サステナビリティに関する大きな論点 

論点:消費者の行動変容を促すにはコストがかかり、直接の売上につながらないことを考えると、ブランドはサステナビリティを優先すべきではないのか? 




今回お届けする討論会は、カンターが毎年主催しているサステナブル・トランスフォーメーション・カンファレンスの一環として開催されたものです。2023年のテーマは「サステナブルを実質的なものにする」で、以下のパネルメンバーにより討論会が行われました。 


Archie Mason    : True ディレクター
Jeremy Schwartz     : カンター サステナブル・トランスフォーメーション実行委員会議長
Jonathan Hall    : カンター サステナブル・トランスフォーメーション実行委員長、討論会議長
Preeti Strivastav      : アサヒ・ヨーロッパ・アンド・インターナショナル サステナビリティ グループディレクター
Rupen, Desai    : UnaTerra CMO兼ベンチャーパートナー、Shed 28共同創設者



討論会の背景

カンターがWFA(World Federation of Advertisers:世界広告主連盟)と共同で行った「サステナブルマーケティング2030」研究では、サステナビリティには進歩がみられることがわかりました。企業経営陣はますますサステナビリティに関与するようになり、マーケティングの管理指標にサステナビリティ関連のKPIも設定することが一般的になってきています。そしてサステナビリティをコミュニケーションのテーマにすることも、マーケティング担当者の間では一般的になりつつあります。


しかしながら、このような進歩であっても、サステナビリティに必要なスピードや規模という点ではまだ不十分です。2021年の調査では、マーケティング担当者の29%が自社のサステナビリティの取り組みが前進していると回答していましたが、2023年ではこの数字は15%に減少していました。マーケティングにおけるサステナビリティへの取り組みは依然としてスローのようです。


「サステナブルマーケティング2030」研究では、ビジネスモデルの作り直し、サステナビリティを行いながら優位性を生み出すイノべーションの必要性、サステナブルなライフスタイルを当たり前にする消費者啓発、サステナブル・トランスフォーメーションを大きく推進させるためのパートナー企業の必要性、バリューチェーンにおけるマーケティングの役割の拡大などに、これからのサステナビリティの成長機会があると結論づけられています。


その結果、最終的には「価値観の再定義」、「サステナビリティの最優先化」、「徹底的に行うイノベーション」、「サステナブル・トランスフォーメーションに向けた協力関係」、「創造力を行動に移す」を5つの柱とするマーケティングの循環型フレームワークが得られました。 




驚くべきことに、変革を阻む障壁の上位7つはすべて社内の組織に起因するものでした。これらは、パフォーマンスの測定の仕方が分からないとか人手不足といったシンプルなものから、意識の持ち方やの能力の問題、地球環境と企業利益を同じように考えるP&Lポリシーの欠如、社内リソースの不十分な割り当て、深刻なスキル不足といった問題まで多岐にわたりました。 


また、サステナビルに行うにはコストがかかると社内では認識されており、これが行動を妨げる大きな要因となっています。そこで、今回の討論会ではこれを論点におくこととしました。


「ブランドはサステナビリティを優先すべきではない」:賛成派の論旨 

Archie Mason:

True ディレクター



Jeremy Schwartz:

カンター サステナブル・トランスフォーメーション実行委員会議長




賛成派の論旨は、ブランドやビジネスにおけるサステナビリティの必要性は認めるが、その他にもビジネス上で重要で考慮しなければならないことがあり、サステナビリティだけを重視すべきではない、というものです。


ビジネス上の意思決定の中で、サステナビリティはどのように位置づけされるべきか?

サステナビリティは、消費者、政策立案者、小売業者、ブランドなど、今後すべての人がこれまで以上に考慮すべき重要なテーマであることは間違いありません。討論では、ブランドが重要な意思決定をする際にサステナビリティをどの程度優先すべきなのかについて意見が交わされました。投資をすべきかの判断、マーケティングで対応すべきかの判断、サプライヤーの決定、あるいはどのような新しいビジネスモデルやイノベーションテクノロジーが生まれてくるのか、未来を切り開くテクノロジーは何か等についての考察、こうした判断のすべてが将来のブランドの成功を左右します。


