視聴者の「アテンション」がメディアと広告効果に与える影響

今年のカンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルでは、AI、ユーモア、コマース、DEI(Diversity, Equity, Inclusion)といった主要テーマ以外にも、「アテンション」(視聴者の注目度)の役割について活発な議論が交わされました。



I-COM Attention ForumARF Validation Initiativeなど、多くの研究者や業界の取り組みがあり、2022年のカンヌライオンズ後にAttention Economy has Landedという記事を投稿して以来、ブランド構築における「アテンション」の役割についての理解は大きく深まりました。

現在、アテンションに関する知識はより幅広く、詳細で奥の深いものになっています。私たちは現在、アテンションの重要性を理解しているだけでなく、アテンションという視聴者とのシンプルな関係性がいつどのように崩れてしまうのかも理解できています。さらに、ブランドがどのように意義あるアテンションを最大化できるのかも理解しています。そこで、ブランドがアテンションを活用してキャンペーンの効果を最大化する方法について、最新のラーニングやインサイトをもとに紹介していきます。


ブランドを成長させるのに十分なアテンションを集められるのはどこでしょう?

アテンションエコノミー(注目喚起の効率効果を重視する考え方)では、1秒1秒が重要であり、最新のアテンション測定技術は広告がどのように機能するかについての新たなインサイトを明らかにしています。カンターの考え方はアテンションが広告効果の鍵であるというARF(Ad Response Model)とほぼ一致しています。また、アテンションを単独で測定したり最適化したりすべきではないと考えています。そのため、カンターのBranded Engagement(ブランドとの関係性形成)の定義は、「広告出稿(Delivery)」から「アテンション(Attention)」、そして「効果(Effect)」へとつながっています。広告がどの程度目に留まるか、視聴者が広告に注目している間にブランドにも注目されるかが重要です。それ以外にも、短期的だけでなく長期的にも人々をブランドにより惹きつけるような、ブランドに関連する新たな要素を広告で提供することも重要です。



また、アテンションが高ければ高いほど、成果が上がることも検証しました。アテンションと短期的な売上推移を対応させることで、受動的なアテンション(ただ見ている)よりも能動的なアテンション(何らかの感情的反応)の方が重要であることがわかりました。しかし、そのアテンションをどう活用するかはもっと重要です。広告がうまくブランディングされておらず、説得力のあるメッセージを伝えていなければ、売上を促進することはできません。

一般的にアテンションがより良い結果をもたらすことを考えると、メディアプランではアテンションが高いと思われる媒体経路をブランドに向けるべきだという意見もありますが、現実はそれほど単純ではありません。Lumen Researchと共同で調査した新たな証拠によると、チャネル全体のアテンションは、費用対効果やブランドへの貢献度とは相関しないことが明らかになっています。

この証拠には、カンターのクロスメディア効果に関する調査結果も含まれます。グローバルで聴取されたLIFT+データベースでは、どのチャネルで最も効果的にブランド構築が行えるかに関する知識が得られています。下図では、X軸にブランドへの貢献度、Y軸にチャネルの費用対効果を示しています。そして、円の大きさがメディアのアテンションの大きさで、Lumen Researchが提供する最新のメディア・アテンション・データに基づいています。対象とするデータは、カンターが過去5年間に世界中でモニターした873のマルチメディア・キャンペーンで、32億ドル(日本円約4,900億円)以上に相当するメディア投資がカバーされています。

テレビはブランドへの貢献度が最も高く、メディアアテンションも高いのですが、費用効果はかなり低いものになっています。映画は最もアテンションの高いチャンネルですが、ブランドへの貢献や費用効果で劣ります。逆に、すべてのデジタルチャネルは、注目度が相対的に低いにもかかわらず、より費用対効果の高いブランド構築を行えます。これは一体どういうことなのでしょうか?もう少し詳しく見てみましょう。




まず、ブランドへの費用対効果のドライバーとは何かについて掘り下げてみます。費用対効果は、さまざまなブランド指標によって表されるインパクトの組み合わせによりもたらされます。Metaは平均的なチャネルと比較して、ブランド構築における全体的な費用対効果が66%高く、人々をブランドに惹きつける資質に特に優れています。Metaは、短期的な購入意向と長期的な「意義のある差別性」において、平均的なチャネルよりも88%強力なリターンをもたらします。逆に、TVの費用対効果は全体的にあまり高くありませんが(平均的なチャネルより41%低い)、認知やブランド連想にはそれなりの効果があります。

では、なぜテレビの費用対効果が低いのでしょうか?その主な理由は、多くのカンターのクライアントにとって、テレビが非常に大きな投資シェアを占めているからです。カンターが測定した結果では、すべてのチャネルでメディア投資額の割合を増加させると、ブランドへの貢献は増加するものの費用効果は低下してしまっています。この過剰投資が最も多いのはテレビで、クライアントはメディア総投資額の平均50%強を費やしています。それに対しYouTube、Facebook、Instagramなどのデジタルチャネルは、それぞれまだ20%以下の投資しかしていません。ここから得られる重要な示唆は、1つのチャネルに多くの望みをかけすぎないことです。媒体への投資はさまざまなチャネルに均等に分散させたほうが一般的にはうまくいきそうです。また、個々のチャネルではより多くのフォーマット(出稿形態)を用いることがより効果的であることも分かっています。




アテンションと費用効果が相関しないのはなぜ?

