Think
With
Phase 2
ブランドは誰がつくるのか?
企業が始め、市場が完成させる
監 修
瀬戸口 修
氏
瀬戸口&アソシエーツ 代表
ブランドについて語るとき、ロゴやデザイン、広告やコミュニケーションを思い浮かべることは少なくありません。しかし、経営の視点で考えると、本当に重要なのは「どう見せるか」だけではありません。企業は社会に何を約束し、何を実現しようとしているのか。ブランドの出発点は、その企業の内側にある「意思」にあります。今回も、CEO、CMO、マーケティング担当者の対話を通じて、ブランドがどこから始まり、どのように企業の成長を支えていくのかを考えていきます。
-
CMO
前回の会議で話をして、一つ気になったことがある。 ブランドが経営そのものに関わるようになっているという話でしたが、そもそもブランドというものは、いつ始まるんだろう? 商品が世の中に出た時なのか。広告を始めた時なのか。
-
CEO
市場や社会の変化に違和感を抱きながら、経営全体を俯瞰し、意思決定を担う。変化をどう理解し、経営に取り込んでいくべきかを常に模索している。
-
マーケティング担当
生活者の日々の変化を現場感覚で捉え、経営と市場のあいだにある距離感や違和感を、実感でとらえていく担当者。
Scene 01
ブランドは、いつ始まるのだろう
-
前回の会議で話をして、一つ気になったことがある。
ブランドが経営そのものに関わるようになっているという話でしたが、そもそもブランドというものは、いつ始まるんだろう? 商品が世の中に出た時なのか。広告を始めた時なのか。 -
一般的には、そう思われることが多いですよね。
新しいロゴをつくるとか、新しいコピーを発表するとか。
ブランドというと、どうしても外に向けた活動をイメージします。 -
私自身もそう考えていた。
ブランドというのは、ある程度事業が軌道に乗ってから考えるものだと。 -
でも、私は少し違う見方をしています。
-
違う?
-
ブランドは、商品から始まるものではないと思うんです。
もっと前。
企業が、
「私たちは何を社会に提供したいのか」
「何を約束する会社なのか」
そうした意思を持った時から始まっているんじゃないでしょうか。 -
会社の意思、か。
-
生活者から見ても、最近はそう感じます。
機能や価格だけではなく、
「この会社は何を大切にしているのか」
そこを見てブランドを選ぶ人が増えています。 -
昔は良い商品をつくれば、それで十分だと思っていた。
しかし今は、
「どんな会社がどういう意思をもってつくっているのか」
までを含めて評価されている。
そういう時代になったということか。
ブランドの出発点は、商品ではなく企業の意思にある。 しかし、その意思だけではブランドにはならない。
- ブランドに唯一の定義はない。しかし、その出発点は企業が社会に対して何を約束するかという意思にある。
- ロゴや広告は、その意思を伝える手段であり、ブランドそのものではない。
- 社会や市場は、商品だけでなく、その企業が何を目指しているのかも見ている。
Scene 02
「ブランドの意思」は、何によって形づくられるのか
-
しかし、不思議ですね。
コーポレートブランドとプロダクトブランドというと、
私は別の話だと思っていました。 -
そう思われることが多いですね。
しかし本質は、それほど違わないと思います。 -
本質?