商業的に成功させることの重要性 

ブランドは、さまざまな利害関係者を抱える商業組織です。商業的な成功がなければ、従業員、サプライヤー、投資家など、ブランドに関連する人たちを支えるビジネスがなくなってしまいます。どのような判断も商業的に成立するものでなければなりません。どれだけのコストがかかるのか?サステナブルなブランドに変更するように消費者を説得できるのか、そして売上増につなげられるのか? こうした問いに明確に答えられなければ、サステナビリティを第一に考えることは難しいし、商業的な要求から考えても最適な戦略とはいえないことになります。


競合優位性で勝ることの難しさ

競合優位性がもつパワーの凄さは、すべてのマーケターが頭の中に入れておくべきことです。ブランドの活動を通じて競合他社よりも多くのシェアを獲得するためには、3つのC、Cost(コスト)、Convenience(利便性)、Comfort(快適性)が重要となります。 

市場シェアを拡大し、競合他社より優位に立つことを目標に、どの企業も利益を最大化し、製品に最も競争力のある価格を提供するために、コスト削減に執念を燃やしています。ところが、サステナブル商品はコストで負けてしまっています。カンターの分析によると、サステナブルを謳った製品の70%は、標準的な製品よりも少なくとも70%も高くなっています。これでは競争優位性は低下するだけで、ユニリーバやダノンの前任CEOにとって、サステナビリティを取り入れることが頭痛の種であった理由もおそらくここにあります。

第二のCであるConvenience(利便性)の重要性を考慮すると、サステナブルな製品はどこにでも売っていて、手間がかからずストレスのないものでなければなりません。残念なことに、ほとんどのサステナブルな製品は利便性が低いため、競争優位性を失っています。

最後のCは、お気に入りのブランドを購買することで得られるもの、つまり卓越した性能と情緒的なベネフィットによる、Comfort(快適さ)です。サステナブルであることは、性能評価を低下させるリスクがあり、最悪の場合、情緒的な魅力も低下する危険性があります。 


ブランドがいくら取組んでみても、石油大手と金融大手が決定力を持ってしまう 

私たちは、政治面でも金融面でも世界経済が最終的に大手石油会社と大手金融会社に支配されている世界に住んでいます。この2つのどちらも、もしサステナビリティが利益の邪魔になるのであれば、サステナビリティを歯牙にもかけないでしょう。この討論会の間だけでも、70万バレルの石油が地中から汲み上げられ、22,000機の航空機が18,000トンの炭素を排出し、500台の新車が販売されています。その規模を考えると、サステナビリティに手を出しているFMCGブランドが、地球にも気候変動の逆転にも実質的な影響を与えることはかなり難しいと言えます。

大手石油会社の圧力は、シェルの新CEOがいい例だと思います。新CEOは、石油に較べて相対的にリターンの低い再生可能エネルギー事業をすべて売却し、今後は石油事業にフォーカスすることを決定しました。そのことにより、大手金融会社から巨額のボーナスがもらえることになるのです。金融機関は競合他社に劣る株主還元を容赦しないため、サステナビリティを支持するCEOは今後も大きなプレッシャーに直面することになるでしょう。


サステナビリティは誰の責任なのか? 

FMCGブランドの活動が、サステナビリティの考え方に何らかの価値を与えたり、気候変動を元に戻すことに役立ったり、商業的観点から見た価値を提供できると考えるのは、いささか人が好過ぎるかもしれません。消費者の行動変容をリードする責任は、消費者にサービスや製品を提供しているブランドにあるわけではありません。ブランドは勿論サステナビリティを考慮すべきではありますが、世の中にポジティブな影響を与えたいという願いと商業的に成長可能なビジネスにする必要とのバランスを考えれば、このサステナビリティを過度に優先させるべきではありません。


消費者がサステナブルな選択肢を本当に望んでいるなら、実際に購買しているはずでは?

