KANTAR BrandZ Sector Analysis
【第1回】キャッシュレス決済サービス マーケットが直面する新しいエコシステムへの変化という潮流に、ブランドはどのように対処していけばいいのか



エコシステム変化の背景にある「消費者のニーズ」を正確に理解し、新しい潮流の中で自ブランドの役割を明確に築き上げていかなければ、潮流に乗り遅れて水没してしまう



このシリーズではBrandZのデータベースを使って、国内の個別のカテゴリーを取り上げてブランドと消費者との関係がどのようになっているかの事例を紹介しています。

前回は、主に顧客のメンタルアベイラビリティと市場でのフィジカルアベイラビリティという視点で総合小売カテゴリーを取り上げました。そこでは、eコマースという新しいエコシステム(いつでもどこからでも買い物ができる)の台頭により、消費者の頭の中の地勢図にも大きな変化(既にECブランドが消費者マインドシェアを寡占している)が生じていることを見てきました。このECの台頭を支えるエコシステムとなっていのが、クレジットカードをはじめとするキャッシュレス決済サービスです。EC市場成長の大前提である「いつでもどこでも」は、キャッシュレス決済がなければ不完全なものとなってしまうからです。そこで今回はこのキャッシュレス決済サービスを取り上げてみました。


キャッシュレス決済サービス

クレジットカードがeコマースを牽引する一方、リアル店舗では電子マネーが浸透 

経済産業省のデータによると、キャッシュレス決済の比率は2023年には約40%に達しており、2010年から較べると3倍の規模に成長しています。先ほど触れたECも2013年の11兆円から2022年には2倍以上の23兆円に急成長しているので、ECがキャッシュレス決済の浸透に貢献しているのは間違いなさそうです。




但し市場規模で見ると、キャッシュレス決済は2013年から22年にかけて60兆円以上の伸びを示しているので、キャッシュレス化の浸透はEC市場の成長だけが要因とは言えないようです。ECの浸透により、キャッシュレスで決済する習慣がリアル店舗でも広がったことが考えられます。特にコロナ禍環境下で、リアル店舗でも対面での非接触を心がける傾向が拍車をかけたと言えるでしょう。2020年以降にコード決済を含む電子マネーの成長が見られ、デビットカードを含めると2023年には20兆円の決済が電子マネーで行われています。コロナ禍をきっかけに、特に非接触型の電子マネーがもつ利便性(店頭支払いがよりスピーディーでスマート)が理解されるようになり、リアル店舗での浸透が進んでいると思われます。


キャッシュレス決済の便益は、スピーディな手軽さ 

以下はJCBさんがHPで公表されている調査結果です。これを見ると、現金での支払いに比べるとクレジットカードを含むキャッシュレスの支払いは半分の時間(手間)で済ませることが出来ることがわかります。更に非接触型であれば現金支払いの1/3以下の時間でスマート決済ができるようです。


出典:JCB調査(2019年8月)JCB HPより引用



JCBさんは特に言及されていませんが、消費者分析を専門とする視点からは平均の時間だけでなく測定された所要時間の幅(最大と最小)のギャップにも注目した方がよいでしょう。ギャップが大きいということは店舗によってかかる時間が異なることを意味するので、ギャップが大きければ「他のお店ではもっと手早く済ませたのに」とユーザーのフラストレーションが高まるリスクが大きいことを意味します。この幅が一番小さいのが非接触型で(4秒の差)、現金での差(25秒)と較べて6倍の違いがあります。また、クレジットカードと較べても、平均所要時間では1/3の差(8秒対12秒)しかありませんが、ギャップをみると倍以上の差(4秒対10秒)があります。

これまで、1,000円以下の少額の支払いであれば現金で支払うのが当たり前と思っていたものが、コロナ禍下での体験を通じて消費者はもっと便利な方法(行列ができていても素早く済ませられる、10円以下の細かい小銭を探す/お釣りを受け取る手間が省ける等)があることに気づきだした、ということではないかと思います。

こうしたことは、例えばコンセプトで示して消費者の評価を聞いても「いいとは思うけど些細なことなので、大して重要なことではない」という評価を受けがちですが、コロナ禍で非接触という異なった理由で体験してみると、その手軽な快適さを実感できたということだと思います。たかが10秒程度の差に過ぎないではないかと見過ごしてしまうと、消費者行動の本質(体験価値や実感の重要性)を見落としてしまう恐れがあります。消費者は自分の実感に対して素直に反応し、行動上のパワフルな変化につながります。多少の費用と時間をかけても、定性調査でその実感のインパクトの強さを確認しておくのが望ましいと思います。


