成長性と収益性に大きな影響を与える「差別性」。この「差別性」を高める手段の一つとして、トレンドを取り入れたイノベーションを行うことが挙げられます。では、どのようにしたらそのようなトレンドを探して、ヒット商品を生み出すことができるのでしょうか?サーベイ以外のデータを用いたトレンドの探し方をご紹介します。
日本ブランドの課題は差別性
KANTARがこれまで実施してきたブランドに関する膨大な調査データから、強いブランドの潜在的な規模と、成長性、収益性は、「意義性」「差別性」「想起性」の3つの上位因子のバランスによって説明できることが分かっています。そして、過去にご案内した「現代マーケティングのジレンマ」シリーズでは、差別性が成長性(将来のブランド選択)と収益性(価格に対する価値のパーセプション)において大きなウェイトを持っているということをご紹介しました。
さらに、昨年発表した「2023年度版 カンターBrandZ最も価値ある日本ブランドランキング」のウェビナーでは、国内においても海外においても、この差別性において日本発のブランドがグローバルブランドに比べて劣勢にあり、「差別性」を好意度や純粋想起と同様に重要指標として管理することが重要であるということをご説明しました。
では、「差別性」を高めていくにはどうしたら良いのでしょうか。「差別性」を構成しているのは、「ユニーク度」と「流行牽引度」です。「ユニーク度」は、ブランドが独自性を持っていると感じられているかを表しており、「流行牽引度」は、文字通りトレンドを作り出していると思われているかを表しています。
面白いことに調査で得られる流行牽引度の高低でブランドをグルーピングして、それらのグループのソーシャルメディア上での言及量を見てみると綺麗な相関がみられます。つまり、トレンドをおさえたイノベーションを行うと、ソーシャルメディアをも味方につけることができるのです。
この記事では、「流行牽引度」に着目して「差別性」を高めるために、どのようにトレンドを見つけて、商品やサービスのイノベーションにつなげていくのかについてご紹介します。
差別性につながるトレンドがヒット商品を生み出す
「世の中のトレンドをおさえれば、ヒット商品が生まれる。」というのは、当たり前のように聞こえるかもしれません。既に存在する大きな流れを味方につければ、自然にブランドは成長するからです。
しかし、そのトレンドを探すのは簡単なことではありません。例えば、ソーシャルリスニングでカテゴリに関するキーワードをクエリとして使用してトレンドを探そうとしても、それはカテゴリ内で何かしらのヒット商品が既に作り出しているトレンドである可能性があります。もし既に競合が提供している価値であれば、いわゆる、「Me Too Launch」となり、トレンドは味方にできるものの、差別性を構成するもう一つの要素である「ユニーク度」が高まらない可能性があります。それゆえ、トレンドを探すとき、しばしば「周辺のカテゴリまで広げたトレンド」を調べたいと声があがります。また、そのトレンドがどういった周期のものであるかも着目する必要があります。さまざまなトレンドが短サイクルで立ち上がっては、消えていくという中で、今後も継続する太いトレンドを探さなければなりません。
では、どうしたら次のトレンドを探すことができるのでしょうか。実は、検索データが太いトレンドを探す上で重宝します。なぜ太いトレンドにつながるかというと、1つ目はより広い層の情報ニーズを示しているからです。例えば、ソーシャルリスニングでは発言量を見るため、若い人の声が中心となり、サイレントマジョリティの声が拾えません。一方、検索は老若男女問わず広く使われており、検索ボリュームはあるキーワードについて調べられた回数を表しています。2つ目は、調べることで物事の判断基準が変わる可能性があるからです。調べるという行為は、脳に負荷がかかる意識的な思考モード「システム2」を使う作業になります。そして、調べた結果は、その後、日常生活での意思決定の大半に影響する無意識で自動的な思考モード「システム1」を変化させます。例えば、体調で気になることがあり検索して調べていたところ、ある成分や原材料に関する情報を見つけます。そして、その情報に納得した場合、その後はその成分を含むかどうかが自動的に意思決定に影響を与えるはずです。実際、検索データはマーケットシェアの先行指標となる他、COVID-19の感染者の広がり、メディアの露出量、選挙時の投票意思などと相関がみられています。また、検索キーワードはトピックとしてまとめられており、国を超えたトレンドを簡単に見ることができるのも魅力です。
ヒット商品の元になるトレンドが検索データに表れているかについて、事例を見てみましょう。まずは多くの女性ファンをもつヘアケアブランド「ボタニスト」です。このブランドは、2016年時点で差別性がカテゴリの中で圧倒的に高く、その後2年で大きくブランドが成長しました。また、販売されている価格が競合商品よりも高いにも関わらずヒット商品となっており、「差別性」が成長性と収益性に有効であることを説明する典型的な事例だと言えます。