気候変動に関する消費者の認識は高まりを見せているものの、こうした認識は実際の購買行動に有意につながっていないようです。数え切れないほどの調査で「サステナブルな製品やブランドにもっとお金を払うつもりがあるか」という質問がされており、ほとんどの調査の60~80%の消費者が肯定的な回答をしているにも関わらず、です。

カンターの2023 Sustainable Sector Indexによると、各消費財分野の消費者の平均81%がサステナブルなライフスタイルを送りたいと回答しています。その一方で、多くの消費者向けパッケージ商品の企業経営者がESG経営を行う上で難関となるのが、サステナブルな製品に対する消費者の需要が十分に作り出せないことにある、と報告されています。残念ながら、この地球上にいる人類の60億人は消費することだけが大好きで、それを控えることを考えていません。

現実には、ほとんどの消費者の頭を占めているのは、依然としてコスト、品質、利便性の3大要素です。これを変えることは非常に難しく、すぐに実現できることではありません。また、規制環境や、社会の移行を支援するための政府や政策立案者の決定事項など、ブランドがコントロールできないものにも左右されてしまいます。新しい社会規範が出来上がるまで、気長な日々を過ごさざるを得ないわけです。


挑戦し、失敗した多くのブランド 

サステナビリティを謳(うた)った新商品を発売したものの、売れ行きが芳しくなかったという話はよく聞きます。

英国での電気自動車への移行は減速してしまいました。英国の植物性由来食品部門は、2023年に最も急速に落ち込んだ食料品カテゴリーでした。高級ベビー用品の電子市場のキンドラは、収益で苦戦した挙句に2022年に倒産してしまいました。ファッションの分野では、スレッド・アップ、レント・ザ・ランウェイ、スリフテッドのように好調な滑り出しを見せた新しいビジネスモデルの例が数多くありましたが、それ以降は明らかに衰退を示しています。 好調なスタートを切ったものの、その後急降下するサステナブルなブランドは増えています。



サステナビリティを優先する時のコストの問題 

さらなる課題は、サステナビリティを優先することで生じるコストと複雑さです。サステナビリティを実施していくには、100%サステナブルな企業でなければ意味がありませんが、そのためには、企業の事業モデルやビジネスモデルを根本から変える必要があります。現実的には、それを行うためのコストは商業的に両立させるには高すぎてしまいます。

もしブランドが純粋にサステナブルになろうとするのであれば、直営事業全体で再生可能エネルギーへの投資を行う必要があります。またはサステナブルな原材料の調達、これは通常かなり割高なものとなります。またはサプライチェーン全体の再構築、これも多くの場合法外なコスト増となります。あるいは、新しいパッケージ素材への切り替え、これも現在のものより割高となるのが通常です。このように数え上げればきりがありません。

こうしたコストと、サステナブルな実践がもたらす長期的なベネフィットやコスト削減効果を比較すると、割に合わないことが多いと思います。サステナビリティに焦点を当ててしまうことで、経営資源を利益重視の戦略からそらすことになりかねません。ブランドは、何よりもまず成長可能なビジネスでなければなりません。それができて初めて、より広範な社会的目標のことも考えることが出来るようになるのです。



サステナビリティはどのように取り組んでいけばいいのか? 

どこかの動物を救おうといったCSR的に聞こえのいいアピールをすることと、小さな実績の積み上げでしか成り立たない本当にサステナブルな製品を実際に提供していくことは、全くの別物と考えるべきです。このことをはっきりさせて自らを欺かないようにする必要があります。サステナブルな技術のリーダーとして早期に投資するつもりなのか、それとも他のブランドがより優れたスステナブルな技術を開発するのを賢く待つつもりなのか、をはっきりさせる必要があります。誰かがコストや投資をかけて試行錯誤を行った後にそれらの技術を採用すればいいのです。未来に対し賢明でサステナブルであるためには、別に一番乗りをする必要はないのです。


今日の世界の現実 

もちろん、気候変動は起きています。そして洪水や災害も目に見えるところで起こっています。単刀直入にいえば、これはもはや不可逆的で、気温上昇は1.5度を超えやがて2度に達することになります。残念ながらどんなブランドであれ、この気候変動の勢いを逆戻りさせるような影響力を持つことはゼロに等しいと言わざるを得ません。

