マーケッターのためのブランド戦略

競合環境に勝つブランドポートフォリオ戦略と市場分析による成長戦略の立て方②
~ブランドのポートフォリオは何をゴールにして、どのように管理すればいいのか?~

【第二部 戦略篇】 MDS指標を用いたブランドポートフォリオ戦略の考え方


基礎篇 「ポートフォリオの共通基盤となるMDS指標の説明」 
 >> ポートフォリオの共通基盤となるMDS指標①
 >> ポートフォリオの共通基盤となるMDS指標②

戦略篇 「MDS指標からみた10パターンのポートフォリオ戦略の説明」
 >> (1-1)マップのポジショニングから考える① 
   (1-1)マップのポジショニングから考える②  ◀いまここ

本記事はシリーズ構成の続編です。 前回の記事をお読みいただくことで、背景や用語がスムーズにつながり、理解がぐっと深まります。
まだご覧になっていない方は、ぜひ前回からお読みください。


この講座ではマーケティングの観点からブランドのポートフォリオ管理について説明を行っています。
前回までは【基礎篇】として、ポートフォリオ管理の共通基盤となるMDS指標の説明を行ってきました。
今回からは新たに、MDS指標を用いたポートフォリオの戦略的な展開の仕方を【戦略篇】として説明していきます。


【戦略篇その1】MDS指標でみたブランドの現状 
(1-1)マップのポジショニングから考える



前回は、ブランドの差別性と意義性を軸にした「ブランドタイポロジーマップ」と、ブランドのライフサイクルについて説明しました。ブランドの差別性と意義性の組み合わせがブランドの強さを決定し、ブランドマネージメントがその衰えを抑制する役割を果たしていることをお伝えしました。

これから、国内ブランドのMDSブランドタイポロジーマップにおける各象限ごとの構成比や、意義性・差別性がデマンドパワー(マインドシェア)、想起性、フィジカルアベイラビリティ、フューチャーパワー、プライシングパワーといったブランド指標にどのような影響を与えるかについて詳しく解説していきます。



国内データベースでみたMDSブランドタイポロジーマップの各象限ごとの構成比

BrandZのデータベースを用いて、国内ブランドがどの象限に多くいるかを見てみましょう。

ブランドの数が一番多いのが「意義性も差別性も平均以下」の左下象限で約4割(42%)を占めます。それに対し、差別性が平均以上あるブランドも約4割(38%)あり、意義性が平均以上のブランドも約4割(41%)となっています。そして、差別性も意義性も平均以上あるブランドは全体の20%と少数ですが、左下象限以外は20%前後でほぼ均等に分布しています。



意義性はデマンドパワー(マインドシェア)への貢献度が高い

次に各象限ごとにどれ位のブランド力があるのかを見てみましょう。 

下の図では前回の【基礎篇】で説明したデマンドパワー(顧客の心を掴み取る力=マインドシェア)の各象限ごとの平均値を出しています。 

マインドシェアという時は、顧客の頭の中を占めている占拠率(%)を使いますが、ここではそのマインドシェアを標準指数化(平均が100となるように算出された指数)しています。 



当然のことですが、「意義性も差別性も平均以上」の右上象限のデマンドパワーが指数で187と最も高くなります。注意してご覧いただきたいのが、左上象限と右下象限のデマンドパワーの違いです。意義性だけが高い右下象限のデマンドパワーは124と平均以上の高さを示すのに対し、差別性だけが高い左上象限のデマンドパワーは75と平均に劣ります。

このことは、デマンドパワー(ブランドが顧客の頭の中を占拠する力)は差別性よりも意義性が大きく貢献していることを意味しています。



想起性もデマンドパワー(マインドシェア)への貢献度が高い

次にブランドの「想起性」との関係をみてみます。

想起性はブランドの想起されやすさを示す指標でマインドシェア(デマンドパワー)に大きな影響を与えるので、想起性とマインドシェアは類似した結果となります。但し、マインドシェア(デマンドパワー)の時は左側の上下象限で差がありましたが(差別性が高い方がマインドシェアも高くなる)、想起性については左側の上下象限では指数84と82で大きな差はありません。意義性が低い左象限では、差別性は想起性に大きな影響を与えないということになります。




ところが、右側を見ると上下象限でそれぞれ指数127と107で想起性の差が開きます。このように、差別性(象限の上下)は意義性が低いとき(左側象限)は想起性に貢献しませんが、意義性が高いとき(右側象限)は想起性に貢献するようになります。意義性が低ければ想起性は上がりませんが、意義性が高いときは差別性もあった方が想起性はより大きくなるという性質を持ちます。



意義性の高さはフィジカルアベイラビリティの高さと大きく関係する

MDSタイポロジーマップでは右側象限が意義性が高く、左側は低くなります。

【基礎篇】で説明したフィジカルアベイラビリティ(店頭/市場要因)を各象限ごとに見てみると、意義性の高い右象限ではブランドのフィジカルアベイラビリティが高くなっていることがわかります。先に「意義性の高さには体験の有無が大きく影響する」と述べましたが、配荷流通が充分でなかったり店頭に商品が並んでいなければ、ブランドが体験される機会が減じられるということを意味します。意義性を高めたいのであれば、充分なフィジカルアベイラビリティを確保する必要がある、ということになります。




