マーケッターのためのブランド戦略

競合環境に勝つブランドポートフォリオ戦略と市場分析による成長戦略の立て方
~ブランドのポートフォリオは何をゴールにして、どのように管理すればいいのか?~ 

【第二部 戦略篇】 MDS指標を用いたブランドポートフォリオ戦略の考え方


【第一部 基礎篇】ポートフォリオの共通基盤となるMDS指標

【第二部 戦略篇】MDS指標を用いたブランドポートフォリオ戦略の考え方  ◀いまここ



ブランドのポートフォリオを効果的に管理して「戦略的」に強化するためには、市場における各「ブランドの力」をできるだけ客観的に「見える化」し、競合状況を踏まえた適切な「成長戦略」を持つ必要がある


この講座ではマーケティングの観点からブランドのポートフォリオ管理について説明を行っています。前回までは【基礎篇】として、ポートフォリオ管理の共通基盤となるMDS指標の説明を行ってきました。

今回からは新たに、MDS指標を用いたポートフォリオの戦略的な展開の仕方を【戦略篇】として説明していきます。


【戦略篇その1】MDS指標でみたブランドの現状

(1-1)マップのポジショニングから考える

目次



MDSブランドタイポロジーマップとブランドライフサイクル

これまで説明してきた通り、タイポロジーマップではブランドの差別性を縦軸、意義性を横軸にして各指数の大きさで市場にあるブランドをプロットしたマップです。




MDS(M:意義性、D:差別性、S:想起性)のうち想起性はマップに軸がありませんが、代わりにマップ上の●の大きさで想起性の大きさを表しています。縦横軸と違って●の面積の大きさは少し較べにくいので、指標の大きさで●を色分けして比較しやすくしています。

差別性x意義性の4象限で得られる区分けはシンプルで判りやすくなっています。どちらも高いかどちらも低い、あるいはどちらかだけが高いの4パターンしかないからです。当然ですが、どちらも高いのが一番よく、どちらも低いのが一番悪い状態となります。

製品の場合はプロダクトライフサイクルといって、長期的な市場における賞味期限=寿命がある、と言われています。一番わかりやすいのが、競合テクノロジーの進化により製品の市場価値が劣化してしまう場合です。

これに対してブランドの場合は、ブランドマネージメントという考え方自体が、そもそも商品劣化を防ぎロングセラー商品のようなLTVの高い商材を作り出すためのものだと捉えられています。確かに強いブランドにはロングセラーが多く、長年にわたりブランドに活力が維持されているのが事実ですが、それでも時間が長く経過すれば、ブランドの活力(ブランドパワー)も落ちてくるのが自然の道理(エントロピー増大の法則)であり、ブランドにもライフサイクルはあり劣化をすると考え、それを効果的に抑制する技術がブランドマネージメントということができます。




ブランドライフサイクルの主要なドライバーは意義性



このブランドライフサイクルは、左下象限の差別性も意義性も低い状態から始まり、左上の差別性が高い状態から右上の差別性も意義性も高い状態(最盛期)に至り、差別性が衰えて意義性だけで支えられている右下象限から意義性も衰えた左下象限へ理論上は1周します。

これはあくまでも考え方(理論)であり、実際には意義性が高まる前に途中で淘汰されてしまうブランドが多いと思いますし、意義性の高い右側の象限で長期間活躍しているブランドも多いのが事実です。

こうした事実には「意義性」の性質の影響があります。「意義性」は体験を伴わないと評価が上がらないので、意義性の評価を上げる=体験を上げること自体に壁があります。「想起性」が高いブランドであれば体験もされやすいのですが(知っているブランドであれば失敗も少ないと思われるから)、想起性が低いブランドの場合は「意義性」を説得しなければ体験につながらないからです。そして、「差別性」も「意義性」も低ければ「想起性」は高くなりません。

その一方で、「意義性」は一旦高い評価を得ることが出来れば比較的持続しやすい傾向があります。意義性の評価は「ニーズの合致」という合理性と「愛着」という情緒性の両面から評価しますが、両者は高い相関関係にあることがわかっています。ブランドへの愛着といった情緒的関係ができあがると消費者の心の中にロイヤリティが生じて習慣的購買につながり、ブランド力も持続されやすくなると考えられます。




差別性と意義性の組み合わせがブランドを強くする

技術的な先進性に差別性がある商品(例えば、他の電動のこぎりでは角材を切断するのに1分かかるのにわずか30秒で切断できるブランドX)の場合、競合も技術革新または模倣によって30秒で角材を切断できるようになればブランドXの差別性は摩耗/陳腐化してしまいます。

あるいはユーザーが日曜大工愛好家の場合、1分と30秒の角材の切断時間の違いに「意義」を感じないこともあります。それに対し、短時間で手際よく切断ができ素人の自分でも上手な仕上がりになったという体験が、ブランドXに愛着(ロイヤリティ)を感じさせた場合は、その体験により強化された意義性は摩耗/陳腐化しにくくなります。



また、上の図の右象限で右上から右下に差別性が経年劣化するのを防ぐためには、電動工具の軽量化・消音などの技術開発に率先して技術改良をして新製品を投入しているといった業界リーダーシップや、クラフトマンシップ(プロの職人のこだわりポイント)への理解の深さが他とは違う、といったブランドイメージが最新ニュースを通じて伝わってくることが有効となります。

(前回【基礎篇】「意義のある差別性」以外にブランドの差別化を強化する方法の章を参照・・・ https://kantar.jp/79705/


ブランドの差別性と意義性は、単なる理論ではなく、ブランドの持続的な成長と活力維持に直結する重要な要素です。MDSマップを活用することで、ブランドの現在地とライフサイクル上の課題を可視化し、戦略的なブランドマネージメントの方向性を見出すことができます。


次回は、国内ブランドをMDSブランドタイポロジーマップ上で分類し、各象限の構成比や「意義性」「差別性」がデマンドパワー(マインドシェア)、想起性、フィジカルアベイラビリティ、フューチャーパワー、プライシングパワーといったブランド指標にどのような影響を与えるかを詳しく解説していきます。ぜひご期待ください。

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