ブランドの差別性はどのように強化するべきかをテーマにお送りしているこのシリーズ。「ブランドに差別性が大事なのはわかっているが、自ブランドでどうしたらいいか知りたい」という方に、お答えすることを目的としています。前回の第1回では、差別性を強化するための、4つのチェックポイントのうち
1)自ブランドの現時点での差別性の力量を客観的に把握する
2)消費者の期待を相対的に上回るようにする
についてお送りいたしました。第2回目の今回は後半2つについてお送りいたします。
3)差別性と相性がいいブランドイメージに即して具体的に考える
BrandZ調査データベースでは、デマンドパワーやプライシングパワー、意義性、差別性といったエクイティ評価指標だけではなく、全カテゴリーで共通のブランドイメージ項目も聴取して各種エクイティ関連指標との関係性を分析しています。聴取項目は年次によって若干の変更も加えていますが、過去の全カテゴリーデータを基に、デマンドパワー/プライシングパワー/意義性/差別性/想起性といった指標を目的変数として因子分析を行い、ブランドイメージ項目を10の因子に分けています。
(註1)「責任感」因子は広義のサステナビリティ(SDGs)を指します。この因子に環境責任(狭義のサステナビリティ)が含まれます。
(註2)「そのカテゴリーで重要な特長に優れている」の項目は、実際の調査ではカテゴリーごとに一般的に重要と考えられているイメージ項目で聴取しています。
(註3)「由緒性」は聞きなれない言葉だと思いますが、例えばワインやチーズといえばフランス、お茶と言えば京都(宇治)といったように特定の地域に強く紐づいた由緒性を意味します。
BrandZではこれらの10因子がそれぞれの目的変数にどれくらいの寄与をしているかをカテゴリー単位で算出しているのですが、その寄与率は当然カテゴリー毎により、また年度によっても異なります。しかしながら、カテゴリーを超えてある傾向が見られます。差別性を目的変数にしたときは、「創造的破壊性」「優越性」「専門性」「識別性」「先進性」といった因子の寄与率が高くなる傾向が見られます。
そこで、国内のブランドについて、差別性に寄与の高い因子の因子項目の中で特に差別性との関連が高い項目を抜き出してみました。まず、「それぞれのカテゴリーで重要と考えられる特長に優れている」という項目は当然、差別性の評価につながりやすいと考えられるので、この項目の標準指数化された評価が高い/平均的(指数100)/平均より低いブランドごとに差別性指数がどのように評価されているかを見てみました。(下図のグレーのグラフ)
その結果は「カテゴリーで重要と考えられる特長に優れている」が指数100(平均)を超える場合は差別性指数も100を超え、「カテゴリーで重要な特長」が平均的であれば差別化指数は100を下回り(指数91)、「カテゴリーで重要な特長」が平均未満であれば差別性指数もさらに下がる(指数84)と、差別性への影響の高さが確認できました。そこでこの「カテゴリーで重要な特長」を基準値として、イメージ項目評価が指数100を超える場合に、差別性評価(指数)が「カテゴリーで重要な特長」の112を超えるイメージ項目を抽出したのが、下図(青色グラフ)です。
「カテゴリーで重要と考えられる特長に優れている」と較べて、「最もいいものを出している」=ベスト・イン・クラス評価の方が、差別性への影響が高いというのは感覚的に納得できるのではないかと思います。(最もいいものの評価が平均であっても、最もいいという評価だから差別性評価指数は平均を超える)
興味深いのはこのベスト・イン・クラス項目と比較して、ほぼ互角の影響を差別性評価に与えるのが「大きな変化をもたらす」「ユニークな何かがある」「将来重要性を増す」といったイメージ項目である点です。これらのイメージは、単に何かが「優れている」という静的な状態を指すのではなく、動的または感覚的に違いを作り出す力が連想されていると思います。こうしたアクティブで直感的な要素やニュアンスの重要性を差別性の強化の際に考慮するといいように思われます。
カンターのブランド分析(MDF)調査では因子分析を用いて重要なブランドイメージを抽出することが基本分析に組み込まれていますが、このような回帰分析から読み取れることには限界もあります。何故なら回帰分析はイメージ項目と目的変数を1対1の一方向の関係で見ますが、単体のイメージ項目だけでは解釈に限界があるためです。例えば食品・飲料分野で「おいしい」は重要な要素(ブランドイメージ)で、意義性や差別性にも大きな影響を与えます。ところがそれだけでは、どのような「おいしさ」を提供すればいいのか、あるいはどのような「おいしさ」を期待させればいいのかがわかりません。
そのような場合、カンターでは独自のBSA(Brand Structure Analysis)という手法を用いて、目的変数の向上につながる複数のイメージ項目間のパス構造を分析することを推奨しています。BSAではベイジアンモデリングを用いてイメージ項目間の全てのパスを明らかにしたうえで、目的変数にとって重要なパスを明確にします。有料のオプション分析となりますが、もしご興味があればぜひ弊社までお問い合わせください。