-
はい。
商品であっても、
企業であっても、
市場から
「何者として認識されるか」
を決める活動です。
違うのは対象であって、
考え方は同じなんです。 -
B2Bでも同じです。
「うちは部品メーカーだから」
という話ではなく、
その会社が何を約束しているのか、
市場はそこを見ています。 -
つまり、
B2Cだからブランドが必要、
B2Bだから不要、
そういう話ではないということか。 -
はい。
ブランドは、
商品でも企業でも、
市場との約束です。 -
会社の意思が重要だという話は分かります。
しかし、それだけでブランドになるとは思えない。
企業が「重要だ」と思っていることと、
市場が評価することは、
必ずしも一致しませんね。 -
まさにそこです。
ブランドは、企業が一方的に決められるものではありません。
企業はIdentityを定め、社会への約束を示すことはできます。
しかし、その約束がブランドとして成立するかどうかは、
市場との関係の中で決まります。 -
最近よく使われる考え方として、
ブランドには Meaningful と Salient という視点があります。
Meaningful とは、企業が伝えたい価値ではなく、
市場や生活者にとって「選ぶ理由になる存在」であること。
Salient とは、そのカテゴリーを考えたときに、
「まっ先に思い浮かぶ存在であること」。
ブランドが選ばれ続けるためには、この2つの視点が重要になります。 -
Meaningful……。
企業にとって意味がある、という話ではないんだろうな。 -
そうではありません。
企業が「意味がある」と語ることではなく、
市場や生活者が、「自分にとって意味がある」と感じることです。 -
つまり、
企業の価値ではなく、市場や生活者が感じる価値、社会的価値ということか。 -
はい。
ブランドは企業が一方的に語るものではありません。
企業の論理ではなく、市場との関係の中で意味を持つものなんです。 -
なるほど……
企業は、
自分たちのIdentityを決めることはできる。
しかし、
それがMeaningfulかどうかは、
市場との対話の中で決まるわけだ。
ブランドは、企業がつくり、市場が完成させる
- コーポレートブランドとプロダクトブランド、B2BとB2Cは対象こそ異なるが、本質的には市場から「何者として認識されるか」を形づくる活動である。 企業はIdentityを定め、社会や市場に対する約束を示すことができる。しかし、その約束が価値として成立するかどうかは、市場や顧客の認識によって決まる。
- ブランドの成長は、企業が何を語るかではなく、市場や生活者から Meaningful(選ぶ理由がある)、Different(他にはない)、Salient(真っ先に思い浮かぶ) 存在として認識されるかどうかによって左右される。
Scene 03
ブランドを最初に理解すべき人は、誰なのだろう
-
ここまで話していると、一つ引っかかることがある。
ブランドは当然、市場や生活者にどう理解されるかが重要だ。
ただ、それを外への発信だけで考えていてよいのか。
最近は、むしろ社内でどれだけ共有され、日々の判断や行動に落ちているかの方が問われている気がする。 -
そう思っていました。
実際、私もマーケティングを担当した頃は、
「どう伝えるか」
「どう認知してもらうか」
そこばかり考えていました。 -
もちろん、それも重要です。
ただ、最近は少し順番が違うのではないかと思うようになりました。 -
順番?
-
はい。
社会や市場に理解していただく前に、
まず企業自身が、自分たちのブランドを理解している必要があります。 -
企業自身というと……
社員ということですか。 -
そうです。
社員一人ひとりが、
「この会社は何を目指しているのか」
「何を約束しているのか」
それを理解していなければ、
どれだけ立派なブランドメッセージを発信しても、一貫性は生まれません。 -
最近は特にそう感じます。
営業担当の対応、
採用面接、
カスタマーサポート、
SNSでの発信。
生活者は、その全部を見ています。 -
かつては、広告や商品がブランドを形づくるものだと考えていた。
しかし今は、それだけでは足りない。
社員の判断、現場での対応、社会との向き合い方。
そうした会社全体の振る舞いそのものが、ブランドとして見られている。 -
はい。
だから最近、「インターナルブランディング」という言葉が重視されています。
社員向けの活動という意味ではありません。
社員自身がブランドを理解し、
共感し、
日々の判断で体現することです。 -
ブランドアンバサダーという言葉も、以前は外部の著名人や発信力のある人を思い浮かべることが多かった。
その人たちにブランドを紹介してもらい、認知や好意を広げていく。
そういう発想だった。 -
もちろん、それもあります。
ただ、本当のアンバサダーは、
毎日会社で働いている社員なのかもしれません。 -
生活者が接する企業の顔は、
広告より、
目の前の社員であることの方が多いですから。 -
ブランドは「語るもの」だと思っていた。
しかし、今の話を聞いていると、社会が見ているのは言葉ではなく、企業の振る舞いそのものなのだろう。
