B2Bでも顧客の心を強く掴むためにブランドマーケティングを行うことは必須であり、B2CとB2Bの基本的な違いが理解できていれば、B2Cのフレームワークを用いることが出来る。
このシリーズではBrandZのデータベースを使って、国内の個別のカテゴリーの事例を紹介しています。
前回は、リテールバンキングを取り上げ、世の中のEC化を背景にしたネット系銀行が手数料の安さという「意義のある差別性」を武器に伸長してきており、消費市場の変化につながる新しいエコシステムが形成されつつある潮流をみてきました。
しかしながら、こうしたリテールバンキングは銀行業務の一部にすぎず、メガバンクをはじめとする大手銀行は法人部門が業績の中心となっています。そこで今回は、ビジネスバンキング(法人部門)を取り上げて前回のリテールバンキングとの違いをみていきたいと思います。
しかし、ビジネスバンキングカテゴリーを説明する前に、最初にBrandZのデータベースが扱っているB2Bカテゴリーやその解釈の仕方について説明をしたいと思います。というのは、BrandZのB2Bデータについて「B2Bの場合でもB2Cのようなブランドの考え方をしてもいいのか? 消費財でブランドというのは理解できるが、B2Bでブランドとは何を意味しているのか?」といったご質問をよく頂戴するからです。こうしたご質問の背景には、B2Bで行うべきマーケティングをどう捉えるべきか、という問題があるように思われます。
B2BはB2Cとは明らかに違う
B2Bでは最終的に売上につながるのは、自社の営業マンあるいは販社・代理店の営業による、顧客との営業的折衝によります。営業の対象となる顧客の担当者(ターゲット顧客)の数はB2Cと較べればかなり限定的となります。
B2Bではこうした営業中心の傾向に加え、顧客の意思決定が意思決定関与者群によって分担・分割される傾向があります。B2Cでは消費者が営業的な直接コンタクトに接する機会が少なく、消費者(自購入者)がほぼ一人で意思決定するのと大きな違いがあります。
さらには、B2Cでは顧客の選択的行動は「パッケージ化された商財を選択するだけでいい」ようにシンプルにシステム化されていますが、B2Bでは顧客の選択的行動はパッケージ化/システム化されてないことが多く、取りうる選択的行動の幅は広く予測不能なことも多いと思います。例えば、「原子力発電所の入札」というような明示・限定的な場合もあるでしょうし、「安全で効率的なパワーステーションの導入」といった裁量の幅の広い課題もあると思います。
B2BではGo To Market(新規市場参入)戦略という言い方がされることが多いですが、自社の持つ技術プラットフォーム(例えば原子力発電システム)が同じプラットフォーム同士で競合するだけではなく、他社の持つ全く異なった技術プラットフォーム(例えば「安全で効率的なパワーステーション導入」課題における風力発電システム)と競合する場合もあると思います。
このような場合は、自社の既存プラットフォームで新規市場開拓(Go To Market)をしていることになります。B2Cで同じ容量12kgのドラム式洗濯機を選定するのと較べて、顧客側の選択肢の広さと複雑さに格段の違いがあります。
B2BでもB2Cと同じように「ブランド」を考える必要がある
このようにB2BとB2Cは明らかに異なるものですが、どちらも「顧客の心を強く掴むこと」が重要という点では共通します。「B2Bだから顧客の心をつかむ必要はない」という営業の方はいないと思います。
B2CでもB2Bでもファネルマーケティング(じょうご状のようにゴールとする目的までアプローチを絞り込んでいくマーケティング)という考え方が広く浸透していると思いますが、顧客の態度を自社にとって有利な好意レベルにまで醸成し、意思決定とクロージングにまで持ち込むためには、ブランド力と営業力のバランスと役割分担が不可欠になります。こうしたファネルの各段階での顧客接点(タッチポイント)をすべて営業で行う場合であっても、広告や販促イベントを用いる場合であっても、検討(接触)の初期の段階では「温め」が必要です。自社の技術力の違いを説明した50ページのパンフレットに目を通してもらうためには、興味や好意が必要でそれがブランド力です。個人差がでる営業マンの属人性に頼るよりも、ブランド力で解決することで効率が良く、営業サポートにもつながります。
