マーケターのためのブランド戦略
ブランドポートフォリオ1 マスターブランド戦略

ブランドポートフォリオ戦略とは

多くの企業は複数のブランドを所有しています。ブランドポートフォリオ戦略とは、各ブランドのブランディングを強化するように体系化、管理することであり、事業展開する上で、複数ブランド間での重複やブランディングの非効率を防ぎます。

【マスターブランドを軸にしたブランドポートフォリオ戦略】

ヨーロッパの自動車ブランドはマスターブランドを軸にしたマスターブランド戦略をとるケースが多くみられます。Branded Houseの中で、それぞれのサブブランドはシンプルな記号で示され、車の大きさや価格帯、機能面の違いを表しています。この戦略では、マスターブランドが提供する消費者の情緒的価値に重きが置かれ、サブブランドは消費者の機能的ニーズに合わせた、同じ情緒的価値の細分化を行います。

*この分類結果は弊社ニードスコープの分析専門家の経験値と知見によるもので、実際の実査結果に基づくものではありません



メルセデスベンツのマスターブランドとサブブランドの例を、6つの情緒的価値類型に分類するカンターのNeedscopeを用いてご紹介します。ベンツのマスターブランドは、マップ図の右側の紫色の情緒的価値に軸足を置いています。紫色の情緒価値とは、自分に見合う最高なものを手に入れることで充たされる自尊感情を意味します。仮にこのブランドが、若年層などの新しい顧客層の拡大を狙いたいと考え、これまでの情緒的価値(紫色)から、陽気でワイワイと楽しむような情緒的価値(黄色)のポジションを目指すとします。この時、マスターブランドはベンツに置いたままで、ベンツの名声や信頼性による「支援」を活用しながら、提供価値がかなり異なるサブブランドの形で新ラインを導入することになります。このようなサブブランドは、同じマスターブランド(ベンツ)を冠に抱きながら、これまでのマスターブランドの提供価値(あるいはブランドの世界観)とは異なる新しいテリトリーにまで進出して、新たな顧客層を開拓しようというものです。

このサブブランド投入においては、マスターブランドの支援をどこまで期待できるか、あるいはマスターブランドへの貢献がどれくらい期待できるのかを検討する必要があります。もしマスターブランドとの支援貢献関係が弱い場合、サブブランドの形ではなく、マスターブランドは全く異なるブランドで展開する必要があるかもしれません。スマートの場合も、マスターブランドであるメルセデスベンツをあまり前面に出していないようにみられます。



ブランドポートフォリオをマネージメントする

ブランドポートフォリオを管理する際、ニードスコープでは、自社のマスターブランドがそれぞれ市場のどの需要(ブランドが喚起しやすい情緒的価値)を占拠できているかを見ることができます。下の図の場合、自社が保有する複数のブランドが重なり合うことなくそれぞれが異なるテリトリーを占拠して、自社の占拠市場を拡大していることが分かります。また、自社テリトリーでは競合を排除できており経営資源が効率的に運用できていることが分かります。



一方で、単一のブランドでテリトリーを拡大する場合、複数ブランドを管理するよりも効率的に行うことができますが、その際に領域を広げることでマスターと位置付けているブランドパワー自体の弱体化に注意を払うべきです。強いブランドはある情緒的価値と強く連想されることが魅力を増殖させる役割を果たしているので、情緒価値の領域を広げすぎるとその連想が弱まったり、混乱が生じ、ブランドの魅力を損なってしまったりする可能性があります。次の図の場合、類似した親和性の高い情緒的価値が隣り合わせになるように配置されています。もし隣り合った情緒領域へブランドが拡張する場合は、ブランドの魅力の希釈化リスクも少なくなります。ただし、マスターブランドの原点ポジションから離れれば離れるほど、ブランド価値の希釈化や混乱が生じる可能性が高まります。



また、強いブランドの中核領域を奪うことは、後発競合ブランドや下位に位置する競合ブランドにとって至難の業ですが、仮にその周辺領域で上述のようなブランドの希薄化が起きていれば、弱体化した領域は競合にとって集中して攻めやすくなり、格好のシェア奪取の機会を提供することになります。強者であるブランドがこのような競争の余地を与えてしまうことは、結果的に自社の経営資源非効率を起こします。こうした希薄化リスクへの防御策として、マスターブランドの周辺領域にはその領域ニーズ(情緒的価値)に特化したサブブランドの配置があげられます。サブブランドをマスターブランドから枝分かれさせることで、マスターブランドの希薄化を防ぐと同時に、マスターブランドが狙うニーズでのプレゼンスを高めることができます。



サブブランド(バリアントブランド)によりマスターブランドを強化している例

バリアントブランドとはサブブランド(子ブランド)の一種で、マスターブランド(親ブランド)の内容や価値を内容や用途、価格によって細分化させたものであり、消費者の意識の上ではマスターブランドに包含されるようなサブブランドのことを指します。バリアントブランドと区別して、マスターブランドと同じ名称を持つがマスターブランドとは異なった内容・用途・情緒的価値を持つ子ブランドのことをサブブランドと呼ぶ人もいます。ここでは名称の一部にマスターブランドの名前を含むブランドを全てサブブランドと呼び、その中でもマスターブランドの「分身」である直系の子ブランドをバリアントブランドと呼んでいます。

有名なスコッチウィスキー、ジョニーウォーカーの例を取り上げます。ジョニーウォーカーはサブブランドをいくつも持ちますが、そのいずれもが紫色から青色にかけての情緒的価値を代弁し、マスターブランドであるジョニーウォーカーを強化しています。日本国内では近年、主力ブランドであるジョニーウォーカーブラックラベルが低価格戦略を行って成功しているようですが、同時にジョニーウォーカーが持つ紫色(プレミアム感が重要な情緒)の価値が損なわれることのないように、高価格帯でのサブブランドが多く投入されています。


*この分類結果は弊社ニードスコープの分析専門家の経験値と知見によるもので、実際の実査結果に基づくものではありません




次に、ある紅茶ブランドの例(海外)です。各サブブランドによる売上貢献を見ると、マスターブランドの直下にある(同じ情緒的価値を持つ)サブブランド1は貢献度が最も高く、提供する情緒的価値の内容が大きく異なるサブブランド3、4の貢献度が低いことが分かります。サブブランドを用いた有効なマスターブランドの拡張領域は隣り合った情緒的価値までというのが一般的なようです。



消費者の感情を深く理解できる調査ソリューション 「Needscope」について

強いブランドは感情のレベルまで消費者と結びついています。情緒ニーズを理解するためのフレームワーク「NeedScope (ニードスコープ)」は、人々の心理の普遍性を分析し開発されました。、ブランドのポジショニングを決める際、消費者の情緒的側面を明らかにすることで、ポジションを明らかにするツールです。このツールの特徴は人の情緒を大きく6つに色分けしている点です。NeedScopeは感情に焦点を当て、ブランドのポジショニングを差別化し、タッチポイント間で一貫した体験を提供するために必要な方向性を提供します。心理学に基づく検証済みのフレームワークとAIを含む独自のツールにより、戦略的優位性と競争優位性をもたらす魅力的なブランドの構築を支援します。



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■本件に関するお問い合わせ先 

合同会社カンター・ジャパン
PR/マーケティングチーム 
E-mail:marketingjapan@kantar.com

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