だとすれば、ブランドとは、人を通じて体現されるものなのかもしれない。 -
だからブランドづくりは、
広告制作ではありません。
組織が同じ価値観で判断できる状態をつくること。
それ自体がブランドづくりなんです。 -
なるほど。
社員が理解していなければ、外に向けてどれだけ言葉を整えても、実際の行動にはつながらないということだな。 -
そう思います。
だから、ブランドへの社員のエンゲージメントをどう高めるかが重要になります。 -
現場でも、ブランドを「知っている」ことと、「自分の仕事の中でどう表すか」が分かっていることは違います。
-
その通りです。
だからインターナルコミュニケーションやインターナルブランディングは、単なる社内施策ではなく、ブランドを日々の判断や行動に落とし込むための仕組みとして考える必要があります。
ブランドを最初に体現するのは社員である
- ブランドは社会や市場に伝える前に、まず社員自身が理解し、共感し、実践していることが重要である。
- 日々の接客や営業、採用、SNSなど、社員一人ひとりの行動がブランド体験を形成している。
- そのためには、社員のブランドへのエンゲージメントを高め、インターナルコミュニケーションやインターナルブランディングを通じて、企業の意思を日々の判断や行動に落とし込むことが欠かせない。
Scene 04
なぜ今、コーポレートブランディングなのか
-
ここまで話してきて、少し見方が変わってきた。
ブランドは、商品やサービスをどう見せるかという話にとどまらない。
むしろ、会社そのものが何を信じ、社会に何を約束するのか。
そこまで含めて問われるようになっている、ということなのだろう。 -
そう思います。
以前は、「良い商品があれば、ブランドは後からついてくる」
という考え方もありました。
でも今は、企業の外側で起きている変化が、ブランドの見られ方に大きく影響するようになっています。 -
外側の変化、か。
-
はい。
生活者も、取引先も、投資家も、商品だけを見ているわけではありません。
環境への姿勢、社会との関わり方、社員への向き合い方。
そうしたものまで含めて、「この会社はどんな存在なのか」を見ています。 -
市場環境そのものが変わっているのだと思います。
技術も変わる。生活者の価値観も変わる。
社会から企業に求められる役割も変わる。
その中で、商品やサービスだけでブランドを説明することは、以前より難しくなっています。 -
確かに。
10年前には周辺的な話だと思っていたことが、今では企業を見るうえでの前提になっている。
ブランドも、企業の内側だけで決められるものではなくなってきた、ということだな。 -
だからこそ、
変わるものの上に経営を置くのではなく、
変わらないものを軸にする必要があります。 -
変わらないもの……
-
企業として、
何を信じ、
社会に何を約束するのか。
その意思です。 -
生活者は、
広告を見て共感するというより、
企業の行動を見て共感しています。
環境への姿勢、
社員への向き合い方、
社会への関わり方。
そういうもの全部がブランドになっています。 -
そう考えると、コーポレートブランドは、単なる会社の看板ではないのだろう。
むしろ、変化の中で何を選び、何を選ばないのか。
その判断を支える基準に近いものになってきている。 -
私はそう思います。
ブランドが意思決定を代わりにしてくれるわけではありません。
ただ、ブランドという判断軸があるから、環境が変わっても、
企業としての選択はぶれなくなるんです。 -
なるほど……。
前回は、ブランドが経営課題になってきている、という話をした。
ただ、今日の議論を聞いていると、それだけでは少し足りないのかもしれない。
ブランドは、経営上の一テーマというより、変化の中で会社が何を信じ、どう判断するのかを支える土台に近づいている。 -
コーポレートブランディングが重要になっているのは、
企業が社会に向けて自分たちを説明するためだけではありません。
市場環境が変わるたびに、
事業も商品も戦略も変わっていきます。
その中でも変わらないものは何か。
企業としての意思や価値観を共有し、意思決定の拠り所を持つこと。
その必要性が、これまで以上に高まっているのだと思います。 -
そして、その意思を、
社員が理解し、
市場が共感し、
社会が評価する。
その循環が、
持続的な成長につながっていくのだと思います。
コーポレートブランディングは、企業の持続的成長を支える基盤になる
- 変化の激しい時代だからこそ、商品や事業ではなく、企業としての普遍的な意思や価値観が重要になる。
- コーポレートブランドは、社会への約束を示すだけでなく、経営や組織の判断軸として機能する。
- 持続的な成長を実現するためには、社員・市場・社会が共通のブランドアイデンティティを共有し、その価値を体現していくことが不可欠である。
ブランドは企業の意思から始まるが、
それだけで成立するものではなく、
市場の中で意味を持ちはじめて価値になる。
ブランドの成否は、市場での選択と記憶(Salience)によって
検証、証明されていく。