マーケターのためのブランド戦略
マスターブランドとコーポレートブランドについて解説

ブランドの階層とマスターブランド

さまざまな企業の皆様とブランドに関するお話をする中で、企業ブランド、商品ブランド、マスターブランド、サブブランド、ペアレントブランド、バリアントブランドなど、さまざまな接頭語がついた「ブランド」が登場します。この接頭語は実用面でも意味を持っています。例えば、広告はサブブランド単位で行っているものの、店頭での販売促進はバリアントブランド単位で行っており、調査はどのブランドで行ったらよいのかといった話が起こるからです。また、企業ブランドと商品ブランドの関係性や支援貢献関係の可視化の課題をいただくことも増えてきています。ブランド間には階層構造があり、これらの関係性をブランドアーキテクチャーと呼んでいます。階層の中で中心となっていると考えられるのがマスターブランドです。

例えば、おいしいラーメンが食べたい、味噌ラーメンが食べたいというときに、頭に浮かぶラーメン屋さんの名前がマスターブランドになります。そして、マスターブランドを有名にしたり、評価を決定づけたりするのが旗艦(基幹)ブランドです。また、「味噌ラーメンが有名なXXX軒は、塩ラーメンも結構いけるよ」といったような場合、XXX軒の塩ラーメンはサブブランドとして認識されることになります。いずれのブランドでも、更に種類(SKU)の違いがあるのが一般的です。下図はラーメン店を例にマスターブランドの構造を示したものです。



マスターブランドとコーポレートブランドとの違いとは

マスターブランドと同じブランド名がコーポレートブランドとなっている場合、同じブランド名であっても評価されるポイントが異なります。マスターブランドであれば顧客の体験価値に基づく評価であるのに対し、コーポレートブランドの場合は、顧客だけではなく、社会、投資家、従業員、取引先などのより多くのステークスホルダーに見られる存在であることもあり、リーダーシップや責任感、業績の良さや価格の公正さといった評価軸が追加されることになります。リーダーシップとは、例えば最初に味噌ラーメンを開発したり、常に新しいタイプの味噌ラーメンを発表したりするなど、物事や業界に先鞭をつける企業体質を指します。

下表は弊社グローバル実施のブランド調査において、全カテゴリーを対象にしたときにコーポレートブランドに貢献の高い項目を示したものです。ここでは誰もが聞いたことがあるブランドが調査対象となっておりますが、そのような企業の場合、公的な責任感が問われます。責任感の内訳をみると、サステイナビリティ意識の高まりを受けて対環境が最も高く、対社会や対社員への企業責任が続きます。

参考:KANTAR RepZより引用・加工


消費者から見たブランド階層間の関係性

マスターブランドを軸にブランド階層間の関係性を見た場合、旗艦ブランドからマスターブランドへのブランド貢献度が高いです。ただし、他のサブブランドが成長するなどマスターブランドの力が拡大している場合は、マスターブランドから旗艦ブランドへのブランド支援効果も高まります。旗艦ブランド以外のサブブランドはマスターブランドからのブランド支援効果を狙ってサブカテゴリ―に拡張されることが多く、導入当初のマスターブランドへのブランド貢献力は低いことが多いようです。

一方で、マスターブランドとコーポレートブランドとの間にもブランド支援・貢献があるが、コーポレートブランドがマスターブランドと異なるブランド名を持つ場合は、関係性は薄まります。(例えば、SK-IIの認知に対してSK-IIがP&Gから発売されていることを知っている人が少ないといった例です)

マスターブランドとコーポレートブランドとの関係性

消費者は購買決定を行った際に、自分の判断が正しかったことを確認しようとします。「信頼性」は自己の判断に裏書を与えてくれる重要な根拠となります。裏書効果は、これまでのマスターブランドのブランド体験からも、企業の日頃の活動への評価によるものからも得られます。消費者の視点からすると、大事なのは「信頼できる」ことの確信を得ることであり、それがブランドによるものか企業によるものかを区別することは無意味になります。そのためブランドへの信頼性評価とその企業への信頼性評価は非常に高い相関を示し、どちらもほぼ同じことを意味します。

Base: 2213 brands across categories Japan from 2014 to 2022

消費者の評価の差が大きいマスターブランド

企業の評価の場合は「知名度が高い大きな会社であればそれなりのことをやっているはず」という期待値が働き、最低値が平均値に近くなる半面、最高値も平均値よりかけ離れたものになりにくいです。ところが、マスターブランドの評価は実際のブランド体験に基づくため、その評価は「気に入ったものは際限なくいいが、気に入らないものは際限なくダメ」とはっきりとした評価を受けやすい傾向にあります。そのため、両者の評価の相関性はそれほど高くありません。コーポレート評価をある程度とれていても、マーケットシェアに影響するマスターブランドとしてのパワーは大幅に下回る、または大幅に上回ることが多いのです。

実際のブランド階層の例

企業の存続と成長をさせていくにあたって、厳しい競争環境下では消費者のニーズも多様化しているため、必然的にブランドの商品ラインも拡大・複雑化します。ブランドアーキテクチャーあるいはブランドポートフォリオと呼ばれるブランド階層構造の管理は企業にとっての重要な課題であると同時に、時として難題となります。消費者においても同様にブランド階層構造の理解は難題であり、競合が多くブランド階層が複雑であれば「何を選んだらいいかわからない」状態となります。これを解決するのが「ブランド」であり、マスターブランドは商品選択に明確な指針を与えてくれます。

下記はトヨタの例です。ミニバンの中には、アルファード、ベルファーレ、ボクシーなどが並び、セダンの中にはクラウン、カローラ、カムリなどが並ぶブランド階層になっています。


参考:TOYOTA WEBサイトをもとに作成


マスターブランドの決まり方

ブランドを管理する提供側の視点でのマスターブランドと、消費者間で形成されたマスターブランドにずれが生じることは少なくありません。なぜなら、消費者が購買を決定する際はブランドを参照しますが、その参照の基軸となるのが消費者にとってのマスターブランドになるからです。

トヨタの自家用車を例として説明すると、もしニーズが「燃費が良いファミリーカー」であり、そこでプリウス思い浮かべる人が多ければ、マスターブランドはプリウスとなり、他の車種と比較検討されます。その場合、TOYOTAはプリウスを支援するブランドであると位置づけられます。

一方で、購買検討の際にまず初めにTOYOTAが検討されている場合、TOYOTAがマスターブランドとして位置づけられます。



大事な点は、ブランドポートフォリオは企業側がビジネスを最大化するための戦略ツールとして、管理・調整できるものである、という点です。市場調査を通じて、消費者が頭の中に持つブランドの階層や、パーセプション形成のされ方、支援貢献関係を把握することで、マーケターは効果的にポートフォリオ戦略として主導し、ブランドを育てていく方向性を導くことができるのです。



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