行動・態度・発言が食い違うとき、何を信じるべきか
行動、態度、そして発言。これらはすべて、消費者から発せられる重要なシグナルです。問題は、それらが一致しないときに何を信じるべきか。その見極めこそが、データを意思決定へと変える鍵になります。
私たちが日々向き合うCMOの多くは、活用しきれないほど膨大なデータを保有しています。しかし、その数多くの指標や分析結果の先にある、本当に重要な問いはいつも同じです―「では、私たちは何をすべきなのか?」 この問いに素早く答えを導き出している企業は、すでに“どこに目を向けるべきか”を理解しています。
すべてのシグナルには、3つの役割がある
マーケターが日々向き合う指標は、情報源や新しさに関係なく、突き詰めれば3つの役割のいずれかを担っています。
行動(Behaviour):実際に何が起きたのかを示す「記録」です。購入、サブスクリプション登録、来店、リピート購入、利用状況、ブランドスイッチといった実際の行動データが該当します。テクノロジーの進化により、取引データ、プラットフォーム上のコンバージョン、クリックストリーム分析、ECデータ、さらにはAIを介した購買行動なども捉えられるようになっています。
態度(Attitude):「これからどこへ向かうのか」を示すコンパスです。ブランドに対する認識や信頼、推奨意向、価値評価、品質に対する印象、カテゴリーに対する考え方など、人々が何を感じ、どのように考えているかを表します。「意義のある差別性(Meaningful Difference)」や フューチャーパワーといった指標も、この領域に含まれます。AIそのものに人間のような態度はありませんが、LLMやAIエージェントは学習データの中に存在するブランド連想の影響を受けながら、情報を提示し推奨しています。 表現(Expression):変化の兆しを捉える地震計のような存在です。検索クエリ、SNS投稿、レビュー、口コミ、コメント、シェア、センチメントなど、人々が発信するあらゆる声を捉えます。同様に、AIが生成する推奨結果、アルゴリズムによるランキング、チャットボットの回答、生成AIによるコンテンツなども、新たな「マシンウェブ(Machine Web)」における表現として捉えることができます。

人々が何をしたか、何を感じているか、何を語っているか。そしてAIやアルゴリズムが何を捉え、反映し、推奨しているか。これらを切り離して見るのではなく、ひとつのシグナル体系として理解することが、これからのマーケティングにおいてますます重要になっています。
態度のシグナルで次の行動を予測できる
人々がブランドに対して何を考え、何を感じているかの変化は、実際の購買や利用といった行動の変化に先立って現れることが分かっています。
そのことを示しているのが、Kantarのフューチャーパワー指標です。フューチャーパワーは売上データを一切使用せず、消費者の態度データだけを基に構築された指標ですが、その予測力は非常に高いことが確認されています。フューチャーパワーが高いブランドは、低いブランドと比べて、バリューシェアを拡大する可能性が4倍高くなります。一方で、フューチャーパワーが低いブランドの52%は、すでにシェアの低下局面にありました。つまり、消費者の態度は単なる意識調査の結果ではありません。ブランドの将来を見通すための、有力な先行指標なのです。
同様の「先読み」の力は、KantarのLINK+広告テストにも表れています。LINK+で測定された広告の評価結果は、平均すると、通常のブランドトラッキング調査で変化が確認される約11か月前に、ブランドエクイティの変化を予測できます。これは、マーケターにとって実際に行動を起こすための十分なリードタイムをもたらす“早期警報システム”と言えるでしょう。もちろん、そのタイミングはブランドによって異なります。数週間で効果が現れるケースもあれば、より長い時間を要するケースもあります。しかし、方向性は一貫しています―優れたクリエイティブは、まずブランドエクイティを動かし、その後に売上を動かす。 売上の変化だけを追っていては、その兆しを見逃してしまう可能性があります。だからこそ、マーケターは「人々が何をしたか」だけでなく、「人々がどう感じ始めているか」にも目を向ける必要があります。強いブランドは、売上が伸び始める前から、すでに消費者の意識の中で動き始めているのです。
シグナルが一致するとき、ブランドの成長は加速する
近年、その最も分かりやすい例がオクトパス・エナジー(Octopus Energy)です。顧客満足度が低く、利用者の乗り換えも起こりにくいことで知られるエネルギー業界において、オクトパス・エナジーは優れた顧客体験と環境配慮型のイノベーションを通じて、ブランドの「意義のある差別性(Meaningful Difference)」を構築しました。その結果、業界で最も強い口コミ評価を獲得し、その好循環を原動力として、わずか6年で英国最大の電力会社へと成長しました。
