”BRANDZ 2023 MOST VALUABLE SPANISH BRANDS“ スペインのトップ30
スペインで5年連続、第一位を獲得し続けているブランドは、スペインの巨大アパレルブランドであるZARAです。財務価値189億ドルは、国内トップ30ブランドの価値合計の21%を占め、他を圧倒しています。また、トップ30にランクインした6つのアパレルブランドのうち5つ(ZARA、BERSHKA、PULL&BEAR、MASSIMO DUTTI 、STRADIVARIUS)がZARAの親会社であるインディテックスのブランドです。
インディテックスの貢献もあり、スペイン生まれのブランドのうち、トップ30の約3割をアパレル系で占めています。また、一方で、フランスやイタリアなど、他の欧州諸国で高い割合を占めているラグジュアリー系のブランドは上位30に含まれていません。
アパレル以外では、エネルギー、テレコム、金融、小売という地場密着型ブランドが大半を占めています。多くの他の国で上位にランキングされるテクノロジー系ブランドの名前もありません。
グローバル展開するファストファッションの雄 ZARA
ZARAの売上高(2023年1月決算)は、ZARAホームを含めて世界で237億6100万ユーロ(約3兆3503億円)、前年比21%増加しています。
ブランド力(マインドシェア)を国別にみると、一番強いのはスペイン、次にイタリア、オランダ、インド、オーストラリア、韓国が続きます。意義性・差別性・想起性というブランド力の要因をみると、意義性は国によって市場浸透度が違うためばらつきがありますが、どの国でも差別性が高い点が特徴です。例外はイタリアとドイツで、他の国とは異なるポジションに位置しています。
ZARAのプライシングパワー
ZARAはファストファッションブランドですが、知覚ベースの市場価格ではスペインを含む多くの国で比較的高めの価格で販売されています。日本とUSA、イタリア、韓国では消費者にとってアパレルの平均的な価格に近い価格で販売されており、ドイツでは平均的な価格より安価に販売されています。
下のグラフは、価格以上の価値を与える力の有無を示すプライシングパワーの指標であり、縦軸はプライシングパワーの高さを表しています。プライシングパワーの低いイタリアとドイツではZARAは相対的な価格の安さに価値のあるブランドと受け取られ、韓国では安いけれども価値のあるバリューのあるブランドと受け取られています。また、グラフの右上の象限に位置し、製品が比較的高い価格で販売されている国々では、プライシングパワーも高く受け取られており、価格は割高だけれども、その分の価値がある、又はそれ以上の価値があるブランドと認識されているようです。プライシングパワーは差別性が高いほど強くなることが判っています。
ドイツにおいてZARAは差別性が低いため、単に価格が安いブランドと受け止められている一方、イタリアでは差別性が低くとも愛着とニーズの充足度を示す意義性が高いため、相対的にマインドシェアは高くなっています。これは、先ほどのグラフで見たように差別性が低く受け取られていることが要因です。ただし、イタリアでは差別性が低くても、愛着とニーズの充足度である意義性が高いので比較的高いマインドシェアがとれています。
ZARAのブランドイメージ
差別性が特に高いフランスとスウェーデンと、差別性の低いイタリアとドイツを比較します。また、ZARAは日本でもなじみのあるブランドなので、比較対象として加えています。
低価格で販売されているイタリア・ドイツでは「毎日の生活に合っている」のイメージが高く、比較的プレミアム価格のスウェーデン・フランスではマイナスとなっており、「毎日の生活」というよりは、少しハレの気分のときに着るブランドと受け取られていることを意味します。日本でも同様の傾向です。そのため、スウェーデン・フランス・日本の3か国では消費者が「使っていることが誇らしい」気持ちになれるようです。このような特別感は「際立った見た目やイメージ」と「業界をリードしている」先進感のパーセプションに起因すると考えられます。
また、ドイツを除く欧州では「特定の場所のイメージが強い」と感じられており、上記の文脈からすると、ファストファッションでありながら、ちょっとエッジの効いたデザイン性を備えている点がいかにもヨーロッパらしいブランドと感じられているようです。このようなイメージがZARAの差別性の高さにつながっているようです。
想起性の高さを武器に中南米に展開するテレコムブランド Movistar
スペインで第二位にランクインしているブランドはMovistar(モビスター)です。日本では馴染みが少ないですが、携帯電話事業を生業とするスペイン大手通信企業テレフォニカ傘下に属する企業です。
下の右のグラフでわかるように、Movistarはスペイン国内でグローバルブランドのボーダフォンを抑え、トップに位置しています。一般に金融やインフラは地域に密着する銘柄が上位にランキングしやすい傾向がありますが、Movistarのユニークさは母国語であるスペイン語を活かした中南米を中心にグローバル展開している点といえそうです。海外進出の際は、一般に、その地域に密着したローカルのトップブランドが他所の国からやってきたブランドにとっては障壁となりますが、Movistarは自国以外の多くの国でこの障壁を乗り越えています。
下の左のグラフは水色がMovistarです。灰色が各国の主要競合を示しています。横軸は意義性、縦軸は差別性、円の大きさが想起性を表します。グラフをみると中南米諸国の主要競合となる現地のトップブランドは相対的に高い意義性を特徴としています。意義性とはニーズ充足の評価や愛着が高いことを意味し、ユーザー数などその市場での浸透率が高いほど意義性も高くなる傾向があります。意義性の高い競合に対し、Movistarは想起性の高さや差別性で対抗していることがわかります。