マインドシェアと利用回数シェアのトップはVISA

それではBrandZのデータで、キャッシュレス決済でのブランド力の違いをみてみましょう。キャッシュレス決済カテゴリーの最新データが2021年のみとなっているため、経済産業省のデータで電子マネー(含むコード決済)が増え始めた2019年と比較をしてみます。

下図の上段がブランド毎のマインドシェア(左が21年右が19年)で、下段は推定マーケットシェアとなります。推定マーケットシェアは、マインドシェアを聴取した際に直近の購買銘柄も聞いているので直近の利用率からの推定となります。経済産業省のデータは決済金額で見ていますが、こちらは決済金額の多少にかかわらない利用回数がベースです。自販機で110円の水を電子マネーで買っても利用回数は1となるので、日常どれだけ身近に利用されているかのシェアとなります。

マインドシェアもマーケットシェア(利用回数)でもトップブランドはVISAで、マインドシェアで18%、マーケットシェアでも26%を占めています。

マインドシェアよりマーケットシェアが上回るということは、消費者のメンタルは占拠できていなかったが、フィジカル(店頭やECでの利用可能支払方法)の占拠力で購買(決済サービスの利用)につなげたことを意味します。こうした強いフィジカル力(競合のマインドシェアを店頭で奪い取ってしまう力)は、マインドシェアの高いブランドに多く見られることがBrandZのデータベースからわかっています。消費者が好むブランドを優先することで流通・販売側も効率よく運営ができるメリットがあるため、メンタルで強いブランドがフィジカルでも益々有利になるようです。(フィジカルアベイラビリティについては別記事で詳しい説明しているので興味があればそちらも参照ください)



急成長で躍進するPayPay

トップブランドのVISAはこのような力を有しているのですが、2021年と2019年を比較すると大きな変化が生じているのがわかります。一番目立つのがPayPayの躍進です。マインドシェアでもマーケットシェア(利用回数)でも、わずか2年間で「その他大勢」のブランドからNo2の主要ブランドに急成長しています。

それまで(2019年)は、クレジットカードの主要3ブランド(VISA、JCB、マスターカード)だけで利用回数のマーケットシェアで6割以上(マインドシェアでは約5割)を占めていました。それが2021年ではマーケットシェアで5割弱、マインドシェアで4割弱に減少しており、そのほとんどがPayPayにもっていかれています(d払いは2019年には聴取リストに入っていなかったため、比較不能)。


PayPayの強さの源泉は「差別性」

BrandZデータを使ったMDS分析では、マインドシェアを意義性・差別性・想起性の3要素に分解していますが、クレジットカード3ブランドとPayPayとの大きな違いは「差別性」にあります(意義性・差別性・想起性の詳しい説明はこちらを参照してください)。

PayPayもVISAも、どちらも想起性が指数120以上と高く、「キャッシュレス決済といえば」真っ先に想起されるブランドとなっています(指数120は平均的なブランドの1.2倍想起されやすいことを意味します)。ところが、VISAは他と較べて圧倒的に意義性が高いのに対し、PayPayは他と較べて圧倒的に差別性が高いという特徴をもちます。





「意義のある想起性」と「意義のある差別性」

意義性で強いVISAと、差別性で強いPayPayという特徴の違いが何を意味するのかもう少し考えてみることにします。どちらもそのカテゴリーですぐに連想されやすい想起性が強いのですが、想起性は意義性で強化されることがわかっています。意義性はそのブランドが自分のニーズに合っているとかそのブランドに愛着を感じるということを意味しますが、こうした評価は実際の体験で強化されます。そうして、こうした「よい」体験が多く積み重なることでブランドはより想起されやすくなるからです。こうした関係は「意義のある想起性」と呼ばれます。

この意義のある想起性の関係を見たのが下のグラフです。VISAは紫の想起性に対し意義性の方が高く、逆にPayPayは想起性に対し意義性が低くなっています。意義のある想起性が成立している時は高い想起性のスコアに対し意義性のスコアも同じ程度に高くなりますので、VISAには意義のある想起性が成立していると言えますが、PayPayの場合は高い想起性に対して、意義性が充分に伴っていないといえます。想起はされても、その全ての人にとって意義が感じられるまでには至っていません。




