生活者は自分にとって意義のあるブランドを選ぶ傾向にあり、広告において直感的な感情の引き込みは成功の鍵になります。微表情分析(フェイシャルコーディング)を用いて、視聴者の感情をどのように理解できるか、ご説明します。
なぜ感情を正しく理解することが重要なのか
どのような広告においても、ブランドエンゲージメントを促進し、意義のある差別性を感じさせ、長期的・短期的な効果につなげることが重要です。人々は、自分にとって意義のあるブランドを購入する可能性が高いため、広告の仕組みを理解することは、広告が生み出す感情的なエンゲージメントを理解することにつながります。
カンターでは、消費者の反応の「What」「Why」を把握するために、さまざまな指標で広告をテストしています。広告をテストすることは、ROIの向上につながります。また、メディアの費用を多少減らしても、質の高いクリエイティブであれば効果を補うことができます。広告のクリエイティブの質を平均レベルからトップレベルに上げると、ROIは30%以上向上します。クリエイティブは広告の収益性を左右する2番目に重要な要素であり、クリエイティブを正しく評価することは重要なことです。
私たちの調査ソリューションでは、実証された調査票を用いて、ブランディング、楽しめる程度、態度変容になどの指標をノルム値と比較することができます。また、広告を見ている最中の感情的な反応を秒単位で読み取る微表情分析も加えて見ることで、より深い分析を行っています。調査データと合わせることで、クリエイティブを最適化するための、実用的なインサイトと提案を提供しています。
微表情分析とは?
微表情分析とは、顔の筋肉の動きをAIで解析することで、笑顔、眉間、眉毛などの表情を測定することができます。対象者の表情をウェブカメラで撮影し、同意を得た上で、個人が特定できないようにし、集計します。
つまり、アルゴリズムが認識するのは個人ではなく、表情の動きなのです。これは、人が言語化するのは難しい感情的な反応を測定し、数値化するものです。人は、自分が笑ったり顔をしかめたりしていること自体は自覚していても、それがどのシーンでどの程度なのか正確に説明することはできません。そこで、微表情分析で得られる情報が、広告に対する視聴者の感情的な反応を理解するのに非常に役立ちます。つまり、広告を視聴する際に見せるさまざまな反応を、自然な環境下でテストすることができるのです。
データ収集が容易なため、市場調査においてとても重要な信頼性と規模をもったサンプルをテストすることができます。また、アンケート調査と統合することで、広告が好きな人と嫌いな人など、さまざまなグループの感情的な反応を比較することができます。微表情分析の結果や自由回答と照らし合わせて広告の定量的な結果の背景を説明することができ、各シーンが広告の総合評価にどのように影響したかを理解することができます。これらの結論に基づき、私たちは自信を持ってクライアントに広告の編集や改善の提案をすることができます。
微表情分析はどのように測定するのか?
微表情分析は、アルゴリズムが感情的な反応の種類、強さ、タイミングに関する結果をAIが出力し、分析者がそれを解釈します。同じ表情でも文脈によって異なる意味を持つことがあるため、信頼性の高い分析を行うためには、この解釈というのが、非常に重要です。カンターでは、さまざまな文脈を考慮してトレーニングされたAffectivaの感情認識AI技術を使用しており、分析者が文脈を考慮し、説明することができます。私たちの微表情分析のアウトプットは、脳波などの技術よりも解釈や理解がしやすいのです。
現代の高品質なAIベースの微表情分析は、100年以上にわたって収集された科学的知識に基づき、多くの学術研究によって検証されています。Affectivaの技術は、高い精度が証明されているだけでなく、査読付き論文で検証され、発表されています。また、より多くのデータが蓄積されるにつれて、常に改良が加えられています。さらに、カンターは200万以上の表情の動画を収集し、49,000以上の広告を微表情分析で調査し、感情とセールスの関連性を検証してきました。特に既存のブランドでは、微表情分析で算出される「感情喚起度」という総合指標は、売り上げのシェアの変化とも連動することが証明されています。
そのため、微表情分析では、テスト環境をできるだけ自然に保ちながら、他の方法では収集できない人の感情に関する多くの有用な情報が得られます。この情報には、視聴者が注意を払っているかどうかだけでなく、彼らがどのように感じているかも含まれます。このような情報はアンケート結果を補強してくれるだけでなく、他のすべての潜在的な感情の指標に比べ、より役に立つデータが得られるだけでなく、収集がより簡単です。
異文化を理解する
どの微表情分析も同じように信頼できるわけではありません。属性によって微表情のデータに偏りがあるのではないかという疑問を持つ人もいます。Affectivaの技術は、過去10年の間に何度もアップグレードされ、その都度、多様性に富んだデータセットに更新されています。90カ国以上から集めた130億フレーム以上の実際の表情データを含むデータセットは、他のどの組織よりもデータが多いため、多様な人種が含まれており、性別や年齢のバランスが取れたものになります。属性の異なるグループ間で均等に精度を確保するために細心の注意が払われているため、バイアスは最小限であると言えます。また、Affectivaの指標は、データを収集した国に合わせて解釈されます。各国のノルム対する比較ができるため、文化によって表現の度合いが違うという事実を許容しながら分析することができます。
