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[調査]中国の低所得層(『GEMS - 新興市場からのインサイト -2012年2月版』より)

Ashok Sethi
Head of Consumer Insights, TNS


中国におけるBOP/BoP in China - 世界で2番目に大きい高級品市場 -


中国における市場の基礎


BOP(Base of the Pyramid又はBottom of the Pyramid 低所得層)は、たびたび中国に関連付けられる言葉ではありません。中国は、中流階級の急増と高級品市場を通じて世界の注目を集めるようになりました。それゆえ、世界の底辺というよりむしろ頂点として認識されるようになっています!しかし、中国のBOPは、世界のBOP同様に魅力的な市場となりえます。また、慈善的な視点からだけでなく、ビジネスターゲットとしても見られる必要のあるセグメントです。


BOPの定義


「Bottom or base of the Pyramid」という言葉は、多くの異なる意味で使用され、様々な定義と解釈がなされてきました。我々は、エコノミストたちがしばしば極貧層 - 生計を立てる能力(基本的な生存手段)を持たない人々 - として言及するグループと混同しないように注意する必要があります。我々のいうターゲットグループは、ピラミッドの「下位中流」層 - 生活必需品+αを購入するお金を持っている人々 - です。世界資源研究所*は、BOPを年収3,000USドル未満(2002年の購買力平価ベース。つまり一日8USドルの収入)の人々と定義しています。このグループのうち、約10億人が極貧であり、一日1ドルの稼ぎもなく、しばしば生活に窮しています。しかし、この層より上の16億の人々は一日1-2ドルを稼ぎ、多くを生活必需品に費やします。11億の人々は一日2-8ドル稼ぎ、かなりの可処分所得があります。


中国は貧困をなくすことで大きな進歩を遂げてきました。したがって、BOPグループの最下層のサイズは大幅に縮小しています。しかし、BOPの中位・上位セグメントは、かなり大きくなっています。- これは、 世界資源研究所が2009年に調べた5億人近いBOP中位セグメントと約3億人のBOP上位セグメントに属する中国人の情報をボストン・コンサルティング・グループと世界経済フォーラムが分析したものに基づいています。(注:他の調査では、これらのグループは中間所得層の下位に分類されています。)


中国におけるBOPは誰ですか?


中国のBOPは、どの特定のグループ(例えばインドのような他の新興市場における農業従事者)にも支配されない異質な集団です。中国には、BOPの中位または上位に位置づけられる幾つかの消費者セグメントがあります。これらは次のとおりです。


・小区画の土地で働く農村部の農民(国家統計局によると、2010年の農村部の中国人一人当たり可処分所得は年5,919人民元でした。これは、現在の為替レートベースで1,000USドル未満です。)
・2億人超の農村からの出稼ぎ労働者。彼らは都市の工場や建設現場で働き、都市の住民に低スキルのサービスを提供します。彼らの賃金は、月1,000-3,000人民元で、BOPの上位セグメントに位置づけられます。
・都市で働く未熟練労働者、工場労働者、小規模貿易商。彼らの賃金は、出稼ぎ労働者と同様のレベルです。
・拡大する60歳以上の退職者人口。彼らはささやかな年金で生計を立てています。(中国は急速に高齢化しています。2010年の国勢調査によると、上海の人口の22%が60歳以上です。)
それゆえ、中国のBOPをターゲットにするには、商品やブランドの消費や選択に影響する多くのパラメーターが違うので、異なるセグメントには異なる戦略が必要になります。


中国におけるBOP消費者のニーズ


中国のBOPには、幾つかの典型的な目立つ特徴があります。まず、極めて識字率が高く、インフラがよく整っているので、中国のBOPは、比較的よく繋がっており、お互いの存在を意識して生活しています。第二に、農村部の家庭100件に112台のテレビがあります。これは、不利な立場にある消費者ですら比較的よく情報を得られていることを意味しています。第三に、世界の大部分でBOP消費者は、政治的・社会的対立の真っただ中にいます。それが彼らの窮状を悪化させ、商品やサービスへアクセスする妨げとなっています。しかしながら、中国の環境は比較的安定しており、ターゲットグループの生活水準を改善するのに障害とはなりません。


我々はこれらの重要な相違点を認識する必要がある一方で、彼らが世界の他の国のBOPと共通する要素を持っていることを認識する必要もあります。彼らはまた、低所得者でかつ収入が変動しやすい人々であり、多くの商品にとっては最初の消費者です。最も重要なのは、彼らは入手のしやすさとアクセスの両面で不利な立場にあるけれども、重要な商品、サービスそして彼らや子供のよりよい生活の質を享受する機会を猛烈に追い求めています。


