ディスラプションとは、試合の流れを変えるゲームチェンジャーになること
前回は、カンターのBrandZデータベースを用いたブランドタイポロジー分析を紹介しながら、ブランドが「勝ち組」になるために、ブランドによる創造的破壊=「Disruption(以下、ディスラプション)」を検討することの意義について説明しました。タイポロジー分析でいう「シンボル的なブランド」や「スターなブランド」の座を既に得ているブランドであれば、あえてディスラプションを行う必要はありませんが、これからそうした「勝ち組」を目指そうとするブランドにとっては「ディスラプション」を検討する意義は大いにあると思います。これからチャレンジを行おうとするブランドにとって、ディスラプションとは既存の「勝ち組」ブランドの勝利に傾きかけた試合の流れを変え、自ブランドに勝利を呼び込む“ゲームチェンジャー”を意味します。
カンターではBrandZのデータベースを用いながら、 “ゲームチェンジ”に成功したブランドの事例研究を行っています。 “ゲームチェンジャー”を考えているマーケターの方の参考になるようケーススタディをいくつかご紹介します。
事例研究に用いる「バイタリティ指数」について
カンターが行っているBrandZの自主調査では、差別性・意義性・想起性の3指標の他に、カテゴリーを横断して共通のブランドイメージ項目も聴取しています。これらの共通イメージ項目は3指標と相関し、3指標を強化するのにどのようなイメージが役立っているかを明らかにしてくれます。過去のBrandZのデータベースから、3指標の内特に意義性・差別性に影響の高いイメージ項目を “バイタリティ指数”として、ブランドの健康診断に使うことを推奨しています。(ブランドのトラッキング調査でバイタリティ指数が下がればブランドの健康状態はあまりよくなく、維持・強化されていれば健康状態が良好、という見方をします。)
バイタリティ指数は、①ブランドから目的意識を感じられるか、②新製品などのイノベーションに優れているか、③いい広告を行っているか、④ブランドで印象的な体験ができたか、⑤ブランドに愛着を感じられるか、の5つの領域を見ます。「ニーズを充たしてくれる」「愛着=アフィニティ」の2つは意義性の合成指標の基になっている指標ですが、どちらも重要なので、バイタリティ指数では分けて見るようにしています。尚、これらの指数は3指標と同様にカテゴリーを横断した標準化指数を用いています。
これらバイタリティ指数の中で、今回のテーマである「ディスラプション」に直接影響するのは「変化を巻き起こす」というイメージ項目です。この「変化を巻き起こす」というイメージが、「業界をリードしている」「クリエイティブである」と共に高い水準にあると「意義のある差別性」も高くなりやすいので、イノベーション指数として3項目を併せて見るようにしています。実際には(もともと高い水準にあった場合を除き)消費者がブランドを「クリエイティブである」と評価するようになるには時間を要するようです(恐らく、「クリエイティブ」の定義や感じ方は人による個人差が大きいため、目立った変化を造りだし、業界や消費トレンドをリードしているのと較べて、誰でもが「クリエイティブ」と認めるようになるのには余計に時間がかかるのだと思います)。そのため、「変化を巻き起こす」と「業界をリードしている」を特に注意して見ることが多いです。
ディスラプションケーススタディ – 1
フランスのトップビールブランド Leffe(レフ)
Leffe(以下、レフ)はベルギーの修道院で生まれたビールブランドです。1240年にビールがつくられ始め、フランス革命や火災などで一旦は衰退したものの、1952年に復活したのち民間の醸造所へ引き継がれ、ビール愛好家に愛されています。レフはフランスでも歴史のあるプレミアムビールとして高い意義性を誇っていましたが、2014年に「ディスラプション」を行うまでは、差別性についてはトップのデスペラードやその他のブランドに大きく差をつけられていました。
そうした状況下で、2014年にレフは大きな試みを行いました。それは「食事との相性がいい食前ビール」という、これまでのビールとは異なる新しいポジショニングを行い、ビールの新しい「カテゴリーエントリーポイント」を提案したことでした。そのため新製品によるライン拡充も、この新しいポジションイング戦略に沿ったものに切り替えられました。
