マーケターのためのブランド戦略 ブランドアーキテクチャー戦略について

ブランドアーキテクチャーの戦略的な考え方

企業が持つブランドアーキテクチャー(ブランド階層)に対する戦略的な考え方として、マスターブランド戦略、マルチブランド戦略、サブブランド戦略があります。

【マスターブランド戦略】

マスターブランド(親ブランド)の階層の下に、サブブランド(子ブランド)を全てまとめるものです。サブブランドはその名称の一部にマスターブランドの名前を有します。消費者の視点を重視するカンターでは、これをBranded House(一つのブランドで統一された商品群)と呼びます。典型的な例が、メルセデスベンツ、BMW、レクサスのような高級車です。ベンツの場合、マスターブランド名が最も重要な旗艦はベンツ、子ブランド(またはバリアント)はS/E/Cといった記号だけで区別されます。消費者にとっての主役はあくまでもマスターブランドという考え方です。

【マルチブランド戦略】

親ブランドの下に、複数の独立した(=異なる)ブランドが集められたものです。カンターではこれをHouse of Brands(個々に異なる複数ブランドで構成された商品群)と呼びます。典型的な例がP&Gやユニリーバです。これらの親ブランドの下にあるブランド群は、消費者から見ると同じ親ブランドであるだけでほとんどつながりがありません。この戦略であれば、各カテゴリーのニーズに適した親ブランドとは独立したポジショニングをとることができ、また、ブランドを他の企業に売却する際にも容易であるというメリットがあります。

【サブブランド戦略】

マスターブランド戦略とマルチブランド戦略の中間をいくものです。日本企業のブランド階層ではこのパターンが多く見られます。マスターブランドの階層の真下にある子ブランド(バリアント)の他にも、マスターブランドのサブブランドを作り、違うターゲットやカテゴリー(またはサブカテゴリー)にブランドを拡張させていくという考え方です。House of Brands(まとまりのある商品群)という考え方に沿って説明するならば、マスターブランドによるBranded Houseは維持したまま、独立した子供がこれまでのHouseの外に家を建てるようなイメージです。とはいえ屋号は同じマスターブランドなので、元の家の隣に増床するようなイメージに近いです。


ブランドアーキテクチャーには上記のような戦略がありますが、メーカー企業としてどのような階層構造で商品ブランドを管理するかの視点の他に、それらの商品群が消費者にはどのように映っているか(識別・理解しやすいか)が大切なポイントになります。


消費者から見てブランド階層はどのように映っているのか

各階層のブランドごとにトラッキング調査を行っていたり、マスターブランドとサブブランドをカバーする大規模な調査を行えば、蓄積データを用いて回帰分析を行うことで、ブランドの階層が消費者の目から見てどのように映っているのかを確かめることができます。下図はマスターブランドに対して、サブブランドがどのようなブランド支援・貢献関係にあるかを共分散構造分析で明らかにしたものです。この例の場合、マスターブランドのサブブランドに対するブランド支援力は全体に弱いことがわかります。マスターブランドは各サブブランドの貢献力により支えられているような状態であり、マスターブランドのデマンドパワー(マインドシェア)は弱いと考えられます。ブランド貢献力ではブランドFが最も高く、このブランド階層での旗艦ブランドになっているようです。一方で、ブランドJはブランド支援貢献関係が弱く、このマスターブランドの商品群にいる意味はあまりないことを意味しています。



回帰分析を用いることで、サブブランドを含めたブランドごとの貢献比率で見ることもできます。下図の例の場合、マスターブランドはモバイル通信のサブブランドCによる貢献が最も高く、マスターブランドからの支援関係も大きいので、サブブランドC(モバイル通信)がマスターブランドの旗艦ブランドと見ることができます。また、サブブランドB(ブロードバンド)を見ると、マスターブランドからの支援が圧倒的に高く、モバイル通信事業で培われたマスタ―ブランドのブランド力を用いてブロードバンドに進出したことが分かります。一方で、サブブランドA(ビデオオンデマンド)ではサブブランドC(モバイル通信)からの支援の方がマスターブランドよりも高く、ビデオオンデマンドとモバイル通信には密接な関係があり、ビデオオンデマンド事業の推進にはサブブランドCの支援力を用いたほうが効果的であることが分かります。