中国におけるBOPマーケティング


このような大規模で異質なターゲットグループを理解して、マーケティング担当者がこのグループにどのように取り組むかについて無差別にアドバイスすることは、一般化しすぎるリスクをはらんでいます。しかし、我々は、マーケティング担当者が戦略の実証として用いるとよい幾つかのポイントを挙げます。


◇機能を豊富に詰め込んだバンドル品を経済的な価格で売ること。


まず、マーケティング担当者は、BOPが、ベーシックな商品やサービス、すなわち中間所得層向けの付加価値の高い機能や装飾が付いていない商品やサービス、を提供される必要性を感じているとしばしば思いがちです。これは、中国やBOP消費者に対しては間違った戦略です。BOP消費者の高識字率や媒体の高露出度は、何が入手可能で、どんなベネフィットがあるかについて彼らが十分に慣れていくことができるようにしています。実際、中国のBOPに人気のある商品は、機能がいっぱい詰まっているけれど、中流階級の消費者が望むかもしれない美意識やある種の機能やつながりがあるものです。この例が、このセグメントに極めて人気の高い「Shanzhai」携帯電話(国産の携帯電話モデルで、iPhoneの機能をたくさんコピーし、他のハイエンドの携帯電話の何分の1のコストしかかからないもの)です。


◇マスメディアとローカルメディアのバランスを取ること。


中国のBOPは、マスメディア、特にテレビとは複雑な関係があります。テレビのリーチは非常に高く、テレビでの商品広告は、信憑性のあることを表明します。しかし、BOP消費者の生活環境は、ローカルメディアやチャネル(特に屋外のもの)を通じてリーチする多くの機会を提供します。ローカルメディアは、コストと日常の環境で消費者にリーチできるという点において、ナショナルメディアよりもしばしば優位性があるでしょう。このことを考えると、ブランドにとってローカルメディアに多く依存するだけでなく、ローカルへの広告として「CCTV(国営テレビネットワーク)で広告された」と主張できるようCCTVにたまに登場することは珍しくありません。


◇デジタルはBOPにも関係があること。


中国は、世界で最も携帯電話ユーザーが多いだけでなく、インターネットユーザーの数も最大級です。中国政府は、インターネットを農村部や離れた地域に住んでいる人々に力を与える重要な経済成長のツールだと考えています。農村部のインターネットアクセスは、飛躍的に増加し続けると予想されます。インターネットはまた、消費者により多くの商品やサービスへのアクセスを可能にするでしょう。
中国の電子商取引には、ウェブサイトやグループ購買オプションの豊富さといった、際立った特徴やユニークさがあります。これが極めて安く競争力のある商品を消費者に提供しています。これは、中国のBOPにマーケティングを行うとき、マーケティング担当者が「デジタル」を無視できないことを意味しています。- 電子商取引、ソーシャルメディア、オンライン上の口コミ全てを戦略に含める必要があります。


◇地方の小売戦略を展開すること。


大規模で組織化された取引モデルにより、中国のBOPの特定のセグメントには既にアクセス可能ですし、将来的にはますます取引が増えるでしょう。しかし、低価格帯の町とBOP消費者を次のターゲットと考えている小売チェーンは、地方の状況に基づいてカスタマイズすることが必要です。例えば、お店の開店時間は、人々のライフスタイルや労働時間に合わせる必要があります。商品選択を助ける店頭環境や各地の言葉で商品機能を説明できるトレーニングをつんだスタッフが重要な役割を担います。


◇生涯価値のブランディングを行うこと。


一般的な認識とは異なり、BOP消費者はブランドに価値を見出し、メインストリームの消費者が示す以上のブランドロイヤリティを見せます。BOP消費者は、本来あまり実験的なことをせず、リスクをとらず、軽薄なこともしないので、その商品を経験して満足していれば、自分の選択した方向やブランドに固執する傾向があります。もちろん、パワフルなブランディングがさらにその経験を高め、消費者との絆を作ります。実際、既にBOPの中に入り込んでいるブランドは、商品名をカテゴリー名として使用されるほどになっています。ブランド構築に努めるなら、実体のある商品のクオリティに重点を置くべきです。BOP消費者は、感情的アピールに影響を受けないわけでもありませんけれど。もちろん、特定のアピールは、感情的なファクターを中心にしてもよいです。大事なのは、それらのファクターがBOP消費者に共鳴できるファクターであること、つまり家族を守ることやより良い生活を夢みること、特に子供へ強い願望を抱くことなど、です。


*The Next Billions:Unleashing Business Potential in Untapped Markets。 世界経済フォーラム。2009年1月。
http://www3.weforum.org/docs/WEF_FB_UntappedMarkets_Report_2009.pdf


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