尚、上の図の「フィジカルの力」の見方を説明すると、【基礎篇】で説明した通りブランドのフィジカルの力には防御面(店頭での棚落ちや競合品の特売などによって妨害されることなしに、ブランドが持つマインドシェアが最終的に無事購買に転換されるように「守る」力)と攻撃面(自ブランドにマインドシェアが獲得できていなくても、店頭での大量陳列や特売などでマインドシェアを持つ競合から購買を「奪い取る」力)があります。

前者はマインドシェアが実際に直近購買に転換された比率で表すことが出来ます(転換率が高いほど店頭でのマインドシェアの防御力が高い)。また、後者の攻撃力はシンプルに「マインドシェアを持たないのに直近購買された」購買シェア(%)を見ればわかります。BrandZのデータベースを見ると、ブランドの購買シェアの平均で7割弱程度はマインドシェアが伴っていますが、それ以外の3割強はマインドシェアがあるブランドとは違いブランドが実際に購買されていることになります。

上の図の矢印マークの下部には「防御」力であるマインドシェアの購買転換率、矢印マークの右側には「攻撃」力であるマインドシェアなしに購買された平均シェア%が記載されています。どちらも数字が大きいほど、フィジカルアベイラビリティが高くなります。

BrandZのデータベースを見ると、この「防御」力の高さと「攻撃」力には相関がみられるので、どちらも高ければフィジカルアベイラビリティが高いと判断することが出来ます。



差別性が高ければブランドに勢い(フューチャーパワー)がつく

「フューチャーパワー」とはあまり聞きなれない言葉だと思いますが、詳しい説明は【基礎篇】にありますのでそちらを参照してください。

>>【基礎篇】はこちら


簡単に言うと、ブランドが持つ「勢い」みたいなものを表す指標です。算出の仕方は、ブランドの知名度の大きさから想定される意義性や差別性の期待値を算出して、その期待値と実際の測定値とのギャップを見ることで、「知名度はそれほど高くないのに、知名度から期待される値よりも高い値を持つ」=ブランドには今後伸びていく勢いがある、と解釈できます。

逆に「知名度は極めて高いのに、その知名度の高さから期待されるほどの値が獲れていない」場合は、ブランドは勢いを失いつつあると判断されます。

フューチャーパワーは成長確率(データベース上で検証することが出来る、1年以内に購買シェアが伸びる確率)に置き換えていますが、更にそれを標準化指数にもしています。

下図(平均を100とする標準化指数を使用)を見ると、差別性の高い上部象限ではこのフューチャーパワーは高くなることがわかります。差別性が平均を下回る場合(下部象限)、フューチャーパワーの標準化指数も平均(100)を下回ります。




フューチャーパワーの指数が「平均」というのはブランドのシェアが上がる確率が五分五分(シェアが上がる/下がるの確率が等しい)を意味します。指数が平均を下回るということは、シェアが下がる確率の方が高い、ということを意味します。(但しこれはあくまで確率論の話であり、実際に必ず下がるという訳ではありません。)



差別性が高ければブランドの価値(プライシングパワー)も高く感じられる

「プライシングパワー」も【基礎篇】に説明されていますが、ブランドが持つ価値を示す指標で、消費者がブランドに知覚される価格に対して、その価格以上/同等/それ未満の価値を感じるかを表します。この指標も100を平均にした標準化指数で示され標準化の仕方は他の指標と同じなのですが、価格に対する価値の感じ方(反応の分布)には他の指標ほど大きな隔たりはありません。

下表は【基礎篇】でもお見せしていますが、指数94から105までの間に全体のほぼ7割が分布しており、他の指標の指数と較べて指数スコアが1違う重みが大きく異なっています。




このプライシングパワー(ブランドの価値)もフューチャーパワーと同じように、差別性の高い上部象限で高くなります。差別性が平均以下の下部象限ではプライシングパワーの指数が平均を下回っており、ブランドの価値を上げるためには差別性が不可欠であることを示しています。



まとめ


国内ブランドの約4割が「意義性・差別性ともに平均以下」の象限に位置していますが、意義性が高いブランドはマインドシェアや想起性、フィジカルアベイラビリティに強く影響し、顧客の心を掴む力が高まります。

一方、差別性はブランドの勢いや価値(フューチャーパワー・プライシングパワー)に貢献し、将来的な成長や価格に対する納得感を高めます。特に意義性が高い場合は、差別性も加わることで想起性がさらに向上します。

ブランド力を高めるには、意義性と差別性の両方を戦略的に強化することが重要です。



今回の記事では、MDSブランドタイポロジーマップを活用し、国内ブランドの分布や「意義性」と「差別性」がブランド力・想起性・フィジカルアベイラビリティに与える影響を整理しました。特に、意義性が高いブランドが市場で強い存在感を持ち、差別性が将来の成長やブランド価値を左右することがご理解いただけたのではと思います。

次回は、この知見を踏まえて「どの象限のブランドにマーケティング投資を優先すべきか」を解説します。

市場優位性のあるブランドへの投資戦略から、成長性の高いブランドの見極め方、そして「差別性」を「意義のある差別性」に変える具体的アプローチまで、実践的な視点でお届けします。

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