的な価格の前後に集中しますが、知覚されている最頻価格は平均より「少しだけ安い」価格帯にあり、そこを中心に正規分布に近い分布を示します。





5月20日に公開予定の「Pricing Power‐プライシングパワー」レポートではグローバルのFMCG市場の実勢価格帯の分布が紹介されています。基にしているデータの市場やカテゴリー構成は異なるものの、平均価格よりやや低いところにボリュームの中心が来ること(分布歪度)は実勢も知覚も同様ですが、知覚価格の方が実勢価格よりブランド間の価格の隔たりの幅(分布尖度)が狭く知覚される傾向があるようです。
 



こうした分布尖度(分布の幅の広さ)の違いは、知覚価格の消費者「知覚」にはブランドの価値に対する評価が含まれているためだと考えることができます。実際の価格の違いでは価格差が大きくても、消費者の頭の中ではブランドの価値にはそれほど大きな差がないと受け取られていれば知覚価格の分布尖度は狭くなるわけです。すなわち、実際の価格はもっと安いのに(グラフのかなり左側に位置するが)ブランドの価値にそれほど大きな差がないと思われていれば、知覚価格は比較的高め(グラフ左側でも中心に近い位置)となります。

このことがマーケッターにとって何を意味するかというと、ブランドの価格戦略を考える際に、実勢価格を必ずしも市場の最安値帯に設定する必要はなく、消費者の知覚価格よりやや低めの価格に設定しておけば充分ということを意味します。知覚価格は消費者がブランドに感じる価値評価の影響を受けますから、消費者に価値を高く感じられているブランドであれば実勢価格もそれだけ高めに設定することが可能です。消費者の購買は、頭の中にある知覚価格よりも店頭においてある商品の実勢価格が安ければ「お得」と感じて手を伸ばす可能性が高まります。購買のトリガーとなるのはこのようなブランドの価値評価=知覚価格と実勢価格との価格差であり、店頭に並んでいる競合品との価格差も大事ではあるものの、(1)で説明したように価格が他より安いというだけでは品質懸念を生じてしまい購買にまで至りません。

下記は国内の紙おむつの例ですが、消費者の知覚価格ではムーニーとメリーズはほぼ同じなのですが、実際の価格(ここではネット販売での最安値を参照)をみると両ブランドには差があり、ムーニーに較べメリーズの方が消費者にはお得感が感じられやすくなっています。ところが実勢価格がほぼ同じであっても知覚価格が低いグーンの場合、メリーズほどのお得感は感じられ難くなります。
 




もちろん、消費者の中には「とにかく最安値を探してそれを買う」という方もいらっしゃいますが、消費者全体で見ると20%に満たない場合が多く、多くの消費者ではブランドが保有する価値との比較でお得な買い物を志向するようです。

つまり、インフレ環境下で価格に敏感な消費者に対して、販売利益を削ってまで最安値価格での提供を考えるよりも、価格が多少高くてもその価格を支払う価値のあるブランドを構築していくことの方がインフレ時代のマーケティングに適しているように思われます。

5月13日に公開予定の「Modern Marketing Dilemmas:物価が上がっているこの時代に、ブランドはどう対応すべきか?」では、メキシコのFMCGにおける価格競争の実例が紹介されています。

それによると、カテゴリーで価格競争が生じたときカテゴリー全体の需要を押し上げる効果はあるが、ブランド単位で見た需要は下がってしまう=ブランドの価値を損失してしまうようです(Year2-3)。 それに対し、価格競争が沈静化したYear4ではカテゴリー全体需要は落ちていますが、ブランド単位での需要は好転しています。つまり、価格が上がること自体はブランドにとってはマイナス要因にはならないのです。むしろ価格に見合ったブランドの価値を提示することができれば、ブランドの需要を上げる好機とさえ言えるのです。 




(3)知覚価格以外にも「ブランド価値」の可視化は可能 

知覚価格は消費者にとって価値が高いブランドは、価格も高いように知覚される反応を示したものですが、消費者のブランド価値への反応の仕方にはこの知覚価格以外に「このブランドは価格以上の価値がある」「価格ほどの価値がない」という評価もあります。この価格以上/未満のブランド価値評価をカンターではプライシングパワーとして可視化しています。プライシングパワーの効用は、以下のように高価格帯と低価格帯でニュアンスが異なります。

  • 高価格帯では高価格による購買抑制のリミットを緩和させる効果を持ちます。「たかが鞄一つに20万円も払うのは馬鹿げており賢い行動とは言えない」という購買抑制心理に対し、「ルイビトンなら20万円払ってもそれ以上の価値がある」と思わせる力がプライシングパワーとなります。 

  • 低価格帯では低価格による品質懸念を払拭させる効果を持ちます。「私服だと毎日着替えなければならないので、安くそろえられるのはありがたいが、ダサいと思われるような恰好はしたくないし、『安物買いの銭失い』という失敗はしたくない」という品質懸念に対し、「ユニクロは手を出しやすい合理的な価格だが、充分にお洒落だし品質も悪くないので価格以上の価値がある」と思わせる力がプライシングパワーとなります。




プライシングパワーは算出の前提として価格があり、カンターではその前提となる価格認識に知覚価格を用いているので、プライシングパワー(指数)には知覚価格の評価も含まれています。但し、上述のように(知覚)価格の高低によりプライシングパワーが持つ意味のニュアンスが異なるので、分析に当たってはプライシングパワーと知覚価格の両方を見るようにしています。

例えば、下図ではフォルクスワーゲンのプライシングパワーはアウディと遜色がありませんが、知覚価格を考慮に入れるとフォルクスワーゲンは価格以上の価値をより多く持っていることになります。

また、スバルはプライシングパワー自体、平均的なブランドなのですが、知覚価格の安さを考慮に入れると価格以上の価値を持ったブランドということができます。同様に軽自動車のスズキについては、プライシングパワーは下位にありますが、知覚価格の低さを考えれば価値のあるブランドということができます。自家用車市場は知覚価格とプライシングパワーとの相関が高い市場で、このことはブランドの価値評価は知覚価格の影響を多く受けやすいことを示しています。自家用車の購入検討者には予算感があり、その予算の範囲内で購入する銘柄を検討することになりますが、そうした(知覚)価格帯でより高いプライシングパワーを保持するブランドが消費者の購買検討段階で有利になることは言うまでもありません。

 




また、もう一つご注意いただきたい点は、こうしたブランドの価値に対する消費者の評価は自家用車のように、新車導入やキャンペーン、新しい流行など競争が激しい市場では恒常的ではない点です。19年と21年を比較すると、知覚価格には大きな変化は見られませんがブランドによってプライシングパワーにはかなりの変動が見られます。





このような市場のマーケッターにとって、自ブランドが消費者に与える価値が減じることがないように常に目を光らせ、何らかの変化の兆候が見られたら速やかに手を打つ必要があります。例にとった自家用車市場で言えば、(知覚)価格よりもこうしたブランド価値(価格以上の価値があるか、価格未満の価値しかないか)の評価の方がより流動的なようです。

以上、解説が少し長くなってしまいましたが、両レポートではこのような弊社のデータベースからの知見に基づき、インフレ環境下で価格プロモーションを検討する前にブランドの価値を高めることを先に検討することの重要性を提言しています。

5月13日は「Modern Marketing Dilemmas:物価が上がっているこの時代に、ブランドはどう対応すべきか?」を公開いたします。ぜひご覧ください。


Kantarでは、このようにブランドと価格に関する知見を多く持っており、皆様のビジネスを成功に導くお手伝いをしています。ブランド・エクイティや価格に関する調査のご相談は下記よりご依頼ください。 

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