消費者視点から見たマスターブランド・サブブランド イメージ

マスターブランドのブランドイメージは、サブブランドのイメージにも影響を与えます。下記は海外の清掃剤ブランドの例です。マスターブランドが強いブランドイメージを持つ場合は、サブブランドでも同様に受け入れやすくなる傾向があります。この例では、洗浄力の高さやその効果、品質や信頼イメージがサブブランドに受け継がれています。これらがマスターブランドのサブブランドイメージへの具体的なブランド支援効果といえます。







一方で、マスターブランドの「有能な」というブランドイメージは回答スコア(縦軸)が高いのですが、回答にかかる反応時間が遅く、消費者はこのイメージを理屈だけで理解されているため、サブブランドでもブランドの強みにはなっていません。次にサブブランドをみると、サブブランドを創設した主な狙いである「環境に配慮した」イメージは回答%(縦軸)が高く、サブブランドの特色として認知されていることが分かる反面、横軸(回答におけるスピード)での直感的反応に欠けており、頭では理解しているものの実感されておらず、サブブランドの強みになりきっていないこともわかります。

「洗浄力・効果・品質」といった特長イメージは強いマスターブランドの支援効果を受けながら、サブブランドが「環境に配慮した」という特長を理性的に伝えることに成功しているといえます。同時に、「環境に配慮した」特長には実感が伴っておらず、サブブランド独自のコミュニケーションにより「こんなところが環境にやさしい」という実感を形成していく必要があるといえます。サブブランドの「環境に配慮した」イメージはブランドアーキテクチャーにとって重要であり、この点があいまいだとアーキテクチャー全体に疑問と混乱を及ぼすことになります。現状は「環境に配慮した」の理性的な反応がサブブランドで十分に取れていますが、購買時に直感的に想起されるほどまでには刷り込まれていないのが課題とみられます。

サブブランドとマスターブランドの年間の広告・プロモーション計画を考える際に、このようなブランドアーキテクチャーの理解が役に立つと思います。

「ブランドシステム」の見直しが必要なケース

ブランドアーキテクチャーは、ブランド支援・貢献関係などの全体の相乗効果によりマスターブランドのハロー効果を高めていくことが経営効率の観点から望ましいです。全体的なマスターブランドの支援力の低さが経営資源の効率的運用に影響を及ぼすような場合、ブランドのロゴやパッケージなどのビジュアルアイデンティティまでを含めた“ブランドシステム”(消費者視点でのブランド階層全体の見え方)の改善を検討する余地があります。下記は、調査結果を受けてマスターブランドのロゴやサブブランドのパッケージの改善を行い、従来からのブランドの継続性を維持しつつブランド階層全体の識別性と一貫性の強化を行った例です。House of Brandsそれぞれがバラバラのデザインでしたが、マスターブランドのもと統一性あるデザインに変更されています。



マスターブランドのブランド力を把握するには

カンターには、消費者ニーズとブランドのデマンドパワーを高める要素(意義性・差別性・想起性)との関係性を明らかにするための独自の回帰分析方法(BSA:Brand Structure Analysis)があります。この手法を用いることで、マスターブランドの階層の中でどのサブブランドが消費者の求めるニーズを充足してマスターブランドを強化してくれているかを把握することができます。

下図は銀行のオンラインサービスの例です。オンラインサービスでブランドエクイティを強化する要因が3つ(①オンライン利用で困った時のカスタマーサービス、②銀行のオフライン業務でのこれまでの実績と信頼、③サービスの種類が豊富で自分の用途目的に合うものが見つけられる)あることを明らかにしたうえで、オンラインサービスである各サブブランドがどのニーズを充たし、ブランド階層の構造がマスターブランドをどのように強化しているかを明らかにしています。自分の用途に見合ったものを見つけるという意味では、オンラインサービスの種類は多ければ多い方がよいのですが、カスタマーサービス評価と信頼性強化につながらないサービス(サブブランド)は廃止・縮小して、業務内容をスリム化するような経営判断の材料を提供します。





ご紹介したようにブランドアーキテクチャー戦略にはさまざまありますが、自社のブランドがどの戦略なのか、ブランドの立ち位置がどこにあるのかを明確にすることがまずは重要です。




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