その結果、2014年以降レフはフランスでのトップブランドの地位を獲得し今日まで維持されています。特筆すべきは差別性で新ポジショニングによる「ディスラプション」以降、レフはデスペラードに次ぐトップレベルの差別性を獲得していることです。
レフのディスラプションの成功要因は、新しいポジショニングアイディアに基づいて差別性・意義性・想起性の全てを配慮した、きめ細かいマーケティングミックスを実施したことにあります。一つ一つの施策は奇をてらうことなく、シンプルでわかりやすく、それらが連動して「食前ビール」という新しいポジショニングアイディアを支えるように設計されていました。
このようなマーケティングミックスによりレフのブランドイメージがどのように変化していったかをバイタリティ関連指数でみてみると、「食前ビール」ポジショニングによるディスラプションを行った2014年には、最初に「変化を起こす」と「ブランド体験」、それによる「愛着」が指数の平均100を上回って反応しているのがわかります。新ポジショニングのユニークさと同時に展開された、体験プロモーションの効果が出たと考えられます。
その後、これらの指数は維持しながら、「業界をリード」「クリエイティブな」といったイメージが伸びていき、レフのユニークさがリーダーブランドらしさにつながっていったことが判ります。
また、プライシングパワーマップ(下記図表)をみると、ディスラプション以前に単なるプレミアムビールのポジショニングをとっていた2014年(ピンク色)と較べてプライシングパワー自体はやや下がっていますが、市場の相対(知覚)価格は上がり競合のデスペラードとほぼ同じ価格帯にまで値上げされていながら価格以上の価値があると受け取られています。(元々持っていた高いプライシングパワーを高価格に転嫁させることに成功した。)レフはディスラプションによって、マインドシェア=販売ユニットシェアを上げただけでなく新製品の単価アップにより収益性を上げることにも成功したようです。
尚、レフのように新しいカテゴリーエントリーポイントを創出する試みを行う場合、必ず伴うのが競合の反応(カウンターアタック)という問題です。具体的には、①他のブランドにも追随されて折角創出した新しいカテゴリーエントリーポイントを横取りされるリスクがある ②市場でより大きいブランドが従来のエントリーポイントで大々的なキャンペーンを行い新しいエントリーポイントへの流出を防ごうとする、の2点により新エントリーポイントが陳腐化する恐れがあります。
ここからは、レフがこうした懸念をいかに克服し、新ポジショニングを成功に導いたのかを見ていきますが、答えは前述した統合・一貫したマーケティングミックスの中にあります。
(1)競合による追随の問題
レフが「食前ビール」という新ポジショニングを行った後で、同じポジショニングで追随をしてきたブランドが3つありました。下図を見てわかる通り、同一ポジショニングのブランドが合計で市場シェアの4割強を占めるにまで伸長したことで、結果的にこうした追随ブランドのおかげで「食前ビール」という新しいカテゴリーエントリーポイントの市場定着が促進されたことになります。
この中で、シェアを伸ばしきれなかったのが、先ほどのプライシングパワーマップで平均的な価格よりやや安く大衆的な1664ビールだけで、成長したブランドはレフを含めたプレミアムビールでした。シャンパンのような食前酒を見ればわかる通り、このエントリーポイントで大事なのは、「食事のスターターとしての味わいと雰囲気をゆっくりと楽しめる優雅さと上質さ」です。このエントリーポイントで他ブランドに侵食されることなく、レフがカテゴリートップを保ち続けられたのは、8世紀におよぶ修道院ビールとしての歴史と伝統という差別性が、マーケティングミックスに組み込まれていたからだと言えます。この差別性があるため、他ブランドの追随をリスクではなく追い風にすることができたと言えます。マーケティングチャレンジをして新ポジショニング戦略を考える際に、こうしたブランドが元々持っていた「中心価値」をきちんと押さえていた点が成功につながったと考えられます。また、どの市場でも新しい分野を初めて開拓した創業ブランドは、創業当初は「先取の優位性」を特権として持ちますが、新分野が成功して競合激化すればその特権は薄れてしまいます。こうした先を見据えてブランドの中心価値(差別性)を強化するマーケティングプランをあらかじめ作成していたことも成功の要因であったといえます。