こうした「ブランド力」が現状どれくらいあるのかを正確に知る(棚卸する)ところから始めなければ、効果的な営業戦略も立てられないと思います。
BrandZで扱っているB2Bは15カテゴリー/19か国でやや限定的
BrandZのデータベースが、540カテゴリー/54か国で21,000のブランドのデータを取り扱っていることを考えると、B2Bのブランドデータはカテゴリーの種類的にもITやファイナンス系に多く、いささか限定的です。その理由はデータベースにデータを蓄積していくには、B2Bは上述したようにカテゴリーの区切り方が難しく、データを蓄積しやすい定義のカテゴリーが限られること、調査対象者を「購買意思決定にある程度以上関与している人」としているためカテゴリーによっては出現率の制約があるためです。
とはいえ、B2Cのデータと比較して、B2Bでもブランドに関してB2Cと同様の原理や傾向が存在するかを検証するのに十分なデータは蓄積されています。
B2Cと同様に、マインドシェアが高いB2Bブランドは売上シェアも高い
BrandZのデータベース(グローバル)には約2,200ブランドのデータがあります。この2,200ブランドのデータを見ると、B2BブランドでもB2Cブランドと同様に、マインドシェアを獲れているブランドがマーケットシェアも獲れており、また購入検討もされやすいことがわかっています。
検討第一候補よりも直近購入との相関が高いということは、検討段階ではマインドシェアのあるブランド以外にも候補を広めに選定する傾向があることを示します。また、検討第一候補で回答されたブランド数を合計すると100%を超すことが多く、カテゴリーによっては用途・目的に応じた第一候補が複数ある場合も多いようです。
B2Bの売上シェアを説明するのに、企業の信頼度や企業の評判だけでは不十分
B2Bのクライアント企業様では、サステナビリティやCSRなどを含めた「企業の信頼や評判」や関連する企業イメージ項目を聴取して時系列での変化を確認されている企業が多いようです。BrandZのB2Bデータでも下グラフのように、「企業の信頼」とマーケットシェアには高い相関がみられています。
しかしながら、先ほどのマインドシェアの方がマーケットシェア(直近購入)をより高く説明しており、企業としての信頼評価を見るだけでは不十分に思われます。
またBrandZでは「企業の評判」という、サステナビリティやCSR評価を含めた合成指標(RepZ)をB2CとB2Bで算出していますが、B2Cでは企業の「企業の評判」は平均前後に集中する傾向が見られます。それに対してB2Bの方が「企業の評判」が高く評価される傾向が見られ、デマンドパワー(マインドシェアを指数化した指標)との相関もB2Cよりも高くなっており、「企業の評判」はB2Bではより重要ということがわかります。
しかしながら、B2Bでも企業の評判の6割強が平均前後に集中しており、企業の評判を売上シェアのドライバーとして見るには無理があります。企業の信頼や評判といった指標は、競合や世間の相場と較べて特に劣っていることがないかという「衛生要因」を確認する指標としてみたほうがよさそうです。
B2Bブランドのマインドシェアも意義性・差別性・想起性で把握する
ブランドが顧客の頭の中を占拠する要因は、B2C・B2Bで違いはありません。ブランドは顧客に想起される必要がありますし、使用体験から意義を感じたり、他とは違うことが明白である必要があります。
例えば社内で業務プロセス改善による生産性向上というような課題があがった時、真っ先に思い浮かぶブランドが想起性の高いブランドであり、通常は現在採用している商財のブランドが課題対象としてすぐに想起されやすいと思います。そのブランドに生産性を改善させる余地があるかどうかを、これまでのパフォーマンスをレビューすることになります。これは業務なので客観的データを用いた社内報告書の形にまとめられると思いますが、そのときに過去の使用体験でレビューされた内容を実感していることが大変参考になるはずです。