検索トレンドを見てみると、「ボタニカル」というキーワードが「ボタニスト」が登場する前に盛り上がっています。つまり、周辺カテゴリで既にトレンドとなっていた「ボタニカル」を、ヘアケアカテゴリに素早く適用したとことが1つの成功要因であると読み取れます。他カテゴリで作られた「ボタニカル」の連想を、ブランドとして活用することで既存のヘアカテゴリにはなかった価値を作り出し、テレビCMを使わずに競合ひしめくヘアケアカテゴリで大きな成長を果たしました。さらに、周期の観点では、ボタニストが登場する手前ではボタニカルのトレンドは下がり気味であったものの、ボタニストのヒットによってボタニカル自体も長期のトレンドに変化しています。このように、検索データを用いることで新しいトレンド候補を探索することができ、また、トレンドを活用することで差別性を高め、成長性と収益性を高めることができるのです。
検索データは生活課題の宝庫
生活の中で困ったときなどに検索をすることはありませんか?ネスレの元社長兼CEOであった高岡浩三氏は「マーケティングとは顧客の課題解決そのものだ」とおっしゃられています。そう、実は検索データは、マーケティングやイノベーションの元になる生活課題の宝庫なのです。
2022年に大きなヒットとなったヤクルトのY1000の例をご紹介します。ヤクルトは、世界の人々の健康を守りたいというパーパスを掲げて、乳酸菌シロタ株による免疫で人々の健康を守ってきました。Y1000は、ストレスや睡眠に対するベネフィットを掲げてローンチされた商品です。下の検索量の推移を見ていただくと、2010年以降、免疫以上にストレスや睡眠に関する関心が高まっており、心の健康も社会的関心の一つとなっていると言えます。このトレンドは徐々に広がっていったのですが、2022年に登場したY1000はホワイトスペースとなっていたそのようなトレンドやニーズに応えることとなり、大きなヒット商品になりました。また、体だけでなく、心の健康もカバーするブランドとして、ドメインを広げることができました。新たなトレンドを誰よりも早く察知して、時代を先取りすることは、イノベーションにおいて非常に重要なことです。
イノベーションの種を見つけ出す
ここまでで差別性を高めるためには、トレンドをキャッチしたイノベーションが有効であることがおわかりいただけたかと思います。ただ、トレンドだけの差別化ではすぐに他社に真似されてしまいます。そこで、ブランドアイデンティティや世界観といった簡単には真似できない独自性を加えることで強い差別性が成立するのです。
では、実際にトレンドをキャッチして、イノベーションにつなげるにはどのようにしたらよいのでしょうか?無数に存在する検索キーワードの中から、カテゴリの周辺にある太いトレンドを見つけるには多大な労力が必要となります。そこで、KANTARはEmerging TrendsというDXアナリティクスを提供しています。これは、任意の50-100のトピックから、関連する数万のキーワードをGoogleの検索データから探してきて、それらのキーワードの検索規模と、短期、中期、長期のトレンドからモメンタムがあるキーワードをマッピングするソリューションです。そして、太いトレンドとなるキーワードが見つかった後は、そのキーワードをクエリとしてInstagramやTwitterを検索することで、そのトレンドがどのようなコンテキスト、ビジュアル、ンフルエンサーと共に会話されているのかインサイトを手軽に得ることができます。
DX Analytics: Emerging Trendsの概要
Emerging Trendsでは下記のような課題に答えることができます。
- 周辺のカテゴリでの、短期・中期・長期のトレンドには何があるのか?
- 注目を集めている成分や原料、効能は何か?
- どのような生活課題やニーズが高まっているのか?
- 海外のトレンドで面白いものはないか?
- サステナビリティに関して何が関心を集めているのか?
Emerging Trendsのアウトプットイメージ
トレンドインサイトを得た後は…
トレンドについて深く理解し、インサイトを得ることができたら、それを使って商品やサービスのアイデアやコンセプトを作っていきます。KANTARでは、ポテンシャルがあるアイデアやコンセプトを短期的な売上だけではなく、意義性や差別性といったブランドの収益性と成長性に重要となる指標でも評価を行っています。
Emerging Trendsの詳細をお知りになりたい方は弊社までお気軽にお問合せください。
■本件に関するお問い合わせ先
合同会社カンター・ジャパン
PR/マーケティングチーム
E-mail:marketingjapan@kantar.com