もちろん、これは特別な成功事例ではありません。Kantarが6市場を対象に実施した最新のメタ分析では、ブランドエクイティが新規売上の最大35%を生み出す可能性があることが明らかになっています。また、ブランドへの継続的な投資は時間とともにさらなる成長を促す一方で、投資を削減するとブランドエクイティは徐々に低下し、その影響は売上にも長期間にわたって及びます。
この教訓を大きな代償を払って学んだ企業の一つがアディダス(Adidas)です。同社は一時期、パフォーマンスマーケティングに予算の77%を投下していました。各種ダッシュボード上では効率的に見えたからです。しかし、その後エコノメトリクス分析を実施した結果、実際にはブランド施策が全売上の65%に貢献していることが判明したのです。数字だけを見れば効率的に見える施策も、ブランドの土台を育てる投資なしには持続的な成長を生み出せないことが明らかになったのです。
そして今、消費者のブランドの見つけ方もAIによって変わりつつあります。その結果、ブランドにとっての競争環境はさらに厳しさを増しています。Kantar BrandZのデータによると、消費者が感じるブランドの差別化は、この10年以上にわたって世界的に低下しています。2014年には約18%のブランドが「意義のある差別性(Meaningfully Different)」を備えているとして評価されていましたが、現在ではその割合は14~15%程度にまで低下しています。そして、AIをもってしてもこの流れを食い止めるには至っていません。重要なのは、シグナルの量を増やすことではありません。本当に求められているのは、それらのシグナルを正しく読み解き、意思決定につなげる「判断力(Judgement)」です。
消費者が何をし、何を感じ、何を語っているのか。そして、AIが何を推奨し、どのブランドを可視化しているのか。そのすべてのシグナルを結びつけて意味を見出せるブランドこそが、これからの時代に選ばれ続けるブランドになるのです。
シグナルをリアルタイムで読み解く
発言や表現(Expressions)は、単に「何か変化が起きている」ことを知らせるだけではありません。その変化がなぜ起きているのかまで明らかにしてくれます。例えば、ある大手食品ブランドでは、ブランドトラッキング調査で信頼度スコアの低下が確認されました。しかし、その時点では原因までは分かりませんでした。そこでソーシャルリスニングを行ったところ、直近の原材料変更に対する不満の声が急増していることが判明したのです。調査データは「何か問題が起きている」ことを捉えていました。一方で、消費者の発言や投稿は、「何が問題なのか」という具体的な理由を教えてくれました。つまり、態度のシグナルが“異変”を知らせ、発言のシグナルが“原因”を明らかにするのです。
この重要性が最も分かりやすく表れるのが、新製品の発売です。実際に、市場へ投入された新商品の3分の2は、発売から2年以内に失速するか、市場から姿を消しています。しかし、その多くは決して悪い商品だったわけではありません。問題は、人々の行動、態度、発言というシグナルを個別にしか見ていなかったこと、あるいはシグナルそのものを十分に読み取れていなかったことにあります。

製品が存在しない段階では、利用できるシグナルは発言や表現だけです。検索行動や社会の空気感、初期の口コミや会話から、人々の関心や潜在ニーズの兆しを読み取ることになります。発売後は、購買データだけを見ていると判断を誤る可能性があります。初速が良くても一過性のブームに終わることもあれば、逆に立ち上がりは緩やかでも長期的な成長につながるケースもあります。そして発売から数か月が経ち、消費者の態度データが蓄積されて初めて、その商品が持続的なブランド成長を生み出しているのか、それとも一時的な話題に終わったのかを見極めることができます。
本当に重要なシグナルだけを読み解く
重要なのは、あらゆるデータを追い続けることではありません。どのシグナルを信頼すべきかを理解し、行動・態度・発言という3つのシグナルが完全に一致するのを待つのではなく、必要なタイミングで意思決定する準備をしておくことです。Kantarのホワイトペーパー『Three Signals』では、情報過多の状態から脱し、自信を持って意思決定するための考え方を詳しく解説しています。 『Three Signals』ホワイトペーパーをダウンロードし、自社ならではのシグナル体系の構築にお役立てください。また、データを意味のあるシグナルへ、そしてシグナルを具体的なアクションへと変える方法については、ぜひKantarまでお問い合わせください。
※本記事はKantar Globalが公開した記事をもとに日本語訳・編集したものです。
原文(英語)はこちら:Three signals, one decision. Behaviours, attitudes and expressions.
【本件に関するお問い合わせ先】
– ディレクター、ヘッドオブグロース&マーケティング 小川朋子
– E-mail:marketingjapan@kantar.com