金融資本の財務指標の見方が変わり、市場がサステナビリティのような新しい評価指標を採用すると考えるのは希望的観測にすぎないことを理解すべきです。ブランドオーナーがブランドを守っていくには2つの選択肢があります。サステナブルなアイデアに手を出して「遊んで」みたり、試してみたり、投資したりする余裕のある企業の方々はそのまま続けていただくのがいいと思います。その他の多くのマーケティング担当者にとっては、上司が喜ぶのはブランドを成長させ、市場シェアを増やし、競争上の優位性を高めることであり、他社が開発したサステナブルな製品を見つけて自社でも製造可能ならそれをコピーして済ませれば足ります。そうした方が費用対効果は高いからです。サステナビリティで「遊ぶ」のではなく、利益を得ることを本質として集中すれば、望みどおりの昇進も得やすくなるはずです。


「ブランドはサステナビリティを優先すべきではない」:反対派の論旨 

Rupen, Desai:

UnaTerra CMO兼ベンチャーパートナー、Shed 28共同創設者 


Preeti Strivastav:

アサヒ・ヨーロッパ・アンド・インターナショナル サステナビリティ グループディレクター




反対派の論客は、この「サステナビリティは優先すべきではない」というテーマ自体が図々しい利己主義の表れだと捉えています。サステナビリティは、かつてないほど必要不可欠なものとなっており、これを支持する多くの論拠があるとしています。


気候変動とは何か?

気候変動とは、単に暖かく、日照時間が長くなることだけではありません。気候変動とは、洪水、干ばつ、食糧不足、生計手段の喪失、不毛の風景、避難民など、さまざまな問題を含む無視することのできない重大なテーマであり、すべての人が最優先に考えるべきことです。


どの「資本」を追求するのが正しいのか?

1971年、ミルトン・フリードマンによって企業が負うべき唯一の責任は利益を増大させることであることが喧伝(けんでん)されました。また彼によって、重要な資本は金融資本だけであり、ブランドと企業の唯一の役割は、この金融資本を株主に還元することであるという公式が作り上げられました。

そのため、私たちはいつの間にか「自然資本」や「社会資本」、公平性や平等性といったことを忘れてしまったようです。金融資本を増やすためだけに地球から資源を奪うということがどんなことを意味するのかを忘れているようです。ジョン・メイナード・ケインズが言ったように、「一番難しいことは、新しいアイデアを作ることではなく、古いアイデアから逃れることである」のです。


サステナビリティとは、必ず割高でやっかいなものになってしまうのでしょうか?

サステナビリティのコスト上の懸念のほとんどは、「ビジネスの在り方を現状維持したまま、その脇にサステナビリティを加えることはできないか」という妥協的な考えから生じている。サステナビリティを語る時、これまでのビジネスの在り方を想定するのではなく、ゆるやかに世界を良くしていきながらビジネスもシステム的に変化をさせていくことを考えるべきです。

これは短期的には高くつくし、厳しいことかもしれません。しかしながら、真の変革やイノベーションとは、現状を改善することではなく、より良い結果を生み出すために二律背反的な条件をどのように克服してみせるかにあります。例えば、ペットボトルを使わずに爽やかな飲み物を提供するにはどうしたらいいのでしょうか?あるいは、砂糖を使わずにおいしいチョコレートを作るにはどうしたらいいのでしょうか? 

ボディ・ショップの元CEOで、現在はカンター のサステナブル・トランスフォーメーション実行委員会の議長を務めるJeremy Schwartz氏が、視点を変えて見直すことの素晴らしい例を語ってくれました。「P&Lを見る時に、水準を充たさない非サステナブルな製品に費やされている販促投資額を含めて見直すと、サステナビリティが高いとは急に感じられなくなります。サステナビリティは難しいことでも面倒なことでもなく、ビジネスの見方がたまたま違っているに過ぎません。本当のサステナビリティを実現しようとするなら、ビジネスとは何なのか、どうあるべきかの見方を変える必要があります。」

またパネリストのPreeti Strivastav氏はこう語ります。「サステナビリティが高くつくという時、「高い」というのはどのように定義されているのでしょうか?何と比較しているのでしょうか? FMCG企業のCEOや経営陣がブランドにサステナビリティを取り入れるのは高くつくと言わせる計算の根拠は何でしょうか? もしかしたら、きちんと計算をしてないから高く見えるだけで、それだけで高いという定義を済ましてしまっているのかもしれません。こうしたことが問題の本質をはぐらかしてしまっています。」

本当のサステナビリティを実現しようとするなら、ビジネスとは何なのか、どうあるべきかの見方を変える必要があります。今日から私たちが始めなければ、私たちの子供たちの世代が2073年までに国連の開発目標を達成することはできなくなるでしょう。それは2090年までかかってしまうか、あるいは子供たちが生きている間には実現不可能となってしまうでしょう。



サステナビリティは、実際に売上促進と競争優位性をもたらすことができるのか?