現在採用・使用している商財であれば、満足している点だけではなく、不十分で至らない点・不満な点(アンメットニーズ)も声として当然あがってきます。この辺りから課題論点が明確になってきて、現在採用している商財でアンメットニーズを解消する余地が高いのか、それとも他の代替商財に切り替えたほうが効率・効果がいいのかが議論されることになります。あるいはそのアンメットニーズの解消が業務課題=生産性向上に最も貢献&優先されるべきものなのか、それともほかにより優先すべき領域があるのかも、同時に検討されていくと思います。
この何が最も課題解決に有効で優先順位を高く考えるべきか、という検討過程の中で、差別性が重要な役割を示すようになります。社内議論を通じてアンメットニーズがどのように解消されればいいのかが明確になり、その解消のされ方が明白に他とは違うブランドがあればそのブランドは当然選ばれやすくなり、かつそのブランドを選択することの優先度もあがるからです。
こうした明白な差別性についての吟味選定を経て、最終的にその明白な差別性が自社の課題解決に本当に適しているかが検証されることになります。例えば前職でそのブランドを利用していた経験がある転職組にヒアリングが行われたりして、その差別性が自社にとっても意義のあるものかの確認がなされます。
検討がこの段階になると、営業部門への問い合わせコンタクトが行われることも多くなると思います。営業からの説明や提案が求められることになりますが、そこで重視されるのは「何が違うのか」と「どこで採用されているか」であり、自社にとっての「意義のある差別性」=その差別性のある特長が自社の使用環境では極めて有意義なものとなるか否かがが確認されることになります。
B2B営業力の査定①:営業力によりマインドシェアは購買に転換されることができたか?
ブランドの選定や意思決定は、想起性・意義性・差別性を経由して顧客内に合意形成されていきますが、最終的な意思決定に重要な役割を果たすのが営業的接触です。最近の経済産業省による電子商取引の調査では、食品や輸送用機械などの製造業ではEC化(ネット受発注)率が7割を超えているそうですが、リピート発注による在庫補充需要を除けば未だ対面による商談が重視されていると思います。
BrandZでは、ブランドに対する好意的態度(マインドシェア)を測定するほかに、直近のブランド購買実績も聴取し、両者のギャップを分析しています。ブランドに対する好意的な態度が形成されていても必ずしも購買されるとは限りません。B2Cでも在庫切れや競合の特売価格等によりこうしたギャップが生じますが、B2Bでは営業マンの力の差によりギャップも生じやすくなります。マインドシェア(好意的態度)が取れていたにもかかわらず、価格や取引条件、納期が折り合わず成約に至らないことも多いと思います。こうしたことが増えると、マインドシェアの購買転換率は下がることになります。B2Cを含めた全カテゴリーの平均転換率は60%(国内)でB2B(グローバル)も61%とほぼ同じです。
B2Bでは、マインドシェアの5割から7割が購買に転換する割合が最も高く(約4割)、次いで7割から9割が購買転換するのと、3割から5割が購買転換する割合がほぼ同率(約3割)で並びます。平均購買転換率(61%)を軸に正規分布に近い分布を示しています。
優秀な営業マンと優秀ではない営業マンの比率というのは正規分布に近く、全体でならしてみればどこでも大体同じということかもしれません。
B2B営業力の査定②:営業力には「攻め」と「守り」の側面がある
マインドシェア(ブランドに対する好意的態度)が高くても、営業の力が及ばず購買に転換できなかったというケースがあるなら、逆のパターンも勿論あります。マインドシェア(ブランドに対する好意的態度)は低かったにもかかわらず、営業の力で購買を獲得したようなケースです。会社によっては伝説を持つスーパー営業マンみたいな方がいらっしゃって、このような方は、ブランドにではなくその方自身に、属人的な好意的態度が持たれていることが多いようです。
元々高いマインドシェアを購買につなげるのを「守り」の営業というのであれば、元々低いマインドシェアにもかかわらず購買を作り出すのは「攻め」の営業ということができます。