(2)大手競合によるカウンターアクション
レフのディスラプション以前に市場のトップブランドであったデスペラードは、テキーラをビールにミックスするというユニークさで特に若年層に支持されていました。そのため、パリの新進気鋭のアーティストとコラボレーションやミレニアル世代向けのマーケティングが中心でした。
そのためレフの「食前ビール」ポジショニングとは元々直接ぶつかるわけではなかったのですが、2017年にレフへのカウンターアクションとして、欧州各都市で斬新な内容の若年層向けのイベントを次々と行い話題となりました。
このカウンターアクションにレフが対抗できたのは、既にディスラプションの段階で、強力な競合デスペラードとぶつからず自ブランドが優位に立てる新しいカテゴリーエントリーポイントを創出した点にあります。
レフのディスラプションの2014年とデスペラードがカウンターアクションを行った2017年を、年代別に比較したのが下表となります。
これをみると、マインドシェア、意義性、差別性共に、レフ(2014年)は35歳以上によりインパクトがあり、デスペラード(2017年)は35歳未満にインパクトがあったことが判ります。
興味深いのは、マインドシェアと意義性においてデスペラードは35歳未満と35歳以上とのギャップが大きいのに対し、レフはその差が小さい点です。また、差別性においては、デスペラードの両年代での差は小さく、意義性とは異なり差別性は年代間であまり大きな差が出なかった(どの年代も高く反応した)ことが判ります。デスペラードは元々35歳以上への浸透が弱いのですが、それでも大々的にイベントが行われた2017年には35歳以上(紫色)でもマインドシェアと意義性でアップリフトが見られます。「変化を巻き起こしている」でも同様の傾向がみられるので、イベントそのものは中高年向けではなかったものの、中高年にとっても仕事帰りに友人とビールで談笑する際に恰好の話題となったと推測されます。話題性のあるビールに興味がわき、それなら一度試してみたいと思うビール愛飲家に固有な心理が、中高年の意義性にも働いたのではないかと思います。
こうしたオフターゲット世代への副次的効果は、レフにも見られます。レフのポジショニングは元々プレミアムビールだったので「食前ビール」提案は中高年にうまく刺さったわけですが、マインドシェア・意義性・差別性をみると中高年に較べて遜色ない反応を若年層も示しているからです。特に「変化を巻き起こしている」をみると若年層の方が高く反応しています。BrandZのデータベース全般をみると、同じブランドでも若年層の方が意義性や差別性への反応値が高い傾向にあり、若年層の「感度のよさ」が示されています。若年層がゆったりと食前酒を楽しむことにどれだけ興味があるのかはわかりませんが、若年層をメインターゲットにしていなくても(=若年層にとって主要な興味範囲ではなくても)、レフの「食前ビール」ポジショニングのように、コンセプトがシンプルでわかりやすく、かつ目新しくユニークなものであれば、若年層にもアピールするということです。元々若年層をメインターゲットにしているデスペラードでは、(話題となり伸びているとはいえ)中高年への浸透が低いのとは対照的だと思います。
このようにデスペラードのカウンターアクションにより中高年層への多少の浸透を許したものの、ブランドの中心価値を軸においた目新しくユニークな新ポジショニングを行うことで若年層への浸透も図れたことが、ディスラプションで獲得できたトップブランドの座を維持することにつながったといえます。
【レフのまとめ】
レフのディスラプションの成功は、単に「食前ビール」というユニークさだけではなく、それが自ブランドの中心価値を強化させるという戦略的整合性がきちんと吟味されていたこと、その実施段階において意義性・差別性・想起性がつながるように統合・一貫した緻密なマーケティングミックスプランが作成され実践されたことが挙げられると思います。
ディスラプションケーススタディ – 2
甦った老舗ラグジュアリーブランド、GUCCI
