ブランドの市場における強み・弱みを類型化し、他カテゴリーのケースも参照しながらデフォルトの「処方箋」をたたき台に使う
前回に続き、今回もタイポロジーのブランドのタイプ(意義性・差別性・想起性の波形の違い)を具体的に見ていきます。今回は後半として下記9つのうち、残りの4つを取り上げます。(「シンボル的ブランド」と「スターなブランド」は一つにまとめているため、ここでのタイポロジー説明は9つとなります。)
タイポロジー分析10タイプの分類
※「シンボル的ブランド」と「スターなブランド」は一つにまとめているため、ここでのタイポロジー説明は9つとなります。
※ 今回は6~9のご説明となります。
※下記リンクよりタイポロジー説明6~9に飛ぶことができます。
- シンボル/スターブランド (Iconic/Star) ブランド例:ANA・JAL、アマゾン・楽天市場
- 気になるブランド (Aspirational) ブランド例:楽天モバイル・グーグル(ピクセル)
- 専門的なブランド (Specialist) ブランド例:ノースフェース・価格ドットコム
- 見ればわかるが名前まで出てこないブランド (Outsider) ブランド例:ピーチ航空・ネスプレッソ
- 皆が知っているブランド (Mainstream) ブランド例:パナソニック・イオン、ゆうちょ銀行・VISA
- マニア受けなブランド (Fighters) ブランド例:生協(コープ)・ニューバランス
- 価格が手ごろなブランド (Limited) ブランド例:ドトール・プーマ
- ありきたりで安売りされがちなブランド (Generic) ブランド例:ビオレ・シャープ
- 顏なしブランド(Clean Slate)
6.マニア受けなブランド (Fighters)
想起性と差別性の水準に対して意義性が高いのが特徴
- マニア受けなブランドは、想起性と差別性が平均程度を超えることはなく、想起性の高さの割に意義性が高くなっています。波形がこのような形になる時は、ユーザーと非ユーザーでの評価が2極化しており、ユーザーでの評価(意義性)は高いが、非ユーザーからの評価とギャップが大きい可能性が高くなります。想起性は低いのでマインドシェア(デマンドパワー)も平均を下回りますが、意義性は高いので平均を大きく下回ることもありません。このような波形が出たときは、意義性の指数に対してユーザーはもっと高い水準にあり、非ユーザーはもっと低い水準にあると理解しておく必要があります。
- マニア受けなブランドの知覚価格とプライシングパワーは平均的となりますが、これも同様にユーザーと非ユーザー間で評価が異なっている可能性があります。知覚価格は価格認識という点ではそれほど変わらない可能性はありますが、少なくともプライシングパワーはユーザーと非ユーザーで大きく異なっている可能性があります。
- マニア受けなブランドの平均的なフューチャーパワー(1年以内にシェアが伸びる確率指数)は、ブランドに熱心なユーザーの存在のおかげで指数109と高くなっています。しかしながら、ブランドの成長にはユーザー数の拡大が不可避なので、この高い成長可能性を実現するためにはユーザーとギャップが大きいと非ユーザーを如何にユーザーに取り込んでいくか=ギャップをどのように埋めるかの工夫が必要となります。非ユーザーをブランドのトライアルにまで持ち込むためには第1回の差別性のところで説明したように、非ユーザーのアンメットニーズを解消する差別性が鍵となると思います。現時点で自ブランドが持っている差別性から非ユーザーをどのようにトライアルまで誘導すればいいかを考える必要があります。
【このタイプのブランド例】
生協(コープ)・ニューバランス
生協もニューバランスも想起性は平均に近く、意義性は平均を上回っているのでデマンドパワーは平均を上回っています。どちらもフューチャーパワーは高いのですが、前述の通り非ユーザーを取り込んでいくには差別性の力が必要なので、差別性の強化が課題となります。ニューバランスは現時点で差別性指数が100を超えている(想起性を上回っている)ので、現時点の差別性でトライアルを増やせる可能性は高いと思いますが、生協は想起性と較べて差別性が低いので現時点での差別性の在り方を見直すところから始める必要がありそうです。
7.価格が手ごろなブランド (Limited)
意義性・差別性・想起性がどれも平均的で特長がない
- 価格が手ごろなブランドは、意義性・差別性・想起性がすべて平均レベルで特に特長がありません。そのためマインドシェア(デマンドパワー)も平均を下回ります。
- ブランドに特長がないため価格も平均的となりやすく(知覚価格指数0.98)、プライシングパワーも平均的(指数99)となっているので価格程度の価値は受容されていることになります。