下の図はBrandZのB2Cブランドの「守り」の営業力(マインドシェアの購買転換率)を縦軸に、「攻め」の営業力(マインドシェアがないのに獲得できた売上シェア)を横軸において両者の関係性をしめしたものです。
また●の大きさが売上シェアの大きさを示しているので、守り(マインドシェアを購買に転換させる営業力)も攻め(マインドシェアなしにセールスを獲得する力)も強い方が、当然売上シェアも大きくなることがわかります。
ブランドの力を活かして売りきる「守る」営業力がなければ、「攻め」の営業の成果も出ない
ここで非常に興味深い事実は、攻めの営業力は弱くても守りの営業力は高い(=左上象限に位置する)ブランドは多くても、攻めの営業は強いが守りの営業は弱い(=右下象限)ブランドはほとんど存在しないという点です。恐らく、一般的に「攻め」の営業よりも「守り」の営業の方が成果を出しやすいため、「攻め」の結果が出ているブランドは当然守りの結果もいいが、「守り」の結果が出ていても「攻め」の結果までがいいとは限らない、ということだと思います。
従って、営業成果を確実に出していきたいのであれば、マインドシェアが獲れているブランドから先に売っていく(購買転換率を高める)ことに優先順位を置いた方がいいことになります。グラフを見ると、購買転換率が7-8割を超えると右方向に伸びやすくなっています。これを考えると、営業活動の指針としてマインドシェアの8割を購買転換の目標に置くと、攻めの成果も出やすくなるように思います。購買転換を8割以上達成できるほどの営業スキルがあれば、攻めの営業で成果も出しやすくなる、ということではないかと思います。
B2BがB2Cと異なるのは、意思決定関与者が多岐にわたって多いこと
B2CとB2Bが大きく異なるのは、意思決定関与者が多く存在し、異なった役割を果たしていることです。それぞれの関与者は異なる動機とMe Agendaを持ちます。Me Agendaとは、「今社内的に数字に強い人とアピールしておきたい」、「上層部にコスト意識が高いマネージャーと思われたい」といった個人的に重要な関心事を指します。こうした動機やMe Agendaおよびそれに基づく言動パターンによって関与者は下図にあるようなタイプに分けることが出来ます。
こうした関与者は明確に役割が割り振られているわけではなく、「財務部のX部長はこの案件の財務面についてS専務の相談相手としてインフルエンサーになっているが、Pブランドを推しているアンバサダーの資材部Y部長とは同期で仲がいい。Y部長は製造管理課長時代に製造部門の課題改善に熱心だったので、いまでも現場のイニシエーター的存在の人たちから慕われており、現場の声への影響力が強い」といったように、社内部署の相互関係の中での役割や行動を理解するのに用います。
こうした社内地勢図を理解するのに、それぞれの役割の方のMe Agendaよく理解しておくことが大切です。例えばX部長であれば、客観的で専門的な相談役として公平・中立の視点を保つことが大事でしょうし、Y部長であれば「現場の問題に精通している人」という自分の社内評価を高めることに関心があるはずです。
優秀な営業マンであれば、個別の顧客社内のこうした地勢図をよく理解して自ブランドの効果的な売り込みをかけていくと思います。そうしたときに、各意思決定関与者は意義性・差別性・想起性のどういったことを重視しており、自ブランドは彼らにどのように評価されているかを知ることは営業的にも重要性が高いと思います。
一方、マーケティングでは個別の顧客レベルでの分析は行いませんが、その代わりに顧客や市場による評価の「共通項」を見出すことを重視します。購買の意思決定プロセスにおいて、意義性・差別性・想起性が評価されるどの段階で、どのような関与者の影響が高まることで、市場におけるマインドシェアが強化されるかを、市場全体の顧客視点で理解することに主眼が置かれます。
「フレーミング」と「ポジショニング」
B2Bのマーケティングでは「フレーミング」あるいは「リフレーミング」ということが言われたりします。「フレーミング」とは同じ事実を伝えていても、伝え方によって受け取られ方が大きく違う、という原理です。