GUCCI(以下、グッチ)は1921年にイタリア・フィレンツェでグッチオ・グッチによって創業された世界的なラグジュアリーブランドの一つです。グッチはクリエイティビティ、イタリアのクラフトマンシップを守りながら、ラグジュアリーブランドの再定義への歩みを続けています。
2015年1月にアレッサンドロ・ミケーレが新たにクリエイティブディレクターに就任した当時は、グッチは低迷に苦しんでいました。
下図は2015年のUSAのラグジュアリーグッズカテゴリーにおけるタイポロジーマップですが、グッチはラグジュアリーブランドとしての歴史と名声により差別性はあるものの、ルイ・ヴィトンやベルサーチと較べて際立ったものがなく、かといってコーチやマイケルコースのような一般受けをする高い意義性を持つわけでなく、マインドシェアも5%程度とその他のブランドの中に埋もれていました。
そこで、ミケーレが行ったことは、従来のラグジュアリーブランドの殻を打ち破って次々に斬新な話題を提供し、ディスラプションを起こすことでした。彼の斬新で独創的な切り口はこれまでのグッチのイメージを覆すものでした。
また、彼はターゲットをこれまでのハイファッション受容層ではなくミレニアル世代に定めた上で、デジタルマーケティングに力を入れ、ソーシャルメディアを活用したコミュニケーションを積極的に展開していきました。若者層でも使いこなせるカジュアルな物であっても、見た瞬間にGUCCIだと識別できるデザインはSNS映えし、承認欲求を満たそうとするミレニアル世代の心理をくすぐりました。
その結果、グッチはブランドとしての勢いを取り戻し、2019年にはラグジュアリー市場でトップブランドの地位を獲ることに成功しました。
上のタイポロジーマップでわかる通り、グッチは差別性で最も高い評価を得ただけではなく、それまで平均以下だった意義性を押し上げることにも成功しました。
この「意義のある差別性」の強化をバイタリティ関連指数でチェックすると、ディスラプション前は「クリエイティブな」以外は、軒並み平均か平均にやや欠けるレベルであったブランドの健康状態が、ディスラプション以降に大幅に改善されたことが判ります。中でも最もシャープな伸びを示したのは、それまで指数で平均以下であった「変化を起こす」と「ブランドパーパス」でした。(ブランドパーパスは「人々の暮らしをよくするという目的意識がある」で聴取されています。グッチのようなラグジュアリーブランドの場合、この「人々の暮らしをよくする」は「私の暮らしをよくする」と置き換えて解釈することができます)
このことはラグジュアリーなハイブランドの本質とは「世の中に揺さぶりをかけるくらいのインパクトと先端性を持つべきものであり、ブランドが誰のため=自分のため=のものであるかが明らかでなければいけない」ということを示していると思います。グッチはそれまでの「品質は高級でいいが、数ある老舗高級品の一つにすぎず、誰かお金がある人が使っているブランド」という漫然としたイメージを脱し、「世の中に揺さぶりをかける先端性をもったハイブランドで、常に流行の先をいきたいと思う私を刺激してくれる」ブランドに生まれ変わったと言えます。その結果、業界(流行)をリードするポジションを取り戻すことに成功しました。
このようにハイブランドの本質を理解し、そこまでを計算にいれ大胆かつ斬新な活動をおこなったアレッサンドロ・ミケーレに、戦略的で緻密なマーケターとしての凄みを感じることができます。(残念ながら、ミケーレは2022年11月にグッチのクリエイティブディレクターを退任しています)
グッチのディスラプションでもう一つ特筆すべきは、一見奇抜にさえ見える斬新な展開を行いながらも、ブランドの「価格以上に価値があると感じさせる力=プライシングパワー」は2015年以前と同程度が維持されているということです。下図を見ると、相対的な市場(知覚)価格は2015年よりやや下がっていますが、それでもルイ・ヴィトンと並んで最高値と知覚されています。
先述したミレニアム世代向けのマーケティングは若者に向けて敷居を下げるようなマーケティングではなく、彼らの承認欲求を刺激して市場で最も高い商品を背伸びして買わせるマーケティングであったということができます。
以上の点を考えると、ミレミアム向けマーケティングを行ったミケーレの真の戦略的ターゲットは決して若年層にあったのではなくて、従来からの顧客年代層への刺激と再活性化にあったとみることができます。