- 価格が手ごろなブランドの平均的なフューチャーパワー(1年以内にシェアが伸びる確率指数)は、指数90と平均より低くなっています。差別性や意義性が「並」のため成長性が低くなってしまており、意義のある差別性を高める改善策を打つ必要があります。市場には想起性だけではなく意義性も差別性も高いシンボル/スターブランドが存在します。なので、こうした強いブランドに対抗して平均以下の意義性や差別性を上げることは困難が予想されます。そうした場合、ブランドのトライアル体験により醸成される意義性よりも、トライアル体験を誘発する差別性の強化を先に考えたほうが効率的です。
他のタイプのところでも説明しましたが、現在主流のシンボル/スターブランドの「穴」(アンメットニーズ)を探ることに注力し、自ブランドが持つ差別性をそのアンメットニーズの解消に向けたものとしてリポジショニングすることが大事だと思います。もし探ってもシンボル/スターブランドに「穴」がないようであれば、消費者が不満に気づいていないことを考えてみるといいと思います。定性インタビューを行うと最初から不満を口にする消費者は少なく、インタビューで深堀することで回答者は自分の潜在的な不満に気づくことが多いです。人間の消費欲求には「もっと(渇望)」と「もういらない(充足)」の2パターンしかありませんが、「もっと」が強いほど充足の満足度が高くなります。こうした気づかれていない「穴」を探すことがシンボル/スターブランドへの対抗上より有効となります。何故ならすぐにわかるような充足であればシンボル/スターブランドは既に手を打っていることが多いからです。このような「もっと」のスィートスポットを探すことが劣位のブランドの成功のカギとなります。 - 以上のような差別性強化を試みてもうまくいかないようであれば、平均的に知覚されている実勢価格を更に下げてバリューブランドへの道を歩むしかないと思います。プライシングパワーが平均的な価値があれば、実勢価格の値下げによってバリューがでて差別性も高まる可能性があるからです。
- 価格が手ごろなブランドの現状のフューチャーパワー(成長確率)は低いので、このように投資を多くかけない工夫をしながら差別性を強化し、成長性を高めることが重要だと思います。
【このタイプのブランド例】
ドトール・プーマ
ドトール・プーマの想起性・意義性・差別性はすべて平均程度ですが、マインドシェア(デマンドパワー)は平均を上回っています。また、知覚価格とプライシングパワーも平均的で、平均的な価格程度の価値があるとみなされています。
ところがフューチャーパワーをみるとドトールはほぼ平均的な成長確率なのに対し、プーマは平均を大きく下回ります。この原因はやはり差別性の差にあります。両ブランドは指数でも6ptほど離れているのですが、市場環境の差の影響を受けています。コーヒーカテゴリーで差別性が高いのはシンボルブランドのスターバックス(指数221)と先ほど名前が出てこないブランドで紹介したネスプレッソ(指数122)だけで他の差別性は低いので、ドトールの差別性はほぼカテゴリーの期待値通りとなっています。それに対してプーマがいるスポーツブランドカテゴリ―では、ナイキ(指数185)・アディダス(指数120)のようなスターブランドや、ノースフェース(指数159)・アンダーアーマー(指数133)のような個性的なブランドが数多く存在します。そのためプーマの差別性はカテゴリーにおける期待値を大きく下回っています。
フューチャーパワーの水準を考えると、ドトールは差別性を上げるために少し積極的に動いてもいいのではないかと思います。上述の通りカテゴリー内での差別性は現状でも劣位ではないので伸びしろがあると思います。差別性を上げることでプライシングパワー(ブランドの価値)を上げられるという点は、今後配荷や出店を拡大していく(意義性や想起性につながります)上で有利に働くと思います。
一方で、プーマも差別性の強化を考えるべきだと思いますが、現状のフューチャーパワーの水準を考えると、積極的な投資は慎重にならざるを得ないと思います。まずは現状の差別性の実態について根本から洗い直しをしてみるといいと思います。その上で、差別性が強い上位ブランドの穴を衝くことを考えるといいように思います。現在のマインドシェア(デマンドパワー)は低くはなく想起性・意義性も平均的な力はあるので、しっかりと時間をかけて差別性を洗い直して対策を立ていく余裕はあるとは思いますが、シェアを徐々に落していくリスクは通常よりかなり高い(フューチャーパワー指数74)と思います。
8.ありきたりで安売りされがちなブランド (Generic)
意義性・想起性は平均的だが、差別性が特に弱いのが特徴