有名な例ですと、ある薬が病気を治す確率が1/3だったとします。600人が服用すれば200人が助かる可能性があり、400人は助からない可能性があることになります。「200人が助かる」と「400人は助からない」は確率論的には同じことを言っているのですが、受容のされ方には違いがあり「200人助かる薬」の方が「400人が助からない薬」より受容性が高くなるそうです。
B2Bのマーケティングやセールスではこうした「フレーミング」を充分に活用すべきと言われています。B2Bでは顧客が重視する視点によって顧客への響き方も違うから、顧客の視点に合わせて説明の仕方や言い方を変えたほうがいいということだと思います。
顧客の視点に立つという意味ではマーケティングでも大いに参考すべきだと思いますが、マーケティングでは個別の顧客に売り切るための原理・法則を発見することよりも、市場の顧客に共通する原理・原則を見つけることを重視します。先ほどのフレーミングの例で言えば、「600人のうち200人が助かる薬」の何が多くの顧客を惹きつけるのかを考えます。その結果、「より多くの患者を助ける」ということが大事であることがわかれば、それを自ブランドの目標や中心価値におこうとします。いわゆるポジショニングです。
その上で、もしどの競合の薬も全て「より多くの患者を助ける」ことに立脚することになり、競合との違いがなくなってしまった時のことを、マーケティングでは考えます。こうした時の市場では、「600人のうち200人」に対して「600人のうち300人」、さらにそれに対して「600人のうち310人」といった目先の違いの争いに陥りがちとなります。
こうした状況下でB2Cのマーケティングであれば、「より多くの患者を助ける」というポジションを細分化または深堀して、競合に対して自ブランドが有利な状況を作り出そうとします。例えば解熱剤の場合であれば、「眠くならない」「1日1回の服用で足りる」等の現状のアンメットニーズを解消する自ブランドの特長を訴えることで意義のある差別性を作りだしていくことになります。
あるいは、解熱剤の用途として「頭痛の鎮痛」、「風邪の諸症状の緩和」といった用途にまで拡大していくことも考えられます。頭痛や風邪の諸症状に対して解熱剤ならではの効き方(緩和の仕方)があるはずで、そうしたことが従来の頭痛薬や風邪薬との差別性や意義性の違いとなれば、ブランドは新たな市場を拡大することが出来ます。
こうした用途の拡大策はB2Cマーケティングではカテゴリーエントリーポイント(CEP)戦略と呼ばれています。自ブランドのカテゴリーの入口(エントリーポイント)を拡げて新たな利用客を増やすので、こう呼ばれています。
B2Cにおけるカテゴリーエントリーポイント(CEP)戦略
B2Cマーケティングでは飽和市場でもブランドの成長機会を確保するために、カテゴリーエントリーポイントの拡大が意識されることが多いです。新しいカテゴリーエントリーポイントに参入する際に大きな障壁となりうるのが想起性の低さですが、隣接したカテゴリーにエントリーポイントを作るようにして、これまで自カテゴリーで築き上げてきた想起性が活かされるようにします。
反面、自ブランドで全く新しいカテゴリーポイントを創出することが出来た場合は、そのエントリーポイントで非常に高い想起性を獲得します。かつてのゼロックスやポラロイドといったブランドは自ブランドが創出したカテゴリー(ニーズ)の代名詞となり高い想起性を誇っていました。今日でいえば、Instagramやメルカリといったブランドがそのカテゴリーエントリーポイントの代名詞となるような高い想起性を有していると思います。
B2Bマーケティングにおける「Go To Market」戦略
一方で、B2BマーケティングではGo To Market戦略という言葉がよく使われ、新規市場参入戦略が重視されるようです。B2Bでは既存顧客だけに依存すると中長期的な経営基盤が安定しないので、自社が持つ技術力やノウハウを活かして新規顧客を獲得していくことが求められるからだと思います。