例えばペルーであれば、主要競合はClaro(クラーロ)であり、座標の右側に位置し、意義性が高いことを示しています。ペルーではMovistarは意義性が平均的なブランドを下回り左象限に位置するのですが、差別性を示す座標軸の高さを見ると、トップブランドのClaroに劣らず、特徴を出しながら、右上の象限の中で戦っていることが分かります。更には想起性ではClaroを上回っています。しかし、Movistarは唯一メキシコにおいて、意義性・差別性・想起性のいずれもトップブランドに大きく水をあけられています。
Movistarは、想起性と差別性の相対的な強さがある国においてプレミアム価格でサービスを提供しています。下の図は横軸がその国での相対的な価格(*消費者の回答ベース)、縦軸がプライシングパワーを表しています。プライシングパワーは価格以上の価値を与えるブランドの力を意味し、主に差別性と意義性から算出しています。プレミアムな価格で提供している国ではプライシングパワーも高く、消費者は高い価格であっても、それだけの価値もしくはそれ以上の価値があると感じさせています。最上位銘柄と水をあけられているメキシコでは価格で提供せざるをえなかったこともあり、消費者には安いだけのブランドと受け取られています。
また、アルゼンチンではトップブランドのClaroが比較的な低価格路線をとっていることが、Movistarとの意義性の差につながっているようです。とはいえ、Claroに想起性・差別性で大きな差があるわけではないので、もしMovistarが同様の低価格路線を取ることができれば、アルゼンチンで意義性を高めることが可能になるかもしれません。
MovistarのオフィシャルWebサイトの情報によると、Movistarはモバイル事業を主軸として消費者の家庭にエコシステムの利便性を提供することを目指しており、保険やセキュリティ、エンターテイメントまで事業領域も拡大させています。モバイルを軸としたエコシステムの事業展開により、Movistarはトップブランドと比較しても遜色ない、モバイル事業が充実したブランドと消費者に受け取られています。これがMovistarの差別性を高めているポイントのようです。
下表のスコアはBIP(ブランドイメージプロファイル)という指標を用いており、5%以上のスコア差があると、競合に対する強い特徴として認識されやすくなることを表しています。Movistarはメキシコを除き、競合と較べても「モバイルがいい」で高い水準にあることがわかります。このようなトップレベルのモバイル環境の提供や、右の表の「業界をリードしている」でも高い評価に繋がっています。
Movistarの想起性の高さには、同じスペイン語文化圏を背景にしたアドバンテージがあると思われますが、親近感だけではなく「業界をリード」するだけの実力・実績・信頼がMovistarの想起性を強化していると推測されます。
続いて、Movistarのエコシステムを目指した事業展開の例として、スペイン国内でのデジタルTV事業の例を紹介します。スペインではMovistar Plus+というサブブランドでデジタルTVに参入しています。
スペインのVODブランドにおけるマインドシェアのトップはNetflixですが、Movistar Plus+は僅差で迫っています。意義性・差別性・想起性の要素別にみると、どちらも意義性では高水準に位置しつつも、Netflixは差別性を、Movister Plus+は想起性をそれぞれ特徴として拮抗しています。
また、価格戦略でも両ブランドは違いが見られます。Movistarはテレコム事業と同様にプレミアム価格路線であるのに対し、Netflixは低価格路線をとっており、Movistar Plus+がバリューのあるブランドとして成功していることがわかります。プライシングパワーではMovistar Plus+が差別性の高いNetflixに劣りますが、それでもMovistar Plus+もプレミアム価格を納得させるだけの価値を提供できていることが見てとれます。
2つのブランドのイメージを比較すると、「サービスに幅広い選択肢がある」と「業界をリードしている」では両者共に高水準に位置するも、Movistar Plus+は「幅広い選択肢」、Netflixは「業界をリード」において、双方それぞれの特徴を備えています。また、「そのカテゴリーに求める特長に優れている」はMovistar Plus+、「サービスがよくできている」はNetflixの強い特長である違いも見られます。
「サービスがよくできている」はVOD事業のトップブランドであるNetflixの方が大きく上回っています。一方でMovistar Plus+は「そのカテゴリーに求める特長に優れている」点が評価されており、要因がサッカーの試合の放映権にありそうです。Movistar Plus+はLALIGAの試合を毎日放映しており、またチャンピオンズリーグの放映権も得ているようです。スペインの人々にとって贔屓のサッカーチームやヨーロッパ最高峰のクラブサッカーの試合を見られることは、デジタルTVに加入する動機につながるのかもしれません。
差別性ではNetflixに至らないものの、Amazon Prime Videoより勝っています。このようなサービス提供の努力がMovistarの意義性や差別性を上げている要因につながっていると推測されます。更に、サブブランドのMovistar Plus+が意義性・差別性を高めることで、Movistar Plus+自身の想起性だけでなく、ペアレントブランドであるMovistarの想起性を押し上げる一助となっていることが考えられます。
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