アテンションとブランド構築の費用効果の関係は単純ではありません。直接相関しない理由はいろいろありますが、そのいくつかを紹介します。まず、映画やTVの1秒1秒のアテンションに同じ値段がついているわけではありません。メディアアテンションが20%多くても、それを得るために50%多く支払わなければならないのでは意味がありません。また、前述したように受動的注意(ただ見ているだけ)と能動的注意では同じアテンションでも大きな違いがあります。そのため、広告レベルでのアテンションと費用効果の相関は驚くほど低くなっています。

要はアテンションは広告で考慮しなければならない要素の一つに過ぎないのです。費用対効果を上げるために大きなメディアアテンションが必要なブランドもあれば、そうでないブランドもあります。1つのキャンペーンで、高いアテンションが必要な長めの“ヒーローアセット”(注目させたい画像や要素)があるかもしれませんが、だからといってキャンペーン全体を高いアテンションにする必要はありません。また、多くの人々がどれくらいの時間注目しているかだけでなく、そこで注目している人についても考慮する必要があります。オーディエンス・ターゲティングの精度が高まれば、費用対効果も大きく変わってきます。

さらに、1秒1秒のアテンションが同レベルの影響効果をもたらすわけではありません。この考えをさらに掘り下げたのが、WARCが発表した電通の調査で、短編動画の方が「アテンション効率」が高いと指摘されています。同じアテンションレベルであっても、長い広告よりも短い広告の方が想起されやすく、購入意向に与える影響も大きいことになります。これを説明するのに役立つのが、ダニエル・カーネマンによって広められた認知科学からの知見です。ノーベル賞受賞学者である氏が唱えるピーク・エンドの法則では、何かを経験した期間の長さは、その経験に関する記憶全体に必ずしも影響を与えないというものです。より大きなアテンションをより多く得ることはもちろん良いことですが、比較的短時間のアテンションでも驚くほど大きなブランド・インパクトを与えることができます。


素晴らしいクリエイティブでアテンションを最大化するには?

それでは、アテンションをもたらす広告メディアの話から、その広告の中で実際にアテンションを最大化する方法の話に移りましょう。


このKahluaの15秒間のFacebook動画は、短期的な売上と長期的なブランドエクイティを促進する効果が評価されて、今年のKantar Advertising effectiveness Awardsの最優秀デジタル広告に選ばれました。この「Gasp featuring Salma Hayek」篇CMは、消費者のアテンションを獲得するのと同時に消費者とのつながりも即座に構築した大胆な例です。


アテンションの効果を最適化するもう一つの方法は、識別性が高いブランド資産を活用することです。

ティンバーランドのインスタグラム広告「This is not a boot」が、Kantar Advertising effectiveness Awardsのデジタル/ソーシャル部門で3位を獲得しました。これはブーツではありません」というテキストにカラフルなブーツが雨のように降り注ぎ、シュールレアリスムへのオマージュでもあるこの広告は、製品にしっかりと焦点を当てています。 ブランドが製品に全幅の信頼を寄せていることを感じさせます。多くの視聴者は30秒間フルに広告に釘付けになると思いますが、そうでない視聴者でもブランドから強い印象を受けるはずです。






最後に、Netflixのさらに長いインスタグラム動画を見てみましょう。最近の「Farewell」広告は、Netflixの識別性の高いブランド資産である「赤い封筒」のジャーニーに焦点を当てたもので、カンターの広告テスト・データベースにおいて、米国でトップクラスのパフォーマンスを記録しています。この広告は、この長さの広告に期待されるものと比べて、高い視聴率レベルに達することに成功しています。視聴者は早い段階から懐かしさに引き込まれ、視聴を続けるうちに感情的に引き込まれ続けます。





Average time of skip: 広告をスキップさせないで視聴を持続させた平均時間
Average of ad played: 広告の平均再生回数
Enjoyment: 広告の楽しませる力
Active attention: 能動的なアテンション



カンターのAttention Frameworkは、アイトラッキングによる微表情分析を採用しており、アテンションを大規模に観察・診断するための優れた方法です。再生、受動的反応、能動的反応、感情診断をカバーするフレームワークは、ARF(米国の広告調査財団)のattention validation initiativeによって定められた業界の指標定義と一致しています。


アテンションに関するインサイトは、メディアや広告の効果をどのように高める?

メディアの観点からいえば、アテンションの最適化が有効であることを理解した上で、広告効果の最適化を考えるべきです。 バランスの取れたチャネルミックスと、アテンションレベルでバランスの取れた広告クリエイティブのミックスがベストです。一般的に、デジタルチャネルは最もコスト効率よくブランドを構築できます。一般的にはこうすればいいといった単純なルールに従うのではなく、自ブランドのアテンションレベルをよく理解し、それを念頭に置いてメディアプランニングをする必要があります。

クリエイティブの観点からは、メディアチャネルやメディアコンテキストに合わせてクリエイティブの構成やストーリーを調整することが重要です。 ブランドは受動的なアテンションよりも能動的なアテンションを優先すべきすが、最終的には全体的な効果での最適化を考えるべきです。ブランドが持つ識別性の高いブランド資産やブランドにとって効果的なことを活用して、広告上でブランドのベーシックなフォーマットを作ることが重要です。

調査測定の観点からいえば、アテンションは従来のKPIを補完するものとして使用されるべきであり、特に置き換える必要まではありません。アイトラッキングによる微表情分析は、アテンションを観察・診断する最良の方法であり、現在ではAI技術がそのインサイトを測定するのに役立っています。

本稿の背景にあるカンターのメディアおよび広告効果測定ソリューションについての詳細は、下記よりお問い合わせください。


原文:https://www.kantar.com/inspiration/advertising-media/how-attention-impacts-media-and-creative-effectiveness 
翻訳監修:堀義弘  

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