生成AIの波に乗る:消費者動向と産業への影響

AIは、ビジネスプロセスへの応用を越えて、私たちの現実の一部となりつつある。生成AIが注目されるようになった今日、消費者は生成AIについてどのように感じているのか?



2022年11月にOpenAIのChatGPTが一般利用を開始して以来、生成AIが話題となっています。あらゆる分野で、効率性の向上や創造性の喚起など、AIをビジネスプロセスに取り入れる方法が検討されていて、メディアは今もこの話題に関する議論や論争で盛り上がっています。2023年5月には、アメリカ脚本家組合(Writers Guild of America)と映画俳優組合(Screen Actors Guild)が、生成AIの使用を含む問題で労使間の意見が対立しストライキを起こす騒ぎにまでになりました。このように生成AIが注目され、生活のあらゆる場面でますます広く使われるようになった今、消費者は生成AIについてどのように感じているでしょうか。

AIでトピックを検索

消費者の意見と関心に関する世界最大の検索結果データベースであるカンターのTrendEvaluateを使い、過去5年間の検索結果を調べた結果、AIは消費者にとって大きな関心事であることがわかりました。AIは今や、”インターネット”、”パソコン”、”ビデオゲーム “といったベーシックなテックトピックと同じくらい検索されています。2023年4月から2024年4月にかけて“AI”の検索クエリはなんと184%も増加し、月平均1億4000万回以上も検索されています。他のテックトピックで例えば“メタバース”を見てみると、“メタバース”の関心は起伏が激しく、同期間で“メタバース”に関する検索は60%以上減少し1ヶ月あたり130万回まで下がり、更に短期間で減少を続けています。

「人工知能」というトピックの検索結果



ChatGPTは特に人気のあるクエリで、検索結果を独占しています。しかし興味深いのは、この分野では新しいプラットフォームが登場するごとに検索も細分化されていき、消費者も現在の主流の先を行こうとします。Copilot(Bing AI)、Gemini(旧Bard)、Janitor AIといった他のプラットフォームに関する検索は、高い割合で増加しています。

AIによるコンテンツ制作に対する消費者の関心は、最近特に画像生成のようなアートの分野で高まっていて、AIアートに関する検索は2023年4月から2024年4月の間に+90%増加しており、これはAI&テック分野の中で最も高い伸びです。全体的には、生成AIの特定の分野で月間クエリ量が平均240万件もあります。画像生成の上位キーワードには、「bing image creator」、「midjourney」、「画像生成AI(ai image generator)」などがあります

この分野で他に検索数が多いのは、「インターネットボット(internet bot)」で月平均1,300万件近く、「盗作(plagiarism)」が600万件、「チャットボット(chatbot)」が470万件、「ディープラーニング(deep learning)」が150万件です。人々がこのトピックについて理解を深め、より具体的で詳細な検索を行うようになるにつれて、「インターネットボット(internet bot)」の検索数は減少する傾向にあります。






では、これらの数字は何を意味するのでしょうか?

  • 第一に、消費者は生成AIに関心を持っています。彼らは頻繁にこのトピックについて調べていて、時間の経過とともに、検索に使用される用語がより具体的になり、彼らの知識も増えています。

  • 第二に、TrendEvaluateのデータによると、人々はアート生成AI、cobots(人間と協働し、AIや機械学習アルゴリズムを通じて学習する協働ロボット)、インテリジェント・エージェントなどの手法を通じて効率を高めることに関心を持っています。このことは、消費者は一般的な態度として、生成 AIの使用に対してオープンであることを示唆しています。

  • 第三に、懸念すべきこともあります。AIツールの改良が進み一般の人々も使えるようになって、AIが生成したものは「本物」と見なせるのかという問題もトピックスとして目立ってきています。例えば、世界中の教育機関が、学生のAI利用をルール化して制限しており、アートの世界では自分たちの作品がAIによって複製される危険性が懸念されています。 


これはGoogleの検索結果にも反映されていて、”plagiarism checker (盗作チェッカー) “や “AI detector (AI検出器) “といったキーワードが多く検索されています。” Plagiarism remover(盗作除去器)”の検索数は、2023年4月から2024年の間に25%増加しています。

このことは広告業界にとって何を意味するのでしょうか?