グッチのマインドシェアを造り出したブランド力であるデマンドパワー指数と差別性・意義性・想起性の3指数を年代別に分けて、2015年から2019年の変化を見たのが下のグラフです。2015年と19年を比較すると、グッチのディスラプション効果は最終的に若年層だけではなく中高年層にも及んでいることがよく判ります。
上のグラフには2019年までの経過をみるため2017年も加えています。これを見ると17年に初動反応したのが若年層の想起性と中高年層の意義性でしたが、それぞれ17年をピークにして19年ではやや低下しています。ミレニアム向けマーケティングで最初に若年層で目立つ&話題になり(=若年層の想起性を上げる)、その話題性により同じ17年で若年層よりも中高年齢層で意義性が上がっています。これは前述したように、ハイブランドへの関心と感度が高い中高年層の一部がグッチの話題性に注目して「話題の先端にあるグッチを自分も持ち歩きたい」というニーズが刺激された結果と考えられます。一方で、若年層の場合はグッチを話題にはするが、自分も持ち歩きたいという人は17年時点ではまだ少数派だったといえます。
これら想起性と意義性の2指標と較べて、差別性についてグッチは元々高く、2015年時点でも指数平均を超えていたのですが、中高年層よりも若年層の方がグッチに差別性を感じている状態でした。レフのケースでも説明しましたが、一般的に若年層の方がブランドの価値(意義性や差別性)に対する受容感度が高い傾向が見られます。ミケーレはこのことに気づいてミレニアムマーケティングを行ったのだと思われます。上のグラフでは若年層での差別性は高止まりのまま2019年まで維持されています。
それに対して、中高年層の間では差別性に大きな上昇が見られました。2017年では微増でしたが19年になって差別性が大きく跳ね上がることになりました。若年層の想起性の変化を見るとミレニアムマーケティングの話題性のピークは2017年であったことが判ります。それに刺激を受けた中高年の意義性の上昇も17年がピークとなっています。このような話題性に対する反応とは異なり、中高年層での差別性の評価の上昇は、17年以降も継続されたミケーレの斬新なクリエイティビティへの評価に基づくものであったと考えられます。彼の斬新なクリエイティビティが単なる話題作りのものではなく、ハイファッションへの感度の高い中高年の間で「本物」とクリエイティビティがかかったということのように思われます。「グッチは他のブランドとは違い、ハイファッションとしての時代の先端的感性を反映しており、流行をリードしている」と理解・実感されるようになって初めて差別性が高まったのだと思われます。ラグジュアリーの世界では「本物」であることが重視されるので、いくら大胆で斬新なアプローチで話題と注目を集めても、ラグジュアリーの中心顧客である中高年層にそれが「本物」とみなされるためには、それなりの時間と丹念な努力の積み重ねが必要でした。とはいえ、それが成功したのは、それまで高級ブランドとしてグッチが培ってきたブランド資産がベースにあったからこそでクリエイティビティブランドの中心価値を理解し、そこに揺るぎない信頼と愛着をミケーレ自身が持っていたからこそ、大胆で斬新な手法に挑戦することができたのだと思います。
【グッチのまとめ】
グッチのディスラプションの成功は、グッチのブランド価値(差別性)が若年層で高いことに着目し、コミュニケーション感度とブランド受容性の高いミレニアム世代を「フランカー」として、ラグジュアリーの主要顧客層を側面から間接的に刺激した点にあったと思います。それにより、ブランドはラグジュアリーブランドとしての中心価値を維持しながら、時代の先端をいく鮮度と流行のリーダーシップを取り戻すことが可能になりました。ただし、この成功にはアレッサンドロ・ミケーレというタレントによる独創的なクリエイティビティと、彼のハイブランドの本質的価値への理解(ハイブランド顧客が真に求めていることへの深い洞察)が不可欠だったと思います。
2つのケーススタディ(レフとグッチ)からの示唆