それに対し、クレジットカードの主要3ブランドは、いずれも想起性よりも意義性の方が上回っています。同じことは電子マネーの楽天ペイでもいえます。この場合、こうしたブランドを想起する人(多くはユーザー)の間では意義性の評価が高いということを意味します。このような評価は勿論、ブランドにとって悪いことではないのですが、想起性の評価が低いとき(上のグラフで言えば、マスターカードや楽天ペイのように想起性が平均程度の100前後しかとれていない場合)は、ユーザーで評価されている意義性(ブランドの良さ)が非ユーザーには十分に理解されていないという点が課題となります。

次に、「意義のある差別性」を見てみます。意義性が高ければそのブランドは特徴がはっきりした個性的なブランドということになります。しかしながら、どれほど個性的なブランドでもそれが自分にとって意義がなければ購買には至りません。逆に言えば、未体験のブランドであってもそのブランドに何かしらの差別性を感じ、その「差」に自分にとって何か新しい意義を感じることが出来れば、そのブランドは試用され新たなレパートリーに加えてもらう可能性があります。これが「意義のある差別性」です。




この「意義のある差別性」の観点からみると、PayPayの差別性は群を抜いて高いのですが、差別性が伴ってはおらず、「差別性」の高いブランドですが「意義にある差別性」の高いブランドには未だなっていません。先ほどの「意義のある想起性」も考えあわせると、PayPayの課題は意義性の強化にあるといえます。同様の波形(差別性が意義性よりも高い)をとるのはアメリカンエキスプレスですが、こちらはプレステージカードで年間会費も割高となっており、そのプレステージ性が差別性につながっている反面、意義性は低く(選ばれた人のためのカードとなるため意義性を感じるユーザー数は必然的に少なく)なっています。それを考えれば、「お得」を売りにするPayPayの意義性には未だ伸びしろがあるはずで、そこに注力をすべきと思われます。

これに対し、クレジットカードの主要3ブランドは全て、意義性が差別性を上回ります。どのブランドも意義性指数は平均を超えるのに対し、差別性指数は平均未満となっています。慣れ親しんで使っており満足もしているが、他のカードと特に違いはない、ということだと思います。PayPay以外の電子マネーはどのブランドも差別性指数は平均程度とれているので、マスターカードやJCBよりは差別性が感じられているようです。差別性に対して意義性も伴っているので、「意義のある差別性」となっていますが、現在の差別性は平均程度しかないのでそれぞれのブランドごとの差別性をどう強化していくかが今後の課題のようです。現在のユーザー体験ではブランドが持つ差別性がユーザーの意義にうまくつながっているようなので、現在の体験価値の延長線上で差別性を強化していけば、同時に意義性も高めていくことができそうです。


ここまで説明した、「意義のある想起性」と「意義のある差別性」の機能を図にして説明すると、以下のようになります。


ただし、先に示したマインドシェアやマーケットシェア(使用回数)との関係で言うと、左の「意義のある想起性」のパスの方が説明力は高くなります。差別性はむしろPayPayのような新規参入者が、これまで市場に形成されていた既存ブランドによる「意義のある想起性」の壁を打ち破るのに有効です。そのように参入した後でシェアをさらに伸長させていくのに「意義のある差別性」が必要になります。すなわち、PayPayが今後意義性を強化していくことでトップブランドVISAのシェアに肉薄していく可能性は十分にあると思います。その鍵は現在の高い差別性の活かし方にあります。


「意義のある差別性」の強化によるPayPayの躍進

ここまでは2021年のデータだけを見てみてきましたが、更に2019年と比較してPayPayがどのように「意義のある差別性」を伸ばしてきたかを見ていきましょう。

PayPayは2019年時点で差別性は非常に高い水準にありましたが、その後2021年までに意義性と想起性を大きく伸ばしています。差別性もさらに強化されています。一方、楽天ペイの差別性も2019年ではPayPayほどではないですが高い水準にありました。その後、楽天ペイの差別性は低下し、代わりに意義性と想起性が強化されています。2019年から2021年にはコロナ禍の影響下にあり、非接触による感染防止が強く意識されていましたので、これが両ブランドの意義性と想起性を伸ばすことに大きな追い風になったと考えられます。