最初に説明したB2Bの「ファネル」マーケティングという視点で言えば、既存の大口顧客がBOFU(ボトムオブザファネル:数が限られるが売り上げに占める割合が高い)であるのに対し、新規見込み顧客とできるだけ多く接触してTOFU(トップオブザファネル:売り上げに占める割合は低いが数は多く、その中に将来の成長性が期待できるものが含まれる)を拡大しておく必要があるということになります。こうした顧客分析にパレートの法則に基づいたABC分析を行っている企業様も多いと思いますが、クラスAとBの分析と戦略化はパレートの法則性が定量的に理解されれば容易なのに対し、Cをどう活かし強みに変えていくかが重要となりますが、クラスCの大半はTOFUに属することになります。
Go To Market戦略では、TOFUに属する新しい顧客を数多く獲得するため、自社が得意とする分野に隣接する領域まで営業を拡大していかなければならないという点で、先に説明したB2Cのカテゴリーエントリーポイント戦略に類似します。この「自社が強みを持つ分野に隣接した」領域という点と、どちらも顧客が抱えるアンメットニーズに「自社の強みを活かす」形の解決策を提言するという点が、ABC分析のクラスCの強化策にもつながる点が多いと思います。
ただし、ABC分析は既存顧客に関する分析となり、Go To Marketはこれから新規獲得を狙っていく潜在顧客が対象となります。Go To Marketでは当然クラスA顧客になりうる見込み客を優先して狙っていくべきですが、最初からクラスAとなる新規顧客は少ないと思うので、クラスB/Cにいる優良見込み顧客を早期に孵化(ふか)させる必要があります。
上の表はビジネスバンキングを例に、Go To Market戦略を考える上での視点をまとめたものです。ビジネスバンクが取り扱っている分野ごとに、そこで重要視されるニーズと充分に満たされていないニーズ(アンメットニーズ)をまとめています。B2BではB2Cと違い専門性が高いことが多いので、カテゴリーの全てのプレイヤー(ブランド)が、全ての分野を取り扱っているとは限りません。こうした守備範囲の狭い専門ブランドにとっては、隣接する分野カテゴリーは新規参入を検討してもいい市場ということになります。
それぞれの分野が、新規参入を考えるブランドにとってどれだけ検討価値があるかを示すのが、「間口」「市場規模」「潜在競争力」「活用できる既存資産」の4項目となります。
RICE:ターゲット市場の優先度を測る4指標
カンターにはグローバル部門にB2B分析を専門に行っているチームがあり、そのB2B専門チームがまとめた指標のひとつが、RICEと呼んでいるターゲットとすべき市場の優先度を測る指標です。
新規の参入市場として検討すべき優先度は、「間口=市場の参入のしやすさ」「市場規模=参入することで期待できる潜在的売上の大きさ」「潜在競争力=自ブランドが競合に対して明確な差別性を持ち、成功確度が高そうなこと」「活用できる既存資産=その市場に参入するにあたって活用できる強みがどれだけあるか」の4項目で考えればよく、4項目の頭文字をとってRICEと呼んでいます。
カンターB2B専門チームでは、各市場で定性や定量調査を行った結果を基に上記のような分析を行い、今後検討すべき新規参入市場を特定することをお勧めしています。
B2BマーケティングへのMDSブランド調査の活用
BrandZのデータベースにはMDS(MDF)調査というカンター独自の調査・分析手法が用いられています。このMDS手法を用いてカスタム調査を行い、ここまで説明してきたようなB2B市場とブランドの分析を比較的簡易に行うことも可能です。
その際に、B2Cが基軸になっているMDS調査に、B2Bの分析に必要な要素がカバーできるように調整する必要があります。また、こちらは有料の調査となりますので、ご関心がある方はぜひ弊社の営業窓口にご相談ください。
カンターでは、BrandZで測定された世界中のブランドのパフォーマンスやインサイトを無料で閲覧いただけるサービス「Kantar Brandsnapshot」を提供しております。(*英語のみ)
Kantar Brandsnapshotの詳細をお知りになりたい方、サービスのデモンストレーションをご希望される方は下記よりご登録ください。
また、Kantar Brandsnapshotのご紹介はこちらからご覧ください。