4)ブランドのパーソナリティ(人格)をはっきりとさせる
ブランドの差別性を強化させる最後のポイントは、ブランドパーソナリティです。
BrandZではブランドのパーソナリティに関しても聴取しており、データベースに含まれています。カンターには元々NeedScopeという消費者の情緒的価値に基づくセグメンテーションモデルがあり、BrandZと同様に30年近い実績があります。このNeedScopeの考え方に準拠した簡易化した方法でブランドのパーソナリティの判定を行っています。少し細かくなりますが、これまでCharacterZと呼ばれる判定手法を用いていましたが、2021年からは新しいPersonality Archetypeと呼ばれる手法にマイナーチェンジされています。
これらのパーソナリティ(人格)タイプはNeedScopeの情緒的価値観と連動した心理学的アーキタイプ(人格元型)分類を用いて聴取していますが、NeedScopeのような投射法を用いた厳密な判定を行っていないので、あくまでもブランドパーソナリティを簡便に把握するために用いられています。しかしながら解釈の仕方は類似していて、上の図のレーダーチャートの外側にプロットされるほどそのパーソナリティが強く消費者に認識されていることになります。
国内のブランドについてこのパーソナリティの強さ(明瞭性)と差別性の強さの関係を見たのが下図となります。
ご覧いただいてわかるように、ブランドパーソナリティが強いブランドの方が差別性も強くなる傾向がでています。但し、ご注意いただきたいのは「逆も真なり」ではないということです。BrandZのデータベースを見ると差別性の強いブランドが必ずしもこれらのブランドパーソナリティが強いわけではありません。しかしながら、製品テクノロジーが成熟化したカテゴリーでは製品機能で差別化を実現するのが難しくなっており、こうしたブランドパーソナリティや情緒的アピールを用いてブランドの差別化を図っていくのも有効な手段と思われます。
参考までにポイント2の事例で紹介した洗剤市場(マーケットパターン2)でのブランドパーソナリティをご紹介します。実査が行われた2019年ではCharacterZが用いられています。
ブランド名が色分けされているのは、ポイント2の章で「差別化戦略を考えるうえでのガイドライン」の事例として紹介した分類に基づいています。グリーンは差別化戦略ガイドラインの右上象限(差別性指数も高く、差別性期待値も上回っており差別性がブランドの強みとなっている)のブランドで、ブルーは左上象限(差別性指数は低いが差別性期待値を上回っており差別性がブランドの特長となっている)、パープルは右下象限(差別性指数は高いが、期待値を下回っており差別性がブランドの特長とは言えない)のブランドとなります。
洗剤市場ではほとんどのブランドのパーソナリティが明瞭性の指数で5.0以下となっており、ブランドパーソナリティがそれほど強いカテゴリーではないといえます。そうした中で戦略ガイドラインで最も差別性が強かった(最も右上にある)ナノックスだけが明瞭なパーソナリティ(独創的な人)をもっていることが判ります。
その他のブランドはパーソナリティの明瞭性はそれほど高くはないのですが、このパーソナリティマップにはもう一つの見方があります。それは他のブランドと同じ領域で重なっていないブランドの方が独自性を持ちやすいという見方です。このカテゴリーでは「賢い人」と「面白い人」の2つのパーソナリティにブランドが集中しがちな傾向がありますが、唯一ブルー象限にいたフレアはパーソナリティの明瞭性は高くないものの「魅力的な人」で他のブランドとは一線を画しています。一方でマインドシェアは高いのに差別性が特長ではないパープル象限にいたアタックは「賢い人」クラッターの中に入ってしまっています。最も同じくマインドシェアの高いアリエルも同じパーソナリティに埋もれていますので、このカテゴリーでは「賢い人」パーソナリティが好まれる傾向があり、シェアの高いブランドはパーソナリティで差別化するのは難しいという側面もありそうです。
戦略ガイドラインでナノックスやアリエルと同じグリーン象限にいたレノアとボールドをみると、パーソナリティの明瞭性は他のブランド同様それほど高くはありませんが、レノアは「友好的な人」と他のブランドとはちょっと違ったパーソナリティにいます。それに対しボールドは「面白い人」クラッターに入ってしまっているので、パーソナリティで差別化を強化しようとするのであればレノアの方が有利ということができます。
以上がブランドの差別化を強化するための4つのポイントとなります。最後までお読みいただきありがとうございます。これらはあくまでもBrandZのデータベースから窺える一般的な傾向を示したものです。差別性に求められる内容はカテゴリーごとに異なりますので、あくまでどのカテゴリーにも共通してみられる一般的傾向として参照いただくのがよろしいかと思います。
カンターは、ブランド資産価値測定を目的としたシンジケート調査BrandZ、ブランドのポジショニングを決める際に消費者の情緒的側面を明らかにすることでポジションを明らかにするNeedScopeを提供しています。詳細についてお知りになりたい方は、下記よりお問合せください。