テーマの賛成派論客は、サステナビリティは売上を促進しないと考えています。何の意味もないサステナビリティをブランドにくっつけても、何の意味もなく、売上は上がらないし、上がるはずもない。弱々しいサステナビリティのアピールは溢れているが何の意味もありません。もし企業が、製品を「グリーン」や「エコ」と呼ぶだけで売上が伸びると考えているのであれば、確かに売上は伸びないでしょう。

しかし、そこに意義性と信憑性を付与すれば、売上は伸びます。賛成派論客は、うまくいかなかったブランドをたくさん挙げていましたが、逆にサステナビリティがもたらす機会をうまく活用することで、実際にうまくいったブランドもたくさんあります。

ビール・カテゴリーを例にとると、ビールブランドは「よりよいおいしさ、よりよいパッケージ」という手札を使い果たしていました。サステナビリティに目を向けることで、ブランドは目新しく鮮度感のある差別性と競争優位性を獲得することができました。ペローニはサステナブルな農業のブランドですし、チェコ共和国のトップブランドであるラダガストは節水のブランドで、ポーランドのズーブルは絶滅危惧種保護のブランドといった具合です。ビール以外をみてもパタゴニアからイケアまで数多くの成功例があります。サステナビリティによる商業的成功は実現可能で、売上成長と収益性をもたらしてくれます。



コストと成長の関係性を新しいモデルで再定義する

ビジネスではコストが最小限になる方法を選ぶべきであるという考え方には疑問があります。これまでのモデルでは、成長、売上高、投資効率といった定義と計算や定義にのみ焦点が当てられてきました。それが今変わりつつあるのです。フォーチュン100社に名を連ねるすべての企業が、インターナル・カーボン・プライシング(企業が自社のCO2排出を抑えるために排出炭素に対し企業内独自で価格付けを行い投資判断等に活用する手法)を導入しており、製品やブランドに投資している実際のコストが確実に把握されています。 

アサヒビールでも、排出炭素の企業内コストをモニターして把握しています。CEOをはじめとする最高経営陣全体の賞与は、EBITDAではなく、サステナブルEBITDAで決められています。FMCGカテゴリーのほとんどすべての競合会社でも同様のことがなされていると思います。

サステナビリティは新たな収益を生み出すこともできます。グーグルは再生可能エネルギーを供給するために風力発電を行っています。産出された余剰のエネルギーが販売されるようになり、証券市場では公共事業会社としても認識されています。

このように、成長と売上だけに焦点を当てることには疑問を感じます。成長をこのように捉えるモデルは不完全で時代遅れのように思います。サステナビリティにかかる総コストを全てのブランドと製品のひとつずつに織り込んでいけば、実際のコストは下がることになります。

我々は発見の原理(大航海時代の、領土を発見した国が優先的に扱われるという考え方)に立ち戻り、粛々とシステムを変え始めていく必要があります。変化はすでに起きており、我々のような立場の人がビジネスの目標や目的、売上成長についての考え方を再定義し、投資と収益の計算の仕方も徐々に変えていく必要があります。


サステナビリティを事業の中心に据えるべきである

サステナビリティを、価格の決定、サプライチェーンの決定、計画策定、調達の決定といった事業上の判断の中心に据えることで、今日の消費者だけでなく明日の消費者、そしてその子供やさらにその跡継ぎたちに向けて長期にわたって創発できるブランドや事業となれます。これは事業の存続という問題であり、近視眼的に目先のコストや労力だけを見てはならないと思います。

サステナビリティの最高責任者であれ、広告代理店であれ、市場調査会社であれ、あるいはCMOであれ、Jane Goodallの引用句に帰結します:

「自分の人生という贈り物を、世界をより良くするために費やすか、そんな面倒なことをせずに済ますか、誰でも自由に選ぶことができる」


今回のテーマに賛成の人であれば、この引用句に「短期的に見れば少し高くつくし、ちょっと面倒臭いから、そんなことはわざわざせずに済ませる」と付け足すでしょう。地球の未来と社会の未来は、私たちの世界の資産であり平等性に分かち合うものであり、優先されなければいけません。サステナビリティを軽視し、金融資本への配当で株主を満足させるためだけに資源を奪い続けてはならないはずです。私たちの子供たちに少しでも良い世界を残したいのであれば、「地球」への配当と「社会」への配当も十分に考慮すべきです。

Preeti氏はこう語ります。「ブランドは、何百万人もの消費者や市民とつながるための最も強力な手段です。そして、科学的に明瞭なように、私たちはこの転換点にもう一歩踏み込んでいかなければいけない今日の時代、サステナビリティを優先せずにブランドの成長だけに焦点を当てて、世の中にポジティブな貢献をすることを考えないというのは、率直に言ってもはや許されないことのように思います。」


サステナビリティを優先しないことの影響 

国連の「サステナブル(持続可能)な開発目標」を達成できるのは、2030年ではなく早く見積もっても2073年であることが判っています。世界のプラスチックの膨大な割合が、いまだにリサイクルされていません。私たちは自分の娘に、男女平等が実現するには131年かかることを伝えなければいけません。何故ならブランドや企業はサステナビリティを優先させない方が楽だと考えているからです。ため、男女平等を達成するには131年かかる。未来の世代と彼らが生きる世界のために、今私たちが責任を果たすことが、人道的に極めて重要です。

賛成派が主張する、すでに勝負はついており、石油資本や非公開資本の悪いオオカミが変革を難しく面倒なものにしているという点については、傾聴し同意もできます。サステナビリティを支持したCEOたちというのは、私から見れば先見性のある方々なのですが、負け戦を戦っていたのに過ぎず、我々もBPのCEOのボーナスを増やすために頑張っているようなものかもしれません。

しかし我々反対派としては、株主のために生み出される財務的見返りだけでビジネスが評価されるという現状を拒みたいと思います。

私たちは地球的価値と社会的価値が受け入れられた未来を望んでいます。私たちが行う全てにおいて、この点が充分に考慮されるべきです。

プラスチックが便利なものだと言うとき、海に浮かぶプラスチックや世界中の海岸線を埋め尽くすプラスチックの写真を思い出してしまいます。ちょっと難しくて困難が伴うやり方を避けるような決断を受け入れるべきではなく、少しずつ未来をいい方向に変えていくようなやり方を選ぶべきです。もしサステナビリティを軽視したり無視したりすれば、私たちが次世代に残す世界はより酷いものになってしまい、何らプラスの痕跡を残すことはできないでしょう。Preetiと私はサステナビリティがビジネスモデルの中心となることを切に願っています。 

そうしなければ、世界は賛成派のJeremy氏が描いたような、石油資本が勝利する世界になってしまいます。サステナビリティで善戦するCEOも消え去ってしまいます。世界の未来のために私たちが正しいことをする機会が、なくなってしまいます。





※カンターのSustainability Sector Index 2023は、マーケティング担当者が消費者の共感を得られる形でブランドのサステナビリティ戦略の基盤を構築するための画期的な調査です。33カ国、42カテゴリーにわたる32,000件のインタビューから得られたデータをもとに、消費者はどのように行動し、自分にとって何が本当に重要なのか、現在カテゴリーをどのように認識しているのかを明らかにします。Sustainability Sector Indexは、ブランドがどこでどのように活躍できるかを示し、マーケティング担当者が商業的リターンを得るとともに、国連の持続可能な開発目標と戦略を結びつけることを可能にします。


※この記事は、カンターのMaking Sustainability Real カンファレンスから抜粋した6つのシリーズ記事の一部です。カンファレンスの模様はこちらから登録後、オンデマンド(言語:英語)でご覧いただけます。 


原文:https://www.kantar.com/inspiration/sustainability/the-big-sustainability-debate 
翻訳監修:堀義弘 



カンターでは、このようにブランドとサステナビリティに関する知見を多く持っており、皆様のビジネスを成功に導くお手伝いをしています。ブランドやサステナビリティに関する調査のご相談は下記よりご依頼ください。

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