制作現場での新たなツールとして生成AIを活用する場合、費用対効果は重要なポイントであっても、創造性を阻害するのではないかと懸念する声もあります。アンダーアーマーの最近のAI搭載広告「Forever is made now」はその一例です。クリエイティブな作品を生成するAIの能力に多くの人が感動し興奮する一方で、過去のクリエイターの作品が何のクレジットもなしにAIのデータベースに利用されてしまうのはクリエイターに対し公平といえるのか、という論争も起きています

プライバシーと保護

AIモデルの学習に公開された作品がデータとして使用されることで著作権問題が起きることをクリエイティブ業界が懸念しているように、消費者もまた、AI関連システムで自分の個人情報がどのように使用されるかを懸念しています。「個人データ」、「一般的なデータ保護規制」、「情報プライバシー」といったトピックは、消費者がより多くの情報を得ようとする関心の高いテーマです。

客観性と公平なAI

AIがコンテンツを作成する時は、著作物のオリジナリティや適切な引用のされ方、内容の客観性について人々は懸念を持ちます。AIにアルゴリズム・バイアスが生じるということは、AIに最初に学習させるデータやアルゴリズムの設定はヒューマン・バイアスの影響を受けるので、結果も歪んでしまうということを意味します。KantarのTrend Evaluateによると、検索ワードとしてのアルゴリズム・バイアスは、ボリューム自体まだ比較的少ないのですが、過去6ヶ月間で50%近くも増加しています。これは、人々が公平なAIの必要性をより認識し始めており、アルゴリズムの偏りがどのような影響をクリエイティブやテクノロジーに与えるかについて関心を高めていることを物語っています。

AIに対する基本的な態度

検索された数を調べればいま何が人気かを知ることはできますが、消費者の視点でいえばそれだけではありません。消費者は生成AIに興味を持っていると思いますが、それは肯定的なものなのでしょうか?

KantarのMedia Reactions 2023の調査によると、世界の消費者の93%が生成AIを認知していて、52%がその可能性に肯定的な感情を抱いています。特に否定的な感情を抱いているのは17%に過ぎません。カンターが2023年に米国で実施した別の調査では、68%がAI生成コンテンツが広告で使用されることに問題はないと回答しています。しかしながら、41%の人々はAIを使用したことをきちんと告知することを望んでいます。

商品画像はAI生成コンテンツの中でも最も受け入れられやすいタイプで、47%の人々が広告に使われること受け入れています。37%の人は人物画像も生成AIであっても問題ないと感じています。有名人に生成AIを用いるのは、わずか18%にしか受け入れられませんでした。
消費者は生成AIを生活に取り入れる準備ができているようで、懸念はまだあるものの、個人的であれ仕事上であれ、自分の生活をより良くするためであれば生成AIにためらいはないようです。


生成AIに対するこうした消費者の見方は、マーケターにさらなるチャンスの道を開いています。マーケティング担当者はすでに動き出していて、グローバルでは67%のマーケッターがすでにAIに前向きであり、すでに業務や舞台裏でAIを活用して効率化を図り始めています。消費者の視点をよく理解することで、いまどこまでが歓迎されているのか、どんなところはまだ消費者は時間をかけて学ぶ必要があるのか、焦点を絞ることができるようになります。

生成AIという言葉が一般によく知られるようになりましたが、これから長い旅路が始まったにすぎません。検索バーで見えないところにある消費者の意識や態度をよりよく理解していくことが欠かせません。 


 

原文: Navigating the Generative AI Wave: Consumer Trends and Industry Impact 
翻訳監修:カンター・ジャパン 堀義弘、横須賀美緒 

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