- ありきたりで安売りされがちなブランドは、想起性・意義性が平均レベルで、差別性が平均より大幅に低くなっています。差別性だけが低い波形は皆が知っているブランドと同じですが、想起性・意義性が平均以下(皆が知っているブランドは平均より高い)という点が異なります。そのためマインドシェア(デマンドパワー)も平均を下回ります。
- 意義のある想起性が低く、差別性はさらに低いのでセールス上の訴求ポイントに欠けるため、店頭で値引きに走られやすくなりがちです。そのため知覚価格は指数0.92と平均を下回ります。またプライシングパワーも平均を下回るので、たいていの場合は価格と同等以上の価値はあると思いますが、場合によっては安いだけで価値がないとみなされることもあると思います。バリューブランドとして成功するためにはプライシングパワーは指数100以上あった方がより望ましいと言えます。(但し、プライシングパワー指数が100なくても、販売価格が安ければ価格以上の価値を得ることはできます)
- ありきたりで安売りされがちなブランドの平均的なフューチャーパワー(1年以内にシェアが伸びる確率指数)は指数91とかなり低くなっています。積極的な投資を行うのにはリスクが伴いますので、慎重に効果的な改善策を実施していくのがいいと思います。差別性が低ければトライアルにつながらない(トライアルがなければ意義性につながる体験が増えず、体験が増えなければ想起性も強化されない)ので、まずは差別性(意義のある差別性)の改善から手を付けていくべきだと思います。
【このタイプのブランド例】
ビオレ・シャープ
ビオレの想起性と意義性は指数120前後で平均的なブランドの1.2倍あり、そのためマインドシェア(デマンドパワー)も指数155=平均的なブランドの約1.5倍あります。しかし、差別性が指数72(平均的なブランドより3割減)しかありません。そのせいか、知覚価格は指数0.76とかなり安くなっています。プライシングパワーも指数92しかありませんが、知覚価格が安いので価格以上の価値があるバリューブランドとなっています。このようにバリューがあるので、フューチャーパワーも指数100で平均的です。
ビオレのようなシェアも歴史もあるブランドの場合、最初から差別性が低かったというよりも高かった差別性が時間と共に摩耗していったと考えることが出来ます。一度摩耗してしまった差別性を再び上げていくには、かなり難易度が高いと思われます。また、低価格バリュー戦略も既に取られているので、これ以上の値下げは難しいのでないかと思います。このような場合、すでにかなり大きいユーザーベースが取れているので(デマンドパワー指数をマインドシェアに換算すると約10%)、既存ユーザーの意義性を維持強化していくことで、成長確率も下がらないようにするか、新たに差別性が高くなるようなサブブランドを立ち上げてリニューアルを行う(差別性の強化を図る)といった選択肢があると思います。
後者の場合、製品機能・技術・成分的に特に新しいサブブランドを立ち上げられるようなシーズがなければ、これまでのコアターゲットを少しだけずらして新たな情緒的価値を提供するようなことも考えられると思います。その際大きくポジショニングを変えたサブブランドを投入すると、これまでのビオレのブランドポートフォリオを弱める危険性がありますが、ビオレのファミリー層を対象にしたコアバリュー訴求に新たな情緒的価値を加える的な拡張、例えばママ視点ではなく子育てパパ視点の情緒価値等は検討できるのではないかと思います。いずれにせよ、サブブランド拡張のような大掛かりな投資を行うのであれば、フューチャーパワー(成長確率)が100を切らないうちに実施した方がいいのではないかと思います。(差別性の摩耗・劣化が起きた結果、現在の差別性が低いのであれば今後も摩耗していく可能性が高く、それに伴い成長確率も劣化していくからです)
シャープ(デジタル機器を含む家電カテゴリー)の場合も同様に差別性の水準がかなり低いですが、想起性と意義性は指数110前後で平均を上回っていますが、ビオレと較べるとやや劣ります。そのためマインドシェア(デマンドパワー)もビオレより劣っています。その理由の一つとして、知覚価格(指数0.93)の差が上げられます。プライシングパワー指数はビオレより高い96ですが、知覚価格も平均に近い高さなので、価格に対して同じ程度の価値しか提供できていません。そのため、フューチャーパワー(成長確率)も指数で89と、今後マイナス成長する可能性が高めに出ています。
ただし、同じシャープブランドでも白物/黒物を中心とした家電カテゴリーでは評価が異なってきます(下図参照)。想起性・意義性が指数130前後で、差別性も指数90近くまで上がり、デマンドパワー指数167まで上がります。
シャープは家電(Home Appliances)カテゴリーだと、皆が知っているブランド(Mainstream)になる