ところが、同じ非接触のメリットがあっても、スイカ以外の他の電子マネー系は同期間に意義性を落としています。内訳を見るとWAON(ワオン)、nanaco(ナナコ)、PASMO(パスモ)なので、使用場所が特定流通や交通機関と強く結びついていたため、コロナ禍の外出制限の影響を受けたのではないかと考えられます。PayPayや楽天ペイは「どこででも使える」「お得にポイント還元される」の2つに重点をおいた拡大策がとられており、コロナ禍期間でもその差が出たのではないかと思います。



PayPayの100億円キャンペーン

2019-21年前後のネット検索数をみてみると、PayPayは2つの時期でネット検索数がスパイクして(跳ね上がって)います。一つは2018年12月頭、もうひとつが2019年9月末ですが、どちらもポイント還元キャンペーンの時期に相当します。特に最初の「100億円あげちゃうキャンペーン」は会計の20%を利用者に還元するもので、話題が沸騰しわずか4日間で終了(100億円還元達成)となったインパクトの強いものでした。その後の19年のスパイクも「10%戻ってくるキャンペーン」によるものと考えられます。

2019年のBrandZ調査は6月に行われているため、この「100億円キャンペーン」がPayPayの差別性を引き上げたと考えられます。19年の「10%キャンペーン」や宮川大輔氏を起用した積極的なTVCMは21年での想起性向上につながったと考えられますが、意義性についてはコロナ禍での非接触需要が追い風になったものと思われます。とはいえ、コロナ禍による意義性の追い風を大きく受けることができたのは、ポイント還元のお得感を積極的に打ち出しているPayPayと楽天ペイだけというのも興味深い点です。消費者の行動を惹き起こすためには、「ポイントがお得になることは知っていたが、非接触の環境なのでこの際使ってみよう」あるいは「非接触は意識したいと思うが、どうせならお得になるものを使おう」といった複合的な要因の結合が効いたようです。「意義のある差別性」とはまさにこのような複合的な要因結合を意味します。





また、PayPayのCMは、宮川大輔氏と特徴的なBGM、軽快なテンポのフォーマットを継続的に使用することでブランドの識別性が高められており、次々と提供される「お得なキャンペーン」をという一つのメッセージを徹底的に伝達するものとなっています。非接触のメリットや手短に簡単に済ませるキャッシュレス決済のメリットはあえてCMからは切り捨てて、「お得」だけに集中しています。

大規模GRPのTVCMと100億円のようなインパクトの大きいキャンペーンによる「お得」感により、店頭で利用するユーザーが集中的に増えることで、例えばコンビニでレジ待ちをしている行列の後ろの人達に「え、あんなに簡単に済むんだ」とキャッシュレス決済の簡便さをアピールする効果があったと思います。

このようにタッチポイントごとの役割を1点に絞り明確化(選択と集中)し、店頭での体験もタッチポイントに織り込んだ重層的なアプローチを行ったのが成功要因だったと思われます。こうした化学変化(店頭での体験による利便性への納得)を消費者意識と行動に発生させるために、100億円ものキャンペーン投資を「呼び水」として使った大胆な割り切りの良さにPayPayのすごさを感じます。


意義性を落としたクレジットカード

これまでのキャッシュレス決済では、このような「お得なポイント還元」は考慮されていなかったか限定的であったと思います。PASMO(パスモ)やSuica(スイカ)のような交通機関系であればポイント還元は特にありませんし、WAON(ワオン)やnanaco(ナナコ)のような流通系であれば、ポイントが利用できるが、その流通先に限定されていたと思います。

同様なことはクレジットカードにも言えます。クレジットカードではポイント還元はない代わりに、利用金額(ポイント)に応じた景品や特典サービスを提供するマイレージが用意されてはいますが、アメリカンエキスプレスやダイナースのような年間会員費をとるプレステージ系カード以外はそれほど力を入れていないと思います。つまり、クレジットカードはどこでも使えて便利な存在ではありますが、お得なものではないことになります。

そのため先ほどみたように、主要なクレジットカードは意義性が高くても差別性は低くなっています。また、電子マネーと同じように2019年から2021年の変化をみると下図のように意義性を下げています。




クレジットカードも現金と比べて決済が容易であり、またコロナ禍下での非接触にも配慮されていたため、ポイント還元のあるPayPayや楽天ペイの意義性の伸長により意義性の評価を喰われる結果になったと考えることが出来ます。それでもまだ全体としては電子マネー系よりは高い意義性を維持していますが、利便性にお得感を加えた電子マネーの出現によって「痛いところをつかれた」ようになっています。