レフとグッチの2つのディスラプションケースでは、カテゴリーも手法も全く異なっています。特にグッチのようなハイファッションの世界では、アレッサンドロ・ミケーレのようなアーティスティックなクリエイティブディレクターのリーダーシップが不可欠であり、他のカテゴリーでグッチと同じように大胆で斬新なことを行おうとしてもなかなか実行が難しいと思います。
とはいえ、市場でゲームチェンジを行い、自ブランドをリーディングブランドにするためには、2つのケーススタディで見てきたような大きなインパクトが必要になります。こうしたインパクトを無理なく作り出すためには、レフのようにシンプルでわかりやすいがユニークな、新しいポジショニングアイディアを使ったアプローチが参考になると思います。ただし、レフの場合もグッチの場合も、ブランドが元々持っていた中心価値を大事にして、その中心価値が(再)活性化するようにディスラプションが設計されていた点は重要な示唆であると思います。人が所詮「自分は等身大の自分」でしかなく、大きく変ることが難しいように、ブランドの場合も「ブランドはブランド」にすぎず、むしろそこに固有の価値や個性を見出していくしかないのだと思います。
2つのブランドはその固有価値は明確だったわけですが、その価値に魅力やそのブランドならではの個性が欠けていた点が共通しています。そのような時にディスラプションが検討されるべきだと思います。
この時に考えなければいけないのが「果たして自社ではそのような大きな変化を実行する力があるのか?」ということです。こうした実行力は社内の企業文化や風土によって異なると思います。アレッサンドロ・ミケーレのようにトップが社を引っ張っていく場合もあれば、一つ一つ社内承認を積み重ねて進めていくしかない場合もあります。どのような場合であっても、「自分は自分」でしかなくそれも個性と割りきるしかなく、変化を実施できる実力以上のことを企画しても失敗に終わる可能性は高いと言えます。
これまで消費者の反応を観察してきた調査会社としての経験から言うと、実力以上のオーバープロミスをしているブランドは実際に何の変化も起こすことができない。そのことを消費者はすぐに見抜いてしまう、ということです。こういった時に私どもはクライアントに「 “Story-teller”ではなく “Story-doer ”を心がけてください」と助言しています。なぜなら消費者はブランドが「語る」ことよりも「行動」していることを見ているからです。
こうした変化への実行力に懸念があれば、最初にブランドのパーパスについて社内で徹底的に議論をすることをお勧めいたします。もし既に社内でブランドパーパスやビジョンが定められているのであれば、実際にどのように行動に反映させるかという議論をされるとよいと思います。ストーリーは語るだけでは無意味であり、実践して初めて消費者にとっての価値となるからです。
紹介した2つのケースでも、ディスラプションの結果、ブランドパーパスへの消費者の評価があがる結果となっています。ディスラプションとは、決して奇をてらうようなことではなく、消費者にとってのブランドの中心価値をよく理解し、それをブランドパーパスにして、その目的とすることを最大限に実現していこうという試みの延長線上にあるべきものだと言えます。こうしたしっかりとしたガイドライン(ゴール)があることで、大きな変化を生み出す柔軟で自由な発想も生まれやすくなると思います。
上記の結果はカンターが、米国のMASB*(マーケティングアカウンタビリティ規格委員会)によるMMAP審査プロセスを経て「企業の財務実績につながるマーケティング指標」 として認定されている、MDF(エム・ディー・エフ)というブランドエクイティ評価ツールのサービスを用いております。MDFは、グローバルカンター全体で使われている、長年にわたり検証されてきたブランド評価ソリューションです。継続的にブランドエクイティ評価をされたい場合に効果的なツールとなっております。
また、この他にもブランド資産価値測定を目的としたシンジケート調査BrandZも定期的に実施しており、このBrandZで測定された世界中のブランドのパフォーマンスやインサイトを無料で閲覧いただけるサービス「Kantar Brandsnapshot」 も提供しております。このKantar Brandsnapshotについてはこちらからご覧ください。
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