世界中の人々が、気候変動・環境問題・社会問題といったサステナビリティに関心を寄せていることは疑う余地がありません。カンターが2022年に行った調査では、世界のGDPの68%を占める19カ国の人々が最も懸念しているのはウクライナ等の戦争と経済問題でしたが、その後に気候変動(環境問題)、インフレ、社会問題が続きます。
皮肉なことに、この報告書では、サステナビリティに対する人々の懸念には表層的なところがあり、サステナビリティに進展がないことを「公衆」の責任とする傾向があることが指摘され、個人の価値観や意識と行動の間に明白なギャップがあることが明らかにされています。「公衆」はサステナビリティに対し自分の役割を果たすことは厭わずに進んで行いますが、このような問題を自ら深く掘り下げて考えようとまではしませんし、個人としてこの問題に取り組むことができていません。
とはいえ、サステナビリティがますます個人に関わる問題になってきており、自分たちの健康、生活環境、社会とその繁栄に影響を及ぼすことは「公衆」も理解できています。カンターによる調査(グローバル・イシュー・バロメーター)では、「自分を含めて人々は、気候変動と戦うためにできることは何でもしなければいけない」という考えに71%の人が賛成しています。また、61%の人が気候変動、公害と私たちの健康との間に関連性があると考えています。
現在、サステナブルな選択肢というのはかなり高額なものになってしまっており、この分野での「初期行動者」には理にかなったものであっても、多くのブランドにとっては戦略的に実現可能なものとはいえません。手頃な価格で手軽にサステナブルな選択肢を求めるマスマーケットでは、この価格戦略では足踏みをしてしまうことになります。ブランドのポートフォリオと消費者を横断的に分析してサステナビリティの価格ニーズに応えられる自社なりの機会を探り出し、実施可能な価格設定を検討した上で消費者がサステナビリティを推進するメリットを明快にしていくことがこれからのブランドには必要です。
個人の価値観と行動の間のギャップを埋めるためには、現在行っているサステナブルな行動を支えたり、新たにサステナブルな行動をとりやすいように、製品やサービスが設計されていることも大切です。持続可能な結果をもたらすためには行動科学的な視点から自社の製品やサービスを考えてみることも必要です。人々がサステナブルな選択をする動機は何かをよく理解した上で、「サステナブルとは簡単なことでサステナブルに行動することは望ましいことだ」と人々に思わせる必要があります。こうしたブランドの努力により人々の価値観と行動とのギャップが狭まっていき、サステナブルな選択をより身近で魅力的なものにすることができます。
環境破壊、生物多様性の損失、気候変動に対処しなければいけないと人々が考えている今こそ、ブランドにとって変革の時であると言えます。ブランドがこれらへの対処をしくじると、エセ環境擁護主義(グリーンウオッシュ)と疑われたり不信感を持たれたりして、顧客を失ってしまう危険性があります。その一方で、正しい洞察と意志に基づき行動することで、このチャンスを活かしより持続可能な未来を創造することもできます。
サステナビリティを消費者にとってより身近で手頃なものにするために、ブランドが考慮すべき点は以下の5つです。
- 現在の価格想定を見直す:サステナビリティは高級なものと思われがちで、多くの消費者は環境に配慮した製品は高価であると思い込んでいます。このような認識は、環境意識は高くても、高いお金を払うことができない、あるいは払いたくない多くの消費者にとって障壁となってしまいます。ブランドは、サステナビリティをより多くの人に身近にするため、価格想定を見直す必要があります。特に生活費の高騰がいわれる今、サステナブルに高額を費やせる人は多くはありません。これが人々のフラストレーションとなっています。サステナブルな選択が可能なビジネスやブランドでなければ、人々の価値観と行動のギャップは埋まることはありません。
- 値付けの発想を変える:お客さまが喜んでお金を出す高額商品は常に存在します。例えば、高級品の分野では、サステナブルな行動をけん引している好例が数多くあります。しかし、もしこれがサステナブルを可能にする唯一のビジネスモデルだとしたら、サステナブルなものはすべて高級品となってしまい、市場はそれ以上に広がらないことになります。しかしながら、これまで見てきたように、サステナブルな考え方や商品に対する受容性は大きな広がりを見せています。高額品は必ず存在しますが、サステナブルな商品は高級品に限られるべきではないはずです。このようなアプローチでは、サステナブルな商品が大きく広まる可能性を限定してしまいます。例えば、イギリスのコープでは、食肉や乳製品の植物性食品(PBF)を高額では販売しないことを決定しました。サステナブルな商品をより手頃にするために、値付けの発想の仕方を変える必要があります。
- 価格モデル自体を見直す:いくつかの調査でサステナブルな商品であれば少しくらい高くても構わないと多くの人は思っていることが明らかになっていますが、それは環境に配慮した製品に見られがちな法外な値段のことではありません。いつの日かそれが新しい標準となるかもしれない市場で、その成長を妨げるような価格モデルは見直す必要があります。
- アピールするターゲット消費者層を広げる:サステナビリティ分野の「初期行動者」ブランドは環境に極めて関心が高い消費者層をターゲットにしていますが、サステナビリティへの関心はこの層以外に広がっています。 カンターの調査ではサステナビリティへの消費者の態度には4パターンがあり、価値観と行動が一致している「積極派」は全体の約1/3で、残りの2/3は価値観に行動が伴っていないことが分かっています。後者は大半が「理想派」と「現実派」に分かれ、価値観や行動への現れ方のニュアンスが微妙に異なります。このサステナビリティに前向きだが行動が伴わない「理想派」と「現実派」にまでアピールの幅を広げる必要があります。彼らにサステナビリティの本来の意義を伝え、利用しやすい価格帯を提供していく必要があります。
- サステナビリティを標準とした革新(商品開発)を行う:サステナブルなイノベーションとは、開発の初期段階からサステナブルの原則を組み込んだ設計を行うことです。今後ますます法的規制が強化され、さらなる変革の必要が増えていくため、ブランドには迅速に対応する力が必要になります。また、小売業もメーカーに対して、サステナブルではない要素をブランドから取り除くよう圧力を強めていくことになります。素材や資源の再利用からサステナブルな実践が促進される行動変容までも視野に入れた、サステナビリティを標準においた革新(商品開発)をおこなっていく必要があります。
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