微表情分析において、高い信頼性と感度が重要です。Affectivaの微表情分析技術は厳しく訓練されており、高い精度と信頼性も実現しています。この技術は、微細すぎる顔の動きを認識してしまう誤検出を最小限に抑えるために高い基準を設定していますが、それでもほとんどの広告のシーンに対応した反応が測定されています。(その反応は広告へのエンゲージメントと有意義に関連していることが確認されています。)検出できる表情の反応がない広告はほとんどありませんが、反応の程度は様々であることが、現実の広告においても喚起される感情の度合いにばらつきがあることを示しています。どの広告でも常に重要な感情を喚起しているわけではありません。Affectivaの微表情分析では、魅力的な(売り上げに効果のある)広告や、広告内の魅力的なシーンを特定することに成功しており、まさに高い感度をもって診断する広告テストに必要とされています。
微表情分析の事例
社会的・環境的なメッセージのある広告は、肯定的・否定的にかかわらず、より強い感情を喚起することが分かっています。そのため、このようなテーマを扱うキャンペーンでは、感情的なトンマナを正しく設定する必要があります。例えば、サステナビリティのメッセージを含む広告では、人々に希望と自信、そして変化する力を与えることが重要だと私たちは考えています。
そこで、広告で感情を喚起する効果的な方法としてユーモアがあります。環境に配慮された家庭用品の代表ブランドであるセブンスジェネレーションのリサイクルトイレットペーパーの広告では、サステナビリティのメッセージを伝えるためにユーモアを用いています。
セブンスジェネレーション – Trees and B’s:
微表情分析を使えば、ユーモアがどのように、どの場面で響いているのかを理解することができます。この例では、サステナビリティにどれだけコミットしているかという点で異なる2つのグループの人々に注目しました。
微表情分析では、サステナビリティへのコミットメントが低いグループ(現実派)は、ユーモアによってメッセージをより身近に感じていることがわかります。この広告は、最後の「木を守ろう」という行動喚起のシーンも含め、全体を通して現実派の笑顔をより多く引き出していることから、より多くの人にサステナビリティのメッセージを伝えるには有効な戦術と言えます。
また、別のクライアントと調査した広告では、意図したものとはまったく異なる反応が見られました。微表情分析と自由回答で、笑いを狙ったシーンがおもしろくないと捉えられていたことがわかりました。ジョークが理解されず、一部のシーンでは不快感を与えることもありました。伏線回収をわかりやすくするための再編集が必要でした。
脳波(EEG: Electroencephalography)についてはどうですか?
広告を理解するために脳波(脳活動の記録)を試験的に導入したところ、機器の装着が対象者にとって厄介なだけではなく、データの意味が曖昧なため、実用化は難しいことがわかりました。微表情分析と比較して、得られる情報ははるかに少ない次元であり、精度も低くなります。学術論文では、複数の調査間をまたいだ比較は難しいとされており、自然ではない条件下で邪魔な装置を着けた測定では、回答者の感情を変化させる可能性があります。
脳波と微表情分析のいずれにおいても文脈は重要ですが、微表情分析では、脳波のように1つの次元だけでなく、複数の表情を測定します。たとえ笑顔がさまざまな感情を含んでいたとしても、その感情を人々が自分で言語化した方が、脳波データについて複雑な科学用語や次元を理解するよりも、簡単です(私たちは毎日、社会生活の中でこれを実践しています)。つまり、脳波ではデータを読み取るために訓練された神経科学者が必要ですが、微表情分析では多くの人が熟練の分析者になることができるのです。
まとめ
私たちは、広告から喚起される感情を測定することが重要だと考えており、世界中でKantar Marketplace上の自動化されたデジタル広告のテストにおいても微表情分析を導入しています。デジタル広告への投資が増加する中、広告がどのように、そしてなぜ効果を発揮しているのかを理解することは、とても重要です。アテンション・エコノミーでは、一秒一秒が大切です。さらに、微表情分析についてのさらに詳しい情報については、ウェビナーをご覧ください。
原文:https://www.kantar.com/inspiration/advertising-media/express-your-emotions-why-emotional-response-is-important-in-advertising
翻訳・編集:後田瑞紗, 長谷川侑加, Creative Domain
■本件に関するお問い合わせ先
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