これに対抗していくには、差別性を高めて「意義のある差別性」を提案していくしかないのですが、これまで見てきたようにこのカテゴリーの差別性は「お得感」の影響を大きく受けるので、代金後払いの信用支払い上の制約を受けるクレジットカードにとっては難しい挑戦になるのだと思います。これまで培ってきた「意義性のある想起性」を梃(てこ)にして守りに徹するか、「お得」にかわる差別性要因を開発して攻めに転じるかの2択しかないように思います。


差別性に影響を与えるイメージ因子

BrandZでは全カテゴリー共通の30弱のイメージ項目をブランドごとに聴取しています。その結果を基に、全カテゴリーで共通のイメージ因子を抽出しています。この因子がそれぞれのカテゴリーでどれ位差別性や意義性に影響しているかを見ることが出来ます。

下図は2019年と2021年で、このカテゴリーの差別性に影響を与える因子のウェイトを算出したものです。カテゴリーの差別性に大きな影響を与えるのは専門性・識別性・創造的破壊性で、この3因子で差別性の過半数を説明します。さらに先進性とブランドの目的意識の高さを加えると7割以上となり、この構図は2019年と21年で大きな違いがありません。専門性とはそのブランドに何か特別なものがあることを示し、識別性とはブランドの「らしさ」がはっきりしていて、創造的破壊性とは世の中を(いい方向に)変化させていることを示します。こうした因子の影響は、決済に手軽さと「お得感」を導入したPayPayと楽天ペイが牽引していることは言うまでもありません。



意義性に影響を与えるイメージ因子

次に意義性に大きな影響を与えている因子を見ると、2019年では卓越性と利便性だけで約6割を占めていました。卓越性は信頼や安心といったニュアンスを含めた製品・サービスの出来の良さを示し、利便性は日常での使いやすさや選択肢の幅の広さを示します。ところが、2021年になるとこの2因子の影響力が5割弱にまで後退し、代わりに差別性の主要因子であった専門性や創造的破壊性が意義性にも影響を与えるようになっています。これもVISAやマスターカードの意義性が減少し、代わりにPayPayや楽天ペイが意義性を伸ばしたことの影響だと考えられます。専門性や創造的破壊が意義性でも説明力を増したということは、両ブランドの差別性が「意義のある差別性」に転換してきていることの現れだといえます。



PayPayのブランドイメージの変化

PayPayと楽天ペイ、それとクレジットカードの代表的ブランドであるVISAとマインドシェアでPayPayに並ぶJCBの4ブランドについて、各因子の具体的なイメージ項目のスコアを比較してみました。(スコアにはBIPというブランド自体の大きさを考慮した相対的な強弱を示す指数が用いられています。指数がマイナスの時は、そのイメージではないことにブランドの特長があることになり、±5以上のときその特長が相対的に強いことになります。)

PayPayは2019年では「大きな変化をもたらす」「ユニークな何かがある」「広告がいい」の3項目が他を圧倒していたことがわかります。その後21年になって変化感やユニークさはやや沈静化したものの、広告のインパクトは継続しており、更に「製品やサービスがよくできている」や「最もいいものを出している」というイメージが上がってきています。この辺りがPayPayの意義性が上がった要因のようです。お得感でまず試用につなげた上で、その利用体験から利便性や卓越性の評価向上につなげた、ということだと思います。


VISAのブランドイメージ

一方でVISAは、「毎日の生活に合っている」「最もいいものを出している」といったイメージで強く、こうした老舗・定番感がブランドの意義性の強さに貢献していることがわかります。「毎日の生活」では楽天ペイに、「最もいいもの」ではPayPayに侵食されているものの、21年時点ではベストインクラスのポジションは充分に防衛できているようです。

また意義性・差別性の双方に10%前後の貢献をしている「目的意識」因子ですが、こうした目的意識イメージが特長となっているブランドはまだないようです。ブランドの目的意識は消費者にとってはそれなりに大切なことですが、そこをOWNできているブランドがまだいないホワイトスペースとなっているようです。決済の世界に革新的な変化を起こしたPayPayか、それとも長年の実績と信頼に裏付けられた定番トップブランドのVISAのどちらがここを先取りできるか、という争いになるのではないかと思います。VISAはサステナビリティなどを利用してここを抑えることが出来れば、ブランド防衛上はかなり有利になると思います。「お得感」で電子マネー系に押されていた差別性で、対抗軸を持つことが出来るからです。


第2回(2024/11/5配信予定)に続きます。




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