いずれにせよ、シャープは差別性に欠けるブランドと思われているのでその改善を心がけたほうがいいように思います。家電は最新技術力が勝負の世界だと思いますので製品開発に力を入れるしかないのだと思いますが、今日では先進技術の飽和化が言われています(先端技術はすぐにコピーされてユニークさを失う)。そのような場合、機能的価値ではなくユーザーへ提供する情緒的価値の違いで差別化を強化することも検討するといいのではないかと思います。以下もBrandZのデータ(国内)ですが、明瞭なブランドパーソナリティ(情緒的価値)を持ったブランドの方が、差別性が高く認識される傾向があることが確認されています。
明瞭なブランドパーソナリティ(情緒的価値)は差別性を強化する
9.顏なしブランド (Clean Slate)
意義性・差別性・想起性のすべてが平均より大幅に劣るのが特徴
- 顏なしブランドの波形は価格が手ごろなブランドに類似しますが、価格が手ごろなブランドは全て平均レベルなのに対し、顔なしブランドは全てが平均を大きく下回っています。そのためマインドシェア(デマンドパワー)はこれまで紹介してきた10のタイプの中で最も低い水準となります(顏なしブランドの平均で指数36)。
- デマンドパワーが低く、販売上値引きされやすくなるため知覚価格は指数0.94と平均を下回ります。一方でプライシングパワーも指数で93と知覚価格と同程度となっています。価格程度の価値はあるとみなされているブランドもあると思いますが、カテゴリーによっては(競合の価格状況によっては)価格に見合った価値がないと評価される場合も多くなります。
- 顏なしブランドの平均的なフューチャーパワー(1年以内にシェアが伸びる確率指数で)は、指数98とほぼ平均レベルとなっています。価格が手ごろなブランドの方が意義のある差別性が高いにもかかわらず、顔なしブランドのフーチャーパワー指数が高いのは(価格が手ごろなブランドの指数は90)、デマンドパワー(マインドシェア)の水準の違いに起因します。価格が手ごろなブランドのデマンドパワーは指数86なのに対し、顔なしブランドは指数36(マインドシェア%に換算すると2.6%)しかありません。現時点で既にデータベースの最低水準になっているため、これ以上下がる確率が低くなるためです。逆に言えば、このタイプにあるブランドはこれからブランドを伸ばしていけばいい、という上昇志向を持てばいいということになります。これまで他のタイプでも述べてきたようにブランド力の上昇の鍵は差別性の強化にあります。他の相対的に劣位なブランドと同様に、強いブランドの差別性の「穴」を狙っていくことが差別性強化の成功につながります。
※このタイプのブランド例は特にありません。まさに「顏なし」なので、具体的ケースをみても参考にならないと思いますので割愛しています。
ブランド・タイポロジー分析のまとめ
差別性を高めていくことが、ブランドの成長の鍵となる
これまでブランドのタイプを見てきましたが、シンボル/スターのような強いブランドであってもブランド力の更なる強化・改善が求められます。なぜなら、他には常に強い競合がいたり、隣接する市場に進出してさらなる売上成長を目指すためにより強いブランド力が必要となるからです。それに対し、タイポロジーで劣位にあるブランドは競争で生き残るためにも成長が必要であり、そのためにはこれまで個々のケースごとに説明してきたように差別性の強化が鍵となります。強いブランドであっても、強いブランドからシェアを奪取していかなければならない劣位のブランドであっても、競合から新たな顧客を奪取してシェアを拡大していくためには差別性が重要な役割を果たします。何故、想起性ではなく差別性なのかを以下に簡単に説明します。
ブランドがシェアを上げていくためにはトライアル(試用)を増やす必要があります。このトライアルを検討させるには、ブランドが購入検討リストの上位にくる必要がありますが、そのためには「意義のある想起性」が必要となります。下図を見るとわかるように、想起性も意義性もブランドを最初に購入するのを検討させるのに影響を与えています。
しかしながら、この意義性になんらかの不満や要望が生じたとき、そのアンメットニーズを解消する手段として差別性が浮上します。この意義性におけるアンメットニーズの解消に自ブランドの差別性をうまく当て込んだ提案を行うことで、自ブランドのトライアルにつなげることが出来るようになります。なので、差別性は高いだけではなく「意義ある差別性」である必要があります。自ブランドが他と違うことが、顧客のニーズ(意義性)をどのように充たすのかを具体的に考えて、それを見込み顧客に提案することが重要になります。こちらから積極的に提案を行わなければ、自ブランドのメリットについて顧客は気づいてくれないからです。
このように顧客の意義性を充たす礎となる、自ブランド差別性の強化を検討していく際には差別性指数の他に、自ブランドの差別性がブランドの大きさから期待される値とどれくらいのギャップがあることを見ることも重要です。カンターの調査ではこのギャップ指数を細かい計算を用いて算出していますが、シンプルに競合のデマンドパワーや想起性の大きさと自ブランドを比較してそれと差別性指数の大きさの違いを比較すれば大体の見当をつけることができます。
下の表は、差別性の期待値とのギャップ(縦軸)と差別性指数の大きさ(横軸)をマッピングしたものです。横軸の真ん中は差別性指数が100(指数平均)であり、縦軸の真ん中がギャップのない状態で、上に行くほど期待値を大きく超し、下に行くほど期待値を下回っていることを意味します。
既に個別ケースで説明してきたように、差別性が期待値を大きく越す状態にあると成長確率が高まります。従ってこのような状態にある(ブランドがマップの上象限にある)時は積極策に打って出る余地があります。左上象限であれば、現状の差別性指数が低くても今後差別性指数を改善しやすい状態にあることになります。ブランドが右上象限にある時は、すでに差別性がブランドの強み=武器となっているので、その強みを有効に活用することを考えることになります。
各象限ごとの施策例用語 補足説明
<フィジカルアベイラビリティ>
簡単に説明しますと、BrandZデータの分析からメンタルアベイラビリティがトップクラスのブランドはフィジカルアベイラビリティも高くなり、競合にマインドシェアがある顧客からの購買を店頭で作りだす力を持つようになります。ブランドが右上象限にある時はこうしたフィジカルアベイラビリティの力を利用してマーケットシェアを上積みすることを考えることが出来ます。
※別記事(【第1回】マーケッターのためのブランド戦略 売上成長にとって重要なのは、マーケティング戦略か営業戦略か?)でも詳しく説明しています。
<カテゴリーエントリーポイント>
強いブランドの差別性を利用して他カテゴリーユーザーのアンメットニーズを解消する提案を行うことで、新たなホワイトスペースを拡大する考え方です。この場合、そのカテゴリーに応じた「意義のある差別性」を用意する必要があることは言うまでもありません。
<ブランドキュー>
聞きなれない方もいるかもしれませんが、ブランドのロゴや商品名以外にそのブランドであると認識させることができるブランドアセットのことです。具体的には、アイコンマークやキャラクター(マクドナルドのビックアーチやドナルド)、特徴的なパッケージや製品デザイン(コカ・コーラの瓶、ダイソンの掃除機のデザイン)などが上げられます。あるいはアップルのThink Differentのようなスローガンもブランドキューに含まれます。
<ブランドの識別性(ブランドキューの機能)>
差別性と似ていて紛らわしいので(特に英語の場合DistinctiveとDifferentとなり辞書で引くとどちらも差別性と訳されたりしています)、以下の図をご参照ください。ブランドらしさを示すのが識別性(Distinctive)でブランドに何か違いがあるのが差別性(Different)です。定義上はこのように明確に分けることが出来ますが、実際は真ん中のペンギンの例のように差別性と識別性が密接に結びついていることが多くと思います。(識別性の例に挙げたロゴは、実はコカ・コーラとは書いてありません。それでもコカ・コーラと識別できるのは、商品名ではなく筆記体風の独特の書体の赤い文字によります。この色や書体がブランドキューとなっています。)このように識別性をうまく使うことで、ブランドの差別性や想起性を強化することが出来ます。
以上がブランド・タイポロジーの説明となります。また、差別性の強化の仕方については別記事(ブランドの差別性はどのように強化するべきか?)もありますので、興味のある方はそちらもご参照ください。
本稿で説明してきた、各タイポロジーの説明や改善策例、上述の差別化戦略のガイドラインはあくまでもご自身で自ブランドの戦略について考える際の目安にすぎません。実際のブランド戦略立案にあたっては、カテゴリーごとの競合状況をより細かく・より深く見る必要があることは言うまでもありません。そうした考察のスタート台やヒント、あるいは社内議論やブレストのたたき台としてご活用いただければ幸いです。
カンタージャパンでは、ご要望に応じてここでご紹介したMDFモデルの指標を用いたアドホック調査を実施することが可能です。また、BrandZのデータベースから特定カテゴリーのケースをご紹介することも可能ですので、ご興味のある方は弊社